第56話 絶望の封印具と、黄金の飴玉
魔族領の最果て、かつて「世界の最終処分場」と呼ばれた場所は、今やどこまでも続く平穏な更地へと生まれ変わっとった。
ザドックたち王都の連中が、自分らの非を認めんまま逃げるように転移魔法で去っていった後、そこには清々しいほどの静寂が残されたんや。
うちは、茶色の綺麗なロングヘアを乱暴に結び直すと、スカジャンの襟を正して、更地の中心にどっかりと腰を下ろした。
手元の水晶玉は、濁り一つない透明な輝きを取り戻し、太陽の光を反射して、地面にいくつもの小さな虹を落としとる。
「静江さん、本当にお疲れ様でした。僕、正直言って、ここが本当に綺麗になるなんて、信じられなかった。でも、あなたの占いが示した通り、すべての物には役割があって、それを正しく分けることで、呪いさえも光に変わるんですね」
アレンが聖水のモップ槍を傍らに置き、清々しい顔で空を仰いどる。
カイルも、ボロボロになった魔導書を大切に抱えながら、眼鏡の奥の瞳を優しく細めた。
「ええ。静江さんの鑑定は、単に物の価値を測るだけじゃない。その物が置かれた状況や、持ち主の心まで整えてしまう。これは、王都の魔導師たちが何百年かけても成し得なかった、究極の『生活の魔法』ですよ」
うちは、二人の言葉に照れ隠しのハチミツ飴を口に放り込んだ。
ガリッと噛み砕くと、懐かしい甘さが体中に染み渡る。
「二人とも、えらい持ち上げてくれるやんか。うちはただ、ぐちゃぐちゃになってるのが我慢ならんだけやわ。運命も部屋も、溜め込みすぎたら腐る。腐る前に分別して、新しい風を通す。占い師の仕事なんて、煎じ詰めればそれだけのことなんやから」
そう言って、うちは水晶玉をもう一度、じっくりと覗き込んだ。
そこには、これからこの更地に集まってくる魔族たちの姿が、予兆として映し出されとった。
住む場所を失った者、何かに絶望して流れてきた者、そして、おばちゃんの「掃除と占い」の噂を聞きつけた好奇心旺盛な者たち。
「バアルさん、あんたにお願いがあるんや」
うちは、ずっと傍らで見守っとった魔王の側近に向かって、ギラギラのデコネイルが光る指を立てた。
「ここをな、ただの空き地にしておくんやなくて、魔族領全体の『リサイクルセンター』兼『お悩み相談所』にしたいんや。壊れたもんを持ってきたら、魔族の力で直す。心にゴミが溜まった奴が来たら、うちが占って分別したげる。そうやって、循環を作っていけば、ここは二度とゴミ溜めには戻らへんわ」
バアルは深く頭を垂れ、感極まったような声で答えた。
「承知いたしました、静江殿。魔王陛下も、この地の管理を全面的に貴女に委ねるよう仰せです。魔族は物を壊すことには長けていますが、守り、再生させる術を知りませんでした。貴女の占いが示す『分別の知恵』こそ、今の魔族領に最も必要な光です」
その時、水晶玉の奥に、王都の方向から飛んでくる一羽の伝書鳥の影が見えた。
うちは目を細めて、その不穏な、けれどどこか清らかな予兆を読み取る。
鑑定の結果は……「新しい因縁の到来」や。
「……カイル、アレン。のんびり湯船に浸かるのは、もう少し先になりそうやで。王都から、何やら『本物の聖女』様がお出ましになるみたいや。うちみたいな偽物……いや、占い師のおばちゃんに、何の用があるんか知らんけどな」
うちは不敵な笑みを浮かべ、腰のトングをシャキーンと鳴らした。
魔族領編の終わりは、世界全体を巻き込む「大掃除」の幕開けに過ぎん。
おばちゃんの水晶玉が映し出す未来は、これからもっともっと、デコレーションの激しい、波瀾万丈なものになっていく。
「さぁ、あんたらの運命、このおばちゃんが全部まとめて鑑定したげるわ! 覚悟しなはれ!」
更地に響く力強い宣言と共に、静江の新しい物語のページが、風に煽られるように勢いよくめくられていったんや。
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