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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第6章:いざ東の国へ! 霊界タクシーと小さなおどおど弟子

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第73話 乗合馬車と、オカンからの仕送り

 ガタゴト、ガタゴトと、車輪が石やわだちを拾うたびに、硬い木の座席から容赦ない振動が腰に伝わってくる。

 王都やルミナの街を走るような、ふかふかのクッションが効いた貴族用の馬車やない。庶民の足である、年季の入った乗合馬車や。

 窓の外を流れていくのは、見渡す限りの麦畑とのどかな牧草地。王都でのドロドロした権力闘争や、魔族領での命懸けの「大掃除」が嘘のように、平和で退屈な風景がどこまでも続いとった。

 旧公爵領を一人で旅立ってから、もう数日が経つ。

 うちは揺れる車内で膝の上に板を置き、小さな羊皮紙に向かってペンを走らせとった。


『エルゼちゃん、アレン、カイル、クレア。

 元気にしてるか? ちゃんとご飯食べてるか?

 うちは今、とりあえず東の大きな港町へ向かう馬車の中や。そこから船に乗って、どっか新しい国へ行ってみようと思とるけど、行き先はまだ決めてへん。風の吹くまま気の向くままやな。

 こっちの空気は乾燥してて、肌の保湿が大変やわ。

 あんたら、うちがおらんからって夜更かしとかしてへんやろな。

 特にカイルちゃん、本ばっかり読んでんと、たまには外で運動しなはれ。

 アレンも、剣の素振りばっかりやのうて、算盤の練習も続けとくんやで。

 クレアちゃんは、除菌の仕事で無理しすぎんようにな。たまには温泉でゆっくり休むんやで。

 エルゼちゃんは……まぁ、あんたは放っといても、えげつないほどしっかり領地をまとめるやろ。

 同封した飴ちゃん、喧嘩せんようにみんなで分けなはれ。

 困った時は、いつでもこの飴舐めて、頭冷やすんやで。

 ほな、また手紙出すわ。

                  ――静江より』


 うちはペンを置き、手紙をパタンと折りたたんだ。

 そして、アイテムボックスから色とりどりの飴ちゃんをどっさりと取り出して、一緒に小さな麻袋に詰め込んだ。港町に着いたら、ルミナへ向かう商人の便に託すつもりや。


「……ふふっ。完全に、田舎から都会に出た子供に送る、実家のオカンの仕送りやな」


 自分で自分のやってることにツッコミを入れながら、うちはホッと息をついた。

 あの子らはもう、うちのお節介がなくても立派にやっていける。それは心から誇らしい。でも、こうして一人で馬車に揺られていると、あの騒がしい日常が少しだけ恋しくなるのも事実や。オカンの性っちゅうもんは、ほんまに厄介やで。


===========


「……あの、すみません。さっきから、とても甘くていい匂いがするんですが……」


 向かいの席から、恐る恐る声がかけられた。

 声の主は、大きな荷物を抱え込むようにして座っている、まだ十代後半くらいの若い商人風の青年やった。

 彼の横には、くたびれた服を着た出稼ぎの農夫らしきおっちゃんが、疲れた顔でうつらうつらと船を漕いどる。


「ん? ああ、これか。うちの特製の飴ちゃんやで。ちょっと荷造りしてたんや」


 うちが顔を上げて気さくに答えると、青年は「ヒッ」と短く息を呑んで、体をビクッと硬直させた。

 無理もない。

 今のうちは、背中に龍と虎が睨み合っている『極』の刺繍が入ったスカジャンを着て、足元は極端に短いホットパンツに厚底ブーツ。おまけに金髪の盛り髪で、ギラギラのデコネイルを光らせとる。

