第61話 令嬢の野望と、星屑のホロスコープ
魔族領での「大掃除」を終え、うちらは数ヶ月ぶりに王都『ソル・グランデ』の土を踏んだ。
バアルやゾルゲたちには「しっかりリサイクル品集めときや!」と魔族領の管理を任せ、アレンとカイルを引き連れての帰還や。
王宮の玄関ホールには、すでにうちらを出迎えるための人だかりができとった。
だが、その中心で圧倒的な存在感を放っているのは、国王でも王妃でもない。
豪奢な真紅のドレスを身に纏い、漆黒の扇子で口元を隠しながら、周囲の高位貴族たちを「路傍の石」を見るような冷たい目で見下している一人の若き女侯爵――エルゼ・ルミナやった。
「……遅かったわね、静江。待ちくたびれて、この退屈な羽虫たちの羽を毟り取ってしまおうかと思っていたところよ」
エルゼが扇子をパチンと閉じ、優雅に、けれど背筋が凍るような冷笑を浮かべて歩み寄ってくる。
周囲の古参貴族たちが「ひっ」と息を呑んで道を空けた。かつて病弱で部屋に引きこもっていた伯爵令嬢の面影は微塵もない。彼女は今や、情を捨て、自らの野心で王都を支配しようとする「美しき令嬢」としてのカリスマを完成させとった。
「ただいま、エルゼちゃん。……なんや、すっかり『悪の女幹部』みたいな貫禄ついたなぁ。留守番ご苦労さん。王宮の埃、ちゃんと掃いといたか?」
「ええ。目障りなゴミは随分と片付けたわ。……けれど、まだ一番大きな『粗大ゴミ』が残っているのよ」
エルゼはそう言うと、周囲の貴族たちを一瞥した。彼らは目を逸らし、逃げるように散っていく。
うちはヒョウ柄のスカジャンの襟を直し、ニカッと笑った。
「なるほどな。ほな、さっそく『作戦会議』といこか」
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エルゼに案内された王宮の私室は、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
最高級の紅茶の香りが漂う中、エルゼはふかふかのソファに深く腰掛け、足を組んだ。
「静江。あなたが魔族領を浄化したことで、あの土地には莫大な未知の資源が眠っていることが証明されたわ。……バアルたちが集めたその『リサイクル資源』を、人間界へ独占的に下ろす物流のハブ。それが今、喉から手が出るほど欲しいの」
「せやな。魔族領からの物流南下……それが成功すれば、ルミナは国を凌ぐほどの経済圏になる。……で、そのハブにするための土地が、グレミオ公爵が失脚して空き地になっとる『旧公爵領』っちゅうわけやな」
うちが核心を突くと、エルゼは妖艶に微笑んで頷いた。
「その通りよ。でも、あの強欲な老害貴族たちが、私にその土地を渡すまいと結託しているの。侯爵に成り上がった小娘が、これ以上力をつけるのが恐ろしいのね。……どうにかして、あいつらの首輪を握りたいわ」
「ええよ。あんたのそのドス黒い野心、おばちゃん嫌いやないで。……ほな、今の王都のドロドロの権力図、いっちょ丸裸にしたろか」
うちはアイテムボックスから使い込まれたタロットカードを取り出し、大理石のテーブルの上に広げた。
カードを宙に浮かせ、見えない力でシャッフルする。バシッ、バシッと乾いた音が部屋に響き、空気がひんやりと研ぎ澄まされていく。
「今回は特別や。王都全体の動きと、あんたの運命を時計回りに暴き出す大技……【ホロスコープ・スプレッド】や」
うちは空中のカードから十三枚を抜き出し、テーブルの上に円を描くように、そして最後に中央へ一枚、順番に配置していった。
「第一室から第十二室までが、この王都におけるあんたの現状と環境。そして中央の十三枚目が『全体の結果』を示す。……よう見ときや、エルゼちゃん」
うちはまず、第二室(財産)と第七室(対人・敵対者)のカードをめくった。
『ペンタクルの4』の正位置と、『悪魔』の正位置。
「……ふん。敵対してる老害貴族ども、表向きは『伝統がどうの』言うてるけど、腹の底はただの金執着やな。しかも第七室に『悪魔』。……エルゼちゃん、あいつら、あんたを陥れるために、法に触れるようなヤバい裏取引(密輸か脱税)に手ェ染めとるで」
「……裏取引。ふふっ、素晴らしいわ。その尻尾さえ掴めば、いつでもあいつらを破滅させられる」
エルゼの瞳が、獲物を見つけた肉食獣のように鋭く光る。
さらにうちは、第十室(社会的地位)と、中央の第十三室(最終結果)のカードをめくった。
『皇帝』の正位置と、『女帝』の正位置。
「……すごいな、あんた。十室の『皇帝』は、国王が実はあんたの統治能力を一番高く評価してるっちゅう暗示や。他の貴族を牽制するために、あんたが決定的な『功績』を上げるのを待っとる。そして最後は『女帝』……豊穣と絶対的な支配。旧公爵領を手に入れて、名実ともにこの国の裏の支配者になれるって出とるわ」
エルゼは扇子で口元を覆い、クスクスと歓喜の笑声を漏らした。
「最高だわ、静江。あなたの占いは、いつも私に極上の『武器』をくれる」
「勘違いしなや、エルゼちゃん。カードはただの『見取り図』や。その道をどう進むか、どうやってあいつらの弱みを暴いて自分の手札にするかは、あんたの『悪役』としての腕の見せ所やで」
うちはカードをしまい、アイテムボックスから真っ赤な『リンゴ味の飴ちゃん』を一粒取り出した。
そして、それをエルゼに向かって指で弾く。エルゼはそれを空中で見事にキャッチし、迷わず口に含んだ。
「……甘い。けれど、この味の奥に、血が沸き立つような高揚感があるわ。……静江。さっそく今夜の夜会から、お掃除を始めましょうか。あの虫けらどもに、誰が本当の支配者か教えてあげるわ」
「その意気や。おばちゃんも、裏でたっぷり『弱み』を鑑定したげるからな。……さぁ、王都まるごと、したたかに値切り倒したろか!」
窓の外では、王都の空が夕焼けに染まっていた。
成り上がりの女侯爵と、大阪のおばちゃん占い師。二人の最凶タッグによる、王都社交界の完全制圧が、今ここに幕を開けたんや。
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