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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明


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第49話 魔王のヘソクリと、黒歴史の断捨離

「ほら! 坊ちゃん! 何ぼーっとしとんねん! 雑巾を持つ手が止まっとるで!


 その玉座の裏の隙間、見てみぃ。十円玉……やなくて、禍々しい魔力を放つ『魔石の欠片』がぎっしり詰まっとるやないの!


 これ、あんたが掃除をサボって、見えへん場所に押し込んで隠してたヘソクリか!? 埃と執着が混ざり合って、エグい色のカビが生えとるわ!」


 うちは、ブロンドの盛り髪を振り乱しながら、玉座の影にこびりついた汚れをトングで厳しく指し示した。


 魔王は、ぶかぶかのパジャマの裾を捲り上げ、鼻をすすりながら床に這いつくばっとる。

 付けまつげ越しに見るその姿は、世界の王というより、母親に隠し事がバレた小学生そのものや。


 「……ひ、ひどいよ静江さん。そんな言い方しなくてもいいじゃないか。

 

 これはヘソクリじゃなくて、有事の際の予備魔力として貯蔵してたんだ。

 

 というか、僕が魔王になってから何百年、誰もここを掃除しようなんて言わなかったんだよ。

 

 みんな僕の力を怖がって、遠巻きに跪く(ひざまずく)だけ。

 

 汚れてようが臭かろうが、誰も指摘してくれなかったんだから、僕だけのせいじゃないだろ!」


 魔王が、雑巾を握ったまま、涙目で情けない反論を返してきた。

 それを見たうちの堪忍袋の緒が、またブチッと音を立てて切れた。


 「怖がられてるのをええことに、自分を甘やかして逃げてたんやろ!

 

 ええか、孤独と不潔はな、お互いを呼び寄せ合うセット品みたいなもんなんや!

 

 寂しいからって物を溜め込んで、自分を隠そうとしたら、余計に心まで埃を被って動けなくなるんやで!

 

 だいたい、そんな魔力の欠片、放置しといたら腐敗した魔力に変わって、城の地盤沈下の原因になるんや。そんなんも分からんのか、このアホンダラ!」


 うちは、デコネイルがギラリと光る手で、魔王がとっさに玉座のクッションの下に隠そうとした「真っ黒な小箱」を、ひっつかんで奪い取った。


====================


 「あ、待って! それだけは……それだけは開けちゃダメだ!

 

 それは僕の……僕が魔王になる前の、一番恥ずかしくて大切な……!」


 魔王が顔を真っ赤にして、必死に手を伸ばしてくる。

 

 「何を隠しとんねん。ゴミ屋敷の主が『これだけは』って言うもんに、ろくなもんはあらへん!」

 

 うちは容赦なく、その箱の蓋をパカッと開けた。

 

 中から出てきたのは、呪いの魔具でも世界を滅ぼす秘宝でもなかった。

 

 そこにあったのは、今にも崩れそうなほど古びた紙の束……人間の子供たちが書いたと思われる、たどたどしい文字の手紙やった。


 『まおうさまへ。いつか、ぼくたちと、なかよくあそんでね』

 『おかしをありがとう。こんどは、いっしょにたべようね』


 水晶玉を通して見えたのは、何千年も前、魔王がまだ強大な力を持て余していただけの、ただの寂しがり屋の少年やった頃の記憶や。

 

 彼は人間を愛し、仲良くしたかった。

 

 けれど、魔族と人間という種族の壁、そして彼自身の圧倒的な力が、それを許さへんかった。

 

 「……なんや。これ、あんたがどうしても捨てられへんかった『未練』やなくて、『優しさ』やないの。

 

 こんな大事なもんを、ポテチのカスと埃にまみれたゴミ山の中に埋もれさせてたらかわいそうやろ。

 

 これじゃ、あんたの思い出まで、ただの『粗大ゴミ』になってまうわ」


 うちは、少しだけ声を和らげて、その手紙の束をアイテムボックスから出した清潔な布で、一枚ずつ丁寧に拭き始めた。

 

 魔王は、玉座の前に座り込んだまま、ポロポロと大きな涙をこぼした。


 「……僕は、怖かったんだ。

 

 この手紙を読み返すたびに、自分が魔王として振る舞うことが嘘のように思えて。

 

 でも、捨てることもできなかった。

 

 だから、何も見たくなくて、城を汚して、眠り続けて、自分をゴミの中に隠したんだ。

 

 汚い場所なら、誰も僕の本当の情けない心に、触れようとはしないだろうって……」


====================


 「……バカやねぇ、あんた。

 

 汚い場所にはな、いい思い出も、いい未来も居着かへんのや。

 

 坊ちゃん、あんた、この手紙を堂々と額縁に入れて飾れるくらい、綺麗な王様になりなはれ。

 

 過去をゴミにしてすがるんやなくて、新しい思い出を迎え入れるために、まずはこの床を鏡みたいに磨き上げるんや!

 

 あんたが自分を磨けば、魔族領全体が輝きだすんやからな!」


 うちは、アイテムボックスから王宮で特注した「魔力洗浄ワックス」を取り出すと、魔王の震える手に無理やり押し付けた。


 「カイルちゃん! あんたの知識で、この手紙が永遠に劣化せえへんような、最高級の防腐・魔法額縁を作りなはれ!

 

 アレン! あんたはこの坊ちゃんのボサボサ寝癖、聖水シャンプーで根元からきれいに洗い流して、騎士らしく整えたげなさい!

 

 ゾルゲ主任! 従業員たちを使って、城中のカーテンを全部剥がして天日干しや!

 

 魔王城のリフォーム、ここからが本当の『魂の大掃除』の本番やで!」


 「……う、うん。わかったよ、静江おばちゃん。

 

 僕、頑張るよ。掃除って……自分の心を洗ってるみたいで、なんだか少しだけ、体が軽くなってきた気がする」


 魔王が、袖で涙を拭いながら、初めて自らの意思で雑巾を強く握りしめた。

 

 淀んでいた玉座の間。

 

 おばちゃんの激しい叱咤と、どこか懐かしいお節教によって、千年の闇がゆっくりと、確実に晴れ渡ろうとしとったんや。


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