 こののどかな街道を行く庶民の乗合馬車の中では、完全に浮きまくってる「異物」やからな。


「……な、なんでもありません。失礼しました……」


 青年は目を伏せて、必死に自分の荷物を抱え込んだ。

 その顔には、長旅の疲労と空腹、そして見知らぬハデな女に対する明らかな「警戒」と「偏見」がべったりと張り付いとる。


「なんや、遠慮せんでもええのに。あんた、えらい顔色悪いな。東の港まで、まだ半日はかかるで。朝からまともに飯、食うてへんのんとちゃうか?」


 うちはアイテムボックスから、鮮やかな緑色をした「メロン味」の飴ちゃんを取り出し、青年の膝の上にポイッと投げた。

 そして、隣で首を痛めそうに寝かけていたおっちゃんの膝にも、「レモン味」の飴ちゃんを落とす。


「おっちゃんもや。荷仕事の連続で、肩バキバキに凝っとるやろ。これ舐めて、ちょっと疲れ取りなはれ」


「えっ……? これ、タダでもらっていいんですか……?」


「あかんって言うたら、金払うんか? ええから黙って舐めなはれ。おばちゃんのお節介や。毒なんか入ってへんわ」


 うちの凄みのあるオカン節に押され、青年とおっちゃんは顔を見合わせた後、恐る恐る飴を口に含んだ。

 その瞬間。


「……!! な、なんだこれ! すごく……甘くて、それにお腹の中にズッシリとした満足感が……!」


 メロン味の飴を舐めた青年が、目を見開いて驚きの声を上げた。

 長旅で空きっ腹やった胃袋が、まるで高級なステーキをたらふく食べた後のような満腹感で満たされていく。すり減っていた体力が、内側から溢れるように回復していくのが分かるはずや。


「こ、こっちは……嘘だろ。腰の痛みがスッと消えていくぞ。まるで若返ったみたいだ……」


 レモン味の飴を舐めたおっちゃんも、さっきまでのしかめ面が嘘のように、ホゥッと深い息を吐き出して背筋を伸ばした。

 二人は、うちのハデな外見への警戒心をすっかり忘れ、尊敬と感謝の眼差しを向けてくる。


「せやろ? おばちゃんの飴ちゃんは、この世で一番効く特効薬や。……で? あんた、東の港町へ行って、そこからどこへ行くんや? うちはこれから船乗ろうと思とるんやけど、まだ行き先決めてへんねん」


 うちはスカジャンの襟を直し、青年に向かって気さくに問いかけた。


===========


「……僕は、トーマスと言います。実家の小さな商会を継いだんですが、借金ばかりで……。一発逆転を狙って、東の港からさらに海を越えた異国、『大和郷やまときょう』の特産品を仕入れに行こうと思っているんです」


 トーマスと名乗った青年は、すっかり打ち解けた様子で、自らの身の上話を始めた。


大和郷やまときょう、か。……噂には聞くけど、えらい遠いんやろ?」


「はい。船で数ヶ月はかかると言われています。しかも、あの海域は年中嵐に覆われていて、海賊も出没するとか……。正直、全財産をはたいて船の切符を買ったものの、無事に辿り着けるのか、そして生きて帰ってこれるのか……不安で夜も眠れなくて」


 青年は、膝の上でギュッと拳を握りしめた。

 その肩は、未知の世界への恐怖で小刻みに震えとる。


(……大和郷やまときょう、か。そういや、前世で読んだ旅行雑誌か何かに、この世界の東の果てには、米と醤油の匂いがする『黄金の島国』みたいな場所があるって書いとったな。……最近、パンと肉ばっかりで、和食に飢えとったしな……)


