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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第6章:いざ東の国へ! 霊界タクシーと小さなおどおど弟子

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第74話 海賊船の襲来と、ギャル人質の海中転落

 東の港町から、中継となる大きな港へ向かう大型の帆船。


 潮風をいっぱいに孕んで進むその甲板は、荒くれ者の船乗りたちの怒号と、船旅に慣れない乗客たちのざわめきで満ちとった。


 そんな中、一人だけ完全に浮きまくっている乗客がおった。うちや。


 背中に龍と虎が睨み合う『極』の刺繍が入ったスカジャン。極端に短いホットパンツに、ギラギラのデコネイル。さらには特大のサングラスを頭に乗せ、船の舳先へさきに近い木箱の上にどっかと腰を下ろしとる。


「……おい、見ろよあの女。なんだあの派手な服は。どこかの貴族の情婦か?」

「いや、あんな卑俗な柄、見たことねえぞ。異国の踊り子じゃないか?」


 水夫たちや他の乗客が、遠巻きにヒソヒソと噂しとる。


 うちはそんな視線をどこ吹く風と受け流し、アイテムボックスから取り出したタロットカードを膝の上に広げとった。


 大和郷やまとごうっていう、名前からして米と醤油の匂いがする東の島国へ行くには、まずはこの海を越えて中継港まで行かなあかん。長旅や。


 エルゼちゃんやアレンたちがいない一人旅は、気楽な反面、やっぱりちょっとだけ静かすぎる気もする。


 バシッ、と一枚のカードをめくる。

 出たのは『塔(The Tower)』の正位置。……突発的なトラブル、崩壊、あるいは予期せぬアクシデントの暗示や。


「……あちゃー。出航したばっかりやのに、いきなりかいな。波乱の幕開けやね」


 うちがカードを仕舞い込んだ、まさにその時やった。

 見張り台に乗っていた水夫が、喉を切り裂くような悲鳴を上げた。


「か、海賊だぁぁぁっ! 右舷前方、黒い帆のガレオン船! 大砲、こっちに向けてやがるぞぉぉっ!」


 その声に、甲板の空気が一瞬で凍りついた。


 ドォォォォンッ!


 警告代わりの大砲の弾が、うちらの船のすぐ横の海面を叩き、巨大な水柱を上げる。


 船体が大きく傾き、乗客たちが悲鳴を上げて甲板に転がった。


「ヒィィッ! 助けてくれ! 殺される!」

「お終いだ、身ぐるみ剥がされて、奴隷船に売り飛ばされるぞ!」


 船長が慌てて「面舵いっぱぁぁい! 逃げろ!」と叫ぶが、相手の船は風を読み切っており、あっという間に距離を詰めてきよった。


 ガコンッ! と嫌な音を立てて、海賊船から投げ込まれた鉤縄かぎなわが、うちらの船の手すりに食い込む。


 次々と板が渡され、そこから柄の悪い、刃こぼれした曲刀を持った海賊たちが、ヒャッハーと奇声を上げながらなだれ込んできた。


===========


「大人しくしろ! 抵抗する奴は魚の餌だ! 金目のものと、女を一箇所に集めろ!」


 海賊のボスらしき男が、甲板の中央で傲慢に叫んだ。


 顔の半分を覆う大きな傷跡に、片目は眼帯。いかにも「海のならず者」といった風体の、筋骨隆々の大男や。


 乗客たちは震え上がり、水夫たちも武器を奪われて甲板に這いつくばらされとる。


 そんなパニックのど真ん中で、うちは木箱の上に座ったまま、ポキポキと指の関節を鳴らしていた。


(……やれやれ、どこの世界にもこういう『人のもんを横取りして威張る輩』はおるんやな。まぁ、これも占いの修行のうちや)


