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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第6章:いざ東の国へ! 霊界タクシーと小さなおどおど弟子

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第76話 霊界タクシーと、オカンの海上説教

 ザブ、ザブと波を掻き分けながら、うちは気絶寸前の海賊のボスの首根っこを掴み、霧の中から現れた不気味な「幽霊船」の側面にぶら下がっていた、ボロボロの縄梯子に手をかけた。

 ギシィ……と、体重をかけるたびに嫌な音を立てる縄梯子を登り、ようやく甲板へと這い上がる。


「……あー、もう最悪や! せっかくの特注スカジャンが、塩水でビショビショやんか! これ、クリーニング代ほんまに高くつくで!」


 うちは甲板にどさりと海賊のボスを放り投げ、自分の長いピンクブロンドの髪から滴る海水を鬱陶しそうに絞った。

 不老不死の身体やから風邪は引かんけど、濡れた服が肌に張り付く不快感だけはしっかりある。ホンマに腹立たしいわ。

 足元の甲板は、長年海水を吸って腐りかけており、青白い燐光がぼんやりと周囲を照らしとった。


「……ひっ、ひぃぃ……。た、助かったのか……? いや、ここは……」


 むさいおっさん(海賊のボス)が、ガタガタと震えながら身を起こした。

 その独眼が見開かれ、声にならない悲鳴を上げる。

 無理もない。うちらの周囲には、いつの間にか、半透明のドロドロとした「亡霊」たちが、何十体もうようよと集まってきとったからや。


『……うらめしや……。海は……冷たい……』

『……息が……できない……。光の届かない……海の底は……』


 ボロボロの船乗りの服を着た亡霊たちが、空ろな目でうちらを取り囲み、冷たい手を伸ばしてくる。

 海賊のボスは「ギャアアアッ! 今度こそ死んだぁぁっ!」と頭を抱えて甲板にうずくまってしもうた。


「……やかましいわ! あんたら、いつまでジメジメしとんねん!」


 うちは腰に手を当て、亡霊たちに向かって容赦ない怒声を浴びせた。

 亡霊たちが「えっ?」という顔をして、ピタリと動きを止める。


===========


 うちはアイテムボックスから、愛用している「特大ゴミ拾いトング」と、「水晶玉」を取り出した。

 水晶玉を通して霊的な波長を合わせ、トングの先端に気を込める。


「寒い、冷たい言うてる暇があったら、ちょっとは身体動かして温まりなはれ! ほら、そこのあんた! 未練たらたらで海に漂ってるから、そんなドブみたいな色になるんや!」


 うちはトングを伸ばし、一番手前にいた亡霊の襟首を、ガチン! と物理的(霊的)に挟み込んで持ち上げた。


『ヒィィッ!? な、なんで生きてる人間に掴まれてるの、俺!?』


「おばちゃんを舐めたらあかんで。……水晶で見せてもろたわ。あんたら、大和郷やまときょうへ行って一攫千金を夢見とった商人や船乗りたちやな。でも、途中で大嵐に遭うて、志半ばで沈んでしもうた」


 うちの言葉に、トングで挟まれた亡霊や、周囲の亡霊たちが悲しそうに俯いた。


『……そうさ。俺たちは、家族を養うために、危険な海を渡ろうとした……。でも、海の底で全部終わっちまった。……悔しい……大和郷へ、行きたかった……』


「……そっか。あんたらも、家族のために必死やったんやな」


 うちはトングを離し、彼らの冷たい肩をポンと叩いた。

 乗合馬車で出会った、あの若き商人トーマスの顔が脳裏に浮かぶ。彼もまた、家族のためにこの危険な海を渡ろうとしとるんや。


「……ええか、兄ちゃんら。あんたらの夢は、ちゃんと今の若いもんが引き継いどるわ。あんたらが切り拓こうとした航路は、決して無駄にはなってへんで。せやから、もう冷たい海の底で泣くのは終わりにしなはれ」


