表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/54

第44話 魔界の役人と、泥付きブーツの無作法

 ゾルゲの「ゴミ屋敷」を改築して一週間。

 かつては死臭と呪詛がこびりついとった洋館は、今や「サンポール」と「重曹」の混ざり合った、なんとも言えん清潔(?)な匂いに包まれとった。

 うちは、アイテムボックスから取り出した特設の事務デスク(これも王宮の備品や)にどっかと座り、ルミナから取り寄せた高級な紙に、今後の「リサイクル事業計画」を認めていた。


「……えーっと、まずは森に散らばってる骨の分別やな。これは『カルシウム肥料』としてルミナの農家に売れるわ。それから、錆びた魔剣。これはカイルちゃんに魔法でサビ落としさせて、リサイクル鋼材として鍛冶ギルドへ……。ふふっ、これ、結構な利幅マージン出るで」


 うちは算盤そろばんを弾く代わりに、指先で計算しながらニヤリと笑った。

 その横では、元・屍術師のゾルゲが、慣れん手つきで「アンデッド用・労働者マニュアル」を部下ゾンビたちに読み聞かせとる。


「……ええか、お前たち。静江様がおっしゃるには、『挨拶と掃除ができぬ者に、魔道の深淵は覗けぬ』とのことだ。まずはその、腐り落ちそうな右腕をしっかり固定して、廊下の乾拭きから始めろ。……おい、そこのスケルトン! 骨の隙間に埃が溜まっているぞ! 恥を知れ!」


 ゾルゲ、すっかり「教育係の主任」が板についてきよった。

 かつての冷酷な魔術師が、今や部下の骨の隙間の埃にブチ切れてるんやから、世の中分からんもんや。

 アレンとカイルも、最初は戸惑っとったけど、今は「魔界の資源有効活用」のために、森の不法投棄物の回収に走り回ってくれとる。


====================


 だが、その穏やかな「清掃活動」を切り裂くように、そいつは現れた。

 

 空が急に、普段の赤紫色から、心臓を鷲掴みにされるような「どす黒い闇色」に染まったんや。

 パキパキ、と窓ガラスが悲鳴を上げ、廊下に並んでいたゾンビたちが、恐怖で一斉に平伏した。

 

 洋館の正面玄関。

 まだペンキを塗り替えたばかりの、真っ白な扉が――音もなく、内側から「腐って」消えよった。

 

 そこからゆっくりと足を踏み入れてきたのは、漆黒の鎧に身を包んだ、異様に背の高い男やった。

 頭には、ねじくれた巨大な角。背中には、夜そのものを切り取ったような黒いマント。

 そいつが歩くたびに、せっかく磨き上げた大理石の床に、ドロドロとした黒い泥と、冷気がこびりついていく。


「……ひどいな、これ。うちが今朝、二時間かけてワックスがけしたばっかりやのに」


 うちは事務デスクから立ち上がると、事務用眼鏡(伊達メガネやけどな)をクイッと押し上げ、その「招かれざる客」を正面から睨みつけた。


「静江さん、下がってください! こいつは……今までの連中とは格が違う! 魔王直属の近衛騎士、**『黒曜のバアル』**です!」


 アレンが震える手で剣を抜き、カイルが最大級の障壁を瞬時に展開する。

 ゾルゲに至っては、その男の姿を見た瞬間、顔面を蒼白にしてその場に膝をついた。


「バ、バアル様……! なぜ、このような辺境の処理場に……」


「……ゾルゲ。貴公の無能には呆れた。魔族領の静寂を、このような『清潔』という名の毒で汚すとは。……そして、そこに座る人間。貴様が、我が王の領土を勝手に『リフォーム』している不遜な掃除屋か」


 バアルの声は、地底から響くような冷たさやった。そいつがマントを翻すと、周囲の壁がみるみるうちに黒く変色し、せっかくの「重曹の香り」が、強烈な瘴気によって塗り潰されていく。


====================


 うちは、その光景を黙って見とった。

 頭の奥で、またあの「ノイズ」が走り出す。

 一瞬、日本のマンションの廊下に、**「泥だらけの長靴で勝手に入ってきて、大声で怒鳴り散らす、態度の悪い借金取り」**の姿が重なった。


(……あー、あの兄ちゃん、玄関で靴脱がへんタイプやわ。せっかくさっき雑巾がけしたのに、台無しや。……人の家(居抜きやけど)に土足で上がる奴に、ろくな奴はおらへんわな……)


 うちは、ハチミツ飴をガリリと力強く噛み砕いた。

 甘さが脳を叩き起こし、怒りが腹の底からフツフツと湧き上がってくる。


「……おい、角の兄ちゃん。あんた、今、どこの組のもんか知らんけどな……」


 うちは一歩、また一歩と、魔王の使者に向かって歩み出た。

 バアルの周りに渦巻く、常人なら即死するレベルの瘴気がうちを包む。けど、今のうちは「ルミナの自治権」と「リサイクル事業」を背負った、無敵のオカンや。そんなもん、スーパーの開店前の行列の寒さに比べれば、どうってことあらへん。


「あんた、今さっき、うちの扉を腐らせたな? それから、その泥だらけのブーツ。……土足厳禁って、入り口にデカデカと看板出しといたんが見えへんかったんか?」


「……何?」


 バアルが不快そうに眉を潜める。

 うちはそいつの目の前まで行くと、アイテムボックスから一本の**『使い古しのハタキ』**を取り出し、そいつの漆黒の鎧をパシパシと叩いた。


「あー、埃っぽい! あんた、そんな仰々しい鎧着て、何年手入れしてへんの? 金属疲労起こして、中までカビ臭くなっとるで! ……ええか、兄ちゃん。魔王様がどないしたんか知らんけどな……。この屋敷の管理権は、今はおばちゃんが握っとんねん。……不法侵入、器物損壊、それから不衛生な装備での公衆立ち入り……。しめて、金貨五百枚の『特別清掃罰金』や。今すぐ払われへんなら、玄関先でバケツ持って立ってなはれ!」


 シーン……と、館内が凍りついた。

 アレンも、カイルも、ゾルゲも、もはや呼吸するのも忘れて、魔王の右腕に説教をぶちかますおばちゃんを凝視しとる。


「……ククッ、面白い。……その命、ただで散るよりも、我が王の庭の肥やしにする価値がありそうだ」


 バアルが腰の黒剣を抜き放った。

 魔族領の「真の王」との、全面戦争のゴングが今、おばちゃんのハタキ一つで鳴り響いたんや!


読んでくれてありがとうございます!


「面白い!」「続きが気になる!」「応援したい!」と思っていただけたら、

作品ページ上部の【☆評価】【ブックマーク】、そして【リアクション】ボタンをポチッと押していただけるととても励みになります!


みなさんの応援が、次回更新の原動力になります。

引き続きよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