 うちは立ち上がり、スカジャンの襟をバサッと立てて、ゆっくりと海賊のボスの方へ歩き出した。

 シャカシャカというサテン生地の摩擦音が、静まり返った甲板に異様に響く。

 ボスの男が、うちの姿に気づいて目を丸くした。


「……おいおい、なんだこの女は。こんなド派手な服、見たこともねえぞ」


 ボスの独眼が、うちの金髪の盛り髪、そしてスカジャンの背中で黄金に輝く龍と虎の刺繍をねっとりと舐め回す。


 そして、男は「カッ!」と目を見開き、下品な笑い声を上げた。


「……ゲハハハ! おい野郎ども、大物だぞ! こいつぁ、どこか異国の『姫君』か何かに違いねぇ! この金糸の刺繍、それにこの妙にツヤツヤした布地! 王族クラスの特注品だぜ!」


「……は?」


 うちは思わず素っ頓狂な声を上げてしもうた。


 異国の姫君? この大阪のオカンの正装ヤンキースカジャンを見て、王族の特注品やて?

 確かにこの世界に化学繊維ナイロンはないから、光沢感は異常やろうけど、勘違いも甚だしいわ。


「おい、そこの姫さんよぉ! 運が悪かったな。お前みたいな上玉、闇市場に流せば金貨千枚は下らねぇぞ! 傷をつけたくねぇから、大人しく縛られな!」


 ボスが下卑た笑みを浮かべ、丸太のような太い腕を伸ばして、うちのスカジャンの胸ぐらをガシッと掴み上げよった。

 周囲の乗客たちが「ああっ……可哀想に」と顔を覆う。

 だが、うちは胸ぐらを掴まれて宙に浮きながらも、一切表情を変えへんかった。

 不老不死のこの身体、こんくらいの力で掴まれても、痛くも痒くもあらへんのや。


「……なぁ、あんた」

「あぁん? 命乞いか? 泣き喚いても無駄だぜ」


 うちは、特大のサングラスを少しだけずらし、ボスの至近距離でため息をついた。


「命乞いちゃうわ。……あんた、えらい口臭いで。昨日から歯磨きしてへんやろ? 胃腸も荒れてるみたいな匂いすんなぁ」


「……は?」


「それに、人の服をいきなり掴むなっちゅうねん。これ、デリケートな素材やから、あんたのその汚い手で触ったらシミになるやんか! クリーニング代、高いんやで!」


 うちは、ギラギラのデコネイルが光る手で、ボスのゴツい腕をペシッ! と叩いた。


 海賊のボスは、恐怖に泣き叫ぶはずの人質から、いきなり「口臭と服のシミ」についてオカン全開の説教を食らい、完全に思考が停止してしもうた。


「な、なんだこの女……!? 俺様を誰だと思っていやがる! 海の死神と呼ばれる――」


===========


 ボスが怒鳴り散らそうとした、まさにその時やった。

 ゴゴゴォォォッ!


 突然、海面が大きくうねり、船の横っ腹に巨大な波が激突したんや。


 中継港へ向かうこの海域特有の、気まぐれな「三角波」や。


「うおぉぉっ!?」


 船が45度近く大きく傾く。


 甲板にいた海賊たちや乗客が、次々と滑って手すりにしがみつく。


 そして、うちの胸ぐらを掴んで威張っていたボスも、その急激な揺れに完全にバランスを崩した。


「おわぁぁっ!? し、しまっ――!」


「ちょっと! あんた、どこ掴んでんねん! 離しなはれ!」


 ボスは転ばまいと、うちのスカジャンをさらに強く握りしめた。


 結果として、うちとボスはもつれ合うようにして甲板を滑り、そのまま船の低い手すりを越えてしまった。


「あーっ! ちょっと待って、これアカンやつやーッ!」


 空と海が、ぐるぐると回転する。


 次の瞬間。


 ザッバーーーンッ!!


 うちは、海賊のボスというむさいおっさんと一緒に、冷たくて暗い外海の中へと、見事にドボーンと落ちてしもうたんや。


「……ブクブクブクッ!(ホンマに、塔の正位置は容赦ないわ!)」


 塩水の中で、うちは大量の気泡を吐き出しながら、どんどん海の底へと沈んでいった。

 一人きりの出張鑑定、第二幕。

 大和郷への船旅は、いきなりの「海中転落」というドタバタで、幕を開けたんや。



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