『……俺たちの、夢が……。若い奴らに……』


 亡霊たちのドロドロとした怨念の輪郭が、うちの言葉を聞いて、少しずつ柔らかく、人間の形を取り戻していく。

 未練ちゅうのは、誰かに「あんたの頑張りは無駄やなかった」って認めてもらうだけで、案外あっさりと解けるもんやねん。


「でもな! ただで成仏させるほど、おばちゃん甘ないで!」


 うちはニカッと笑い、甲板をドンッと強く踏み鳴らした。


「あんたら、船乗りの端くれやろ? 自分の船をこんなボロボロのまま漂流させとくなんて、プライドが許さんやろが! 成仏する前に、最後の『一仕事』してもらうで! うちらを、大和郷の行きがある『中継港』まで、特急で送り届けなはれ!」


『……特急で、送り届ける? 俺たちがか?』


「せや!うちら足がないねん! あんたらがタクシー代わりになってくれたら、港に着いた時、最高級のお神酒と線香で、きっちり供養したるわ! どうや!」


 おばちゃんのあまりにも図太い「霊界タクシー交渉」に、亡霊たちは一瞬呆気に取られた後……。

 やがて、彼らの顔に、生前の荒くれ船乗りだった頃の「活気」と「笑顔」が戻ってきた。


『……ハハハッ! いいぜ、おばちゃん! 生きている人間にこき使われるのも、悪くない!』


『野郎ども! 帆を張れ! 舵を切れ! 俺たちの最後の航海だ、特急便でぶっ飛ばすぞぉぉっ!』


===========


 こうして、幽霊船の信じられない爆走が始まった。

 風もないのに、破れた帆がパンパンに膨らみ、船は海面を滑るように……いや、半分浮き上がりながら、猛烈なスピードで波を切り裂いていく。

 霊的なエネルギーを動力源にした、究極のエコ船や。


「……ひぃぃっ……。な、なんだこの女は……。悪魔より、海賊より……恐ろしい……!」


 甲板の隅で震え上がっている海賊のボスに、うちはアイテムボックスから「レモン味」の飴ちゃんを取り出して放り投げた。


「ほら、これ舐めて体力回復させとき。……あんたも、海に落ちた時に、ちょっとは自分の人生振り返ったか? 次の港に着いたら、その物騒な眼帯外して、真面目に荷下ろしの仕事でも探しなはれ。命があるだけ、儲けもんやで」


 海賊のボスは、震える手で飴を口に含み、その強烈な酸味と回復効果に涙を流しながら、何度も何度も頷いとった。


 やがて、数時間の爆走の末、水平線の向こうに巨大な陸地と、無数の灯りがひしめく巨大な港町が見えてきた。

 大和郷へ渡るための最終拠点、巨大中継港『カリカ』や。

 これまでの西洋風の街並みとは違い、極彩色の布が街中にはためき、港には巨大な象の魔獣が重い荷物を引きずって歩く、カオスで活気に満ちた熱砂の港や。


『……着いたぜ、おばちゃん。あそこがカリカ港だ』


 港が近づくにつれ、幽霊船のスピードが落ち、船体を構成していた木材が、サラサラと砂のように崩れ始めた。

 役割を終えた亡霊たちが、次々と光の粒になって、夜明け前の空へと昇っていく。


「おおきにな、兄ちゃんら! 約束通り、後でええ酒、海に流しとくからな!」


 うちは消えゆく亡霊たちに向かって大きく手を振り、完全に船が沈む直前、海賊のボスの襟首を掴んで、港の木造の桟橋へと大きく飛び移った。


 ドサッ!


「……ふぅ。無事到着や。えらい派手な船旅になったけど、これも占いの修行のうちやな」


 うちは大きく伸びをして、中継港の潮風を胸いっぱいに吸い込んだ。

 そこからは、むせ返るような強烈なスパイスの香りと、肌を刺すような熱気が漂ってきたわ。


「さてと! まずは服を乾かして、美味しい朝ごはんを食べて……。それから、大和郷行きの『本番の船』を探さなあかんな!」


 海賊の襲来から霊界タクシーまで、波乱万丈の船旅を乗り越えたおばちゃん。

 東の島国『大和郷』への道のりは、ここからさらに本格的な「嵐」と「出会い」へ向かって突き進んでいくんや!


読んでくれてありがとうございます!


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