 うちは、無意識のうちにゴクリと喉を鳴らした。

 出汁の効いた味噌汁、ほかほかの塩おにぎり、そして甘い卵焼き。その想像だけで、行き先は完全に決まった。


「……よっしゃ! お兄ちゃん、うちもその大和郷やまときょうってとこに行ってみるわ! 米と醤油の匂いが、おばちゃんを呼んどる気がするで!」


「ええっ!? ご、ご飯の匂いだけで決めるんですか!? そんな一世一代の大勝負の場所へ……」


「大勝負やからこそ、腹の虫の言うことに従うべきやねん。……あんた、えらい不安そうやな。ほな、その大勝負がどないなるか、ちょっと見たろか?」


 うちは、アイテムボックスから使い込まれたタロットカードを取り出し、膝の上に広げた布の上でシャッフルを始めた。

 バシッ、バシッと、乾いた音が馬車の中に響く。その手つきの鮮やかさに、トーマスは目を丸くした。


「えっ……? あなた、占い師なんですか? その格好で……?」


「見た目で判断したらアカンで。うちはこう見えても、ちょっと前まで王宮の掃除(ガサ入れ)を任されとった、腕利きの占い師なんやからな」


 うちはニカッと笑い、一枚のカードを青年の前に叩きつけるように表に返した。

 出たのは、『戦車(The Chariot)』の正位置や。


「よう見ときや、トーマス君。『戦車』の正位置。……困難を乗り越える前進と、勝利の暗示や」


「勝利……! 僕の旅は、成功するんですか!?」


「慌てなさんな。カードは『あんたが自分で手綱をしっかり握っていれば』って言うとるんや。若き御者が二頭の獣を手懐けて進む絵やろ? 嵐が来ようが、海賊が出ようが、あんたが『絶対に生きて商売を成功させるんや』って気持ちを強く持っていれば、必ず道は開ける。不安に負けて手綱を手放したら、あっという間に振り落とされるで」


 うちの言葉に、青年はハッとして、カードの絵柄をじっと見つめた。

 そして、顔を上げてうちを真っ直ぐに見返した。


「……手綱を、握る。……はい。そうですよね。ここで僕が弱気になっていたら、実家で待っている家族はどうなるんだ。……ありがとうございます、占い師さん。なんだか、腹が据わりました!」


 トーマスの瞳から、さっきまでの怯えが完全に消え、若き商人としての真っ直ぐな闘志が宿った。


「よっしゃ、その意気や。占代は……まぁ、今回は行き先教えてもろたお礼にサービスしたるわ。同じ船に乗るかもしれへんしな。あんたが立派な大商人になったら、うちの店に最高級の茶葉でも差し入れしなはれ」


「はい! 必ず!」


 おっちゃんも横で「兄ちゃん、頑張れよ! 姉ちゃんもな!」と励ましとる。

 ハデなギャルと、若い商人と、出稼ぎの農夫。

 全く接点のない三人が、馬車の揺れの中で和やかに笑い合う。

 これや、これ。権力闘争もええけど、やっぱりこういう「市井の生活」の中で、迷ってる人の背中をちょっとだけ押してやるんが、おばちゃんの一番の生き甲斐やわ。


===========


 やがて、馬車は長い坂を下り、視界が一気に開けた。

 鼻を突く潮の香りと、カモメの鳴き声が、開け放たれた窓から飛び込んでくる。


「……着いたな。東の港町や」


 馬車の窓から見えたのは、活気に満ちた巨大な港と、そこに停泊する数え切れないほどの帆船やった。

 そしてそのさらに向こうには、どこまでも青く広がる外海が待っている。

 ここから、海の向こうの未知の国……『大和郷やまときょう』へと向かう長い長い船旅が始まるんや。


「さてと。まずはあの手紙と飴ちゃんをルミナ行きの商人に預けて……それから、大和郷行きの乗船代をガッツリ値切らなあかんな!」


 うちは大きく伸びをして、厚底ブーツを鳴らして馬車を降りた。

 潮風が、ヒョウ柄のポンチョを大きく揺らす。

 一人きりの出張鑑定、第二幕。

 おばちゃんの新しい旅路は、醤油と出汁の匂いを夢見ながら、勢いよく幕を開けたんや。



読んでくれてありがとうございます!


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引き続きよろしくお願いします!

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