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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
最終章:帝国本社ガサ入れ! 笑顔のディストピアと最強オカンの卒業

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第236話 白亜の社長室と、見知らぬ顔の若き独裁者

 終わらない承認の迷宮を、オカン流の「特大ハナマル・スタンプ」で強引にぶち破ったうちらは、ついに親玉の引きこもり部屋の最奥……『社長室(玉座の間)』へと辿り着いた。

 分厚い書類の壁が光となって消え去った後、そこに広がっていたのは、これまでのどの階層とも違う空間やった。


 煌びやかな装飾も、恐ろしい防衛兵器もあらへん。

 ただ、果てしなく続く「真っ白で無機質な空間」と、その中央にポツンと置かれたパイプ椅子のような玉座。

 そしてそこには、無数の魔導ケーブルに身体中を繋がれ、分厚いマニュアル本を抱えて座っている、一人の若い男の姿があった。


「……遅かったじゃないか。イレギュラーな侵入者ども」


 男が、分厚い黒縁眼鏡を中指で押し上げ、ひどく疲れたような、冷え切った声で呟いた。

 年齢は二十代半ばほどやろうか。氷のように整った、けれど血の通っていない冷酷な美貌。

 この見知らぬ顔の若造が、大帝国アルビオンを裏から操り、世界中に理不尽なブラック労働を強いてきたすべての元凶……大帝国の皇帝や。


(……なんや、このひょろっとした兄ちゃんが、あのえげつないブラック企業の親玉か? 随分と若いし、全く知らん顔やけど……なんか、妙に神経質そうなとこが腹立つわぁ)


 うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、訝しげに男を睨みつけた。

 一方の皇帝も、踏み込んできたうちらを一瞥し、そしてうちの姿――極端に短いホットパンツに、龍の刺繍が入った銀色のスカジャンという派手なギャル姿で視線を止め、微かに眉をひそめた。


「……なんだ、その悪趣味な服は。……いや、待て。……なぜだ?」


 皇帝が、怪訝そうに首を傾げる。

 彼の氷のような瞳の奥で、微かな動揺が揺れた。


「……お前のその、がさつな足音。それに、腹の底に響くような不快な声。……初めて見る顔のはずなのに、お前の姿を見るだけで、ひどく懐かしいような……いや、無性に頭痛がしてくる。……不快だ。ひどく、不快だ」


 皇帝はこめかみを指で押さえ、忌々しそうに吐き捨てた。

 彼自身も転生者であり、前世の記憶を持っとるはずや。やけど、目の前におるのが「58歳の大阪のおばちゃん」が若返った姿やなんて、論理的な思考回路を持つ彼には一ミリも結びつくはずがあらへん。

 ただ、魂の奥底に刻まれた「オカンの面影トラウマ」だけが、無意識のアラートを鳴らしとるんやろう。


「頭痛がするのは、あんたがこんな真っ白な部屋で一日中、魔導計算機ばっかり睨んでるからや! 肩ガチガチに凝っとるで!」


 うちはズンズンと真っ白な床を踏み鳴らし、皇帝の真正面まで歩み寄った。

 背後で、アレンが西の大陸の長剣を抜き、カイルが魔導書を展開し、リリルがうちのポンチョの裾をギュッと握りしめて警戒しとる。


「あんたがこのブラック企業の親玉やな! ええ加減にしなはれや! 人間を電池にしたり、嘘の放送流したり、自分だけ安全な部屋に引きこもって、他人の人生をマニュアルで縛り付けやがって!」


 うちがトングを突きつけて怒鳴りつけると、皇帝は冷ややかに鼻で笑った。


「……縛り付けているのではない。『管理』してやっているのだ。……お前たちのような、感情という不確かなバグ(ノイズ)で動く旧世代の人間がいるから、世界は争い、傷つき、非効率な悲劇を繰り返す。……だから私が、すべてを完璧なマニュアルで管理し、誰も感情で傷つかない『究極のホワイトな世界』を作ってやろうというのだ」


「ホワイトな世界やて? アホか!!」


 うちは腹の底から、特大のオカン怒声を響かせた。


「痛い時に泣くことも許されへん、間違えることも許されへん! そんなん、ただ心が死んでるだけやないか! 失敗もせんような機械みたいな人生、何がオモロいねん!」


「……っ! だから、そういう非論理的な感情論が不快だと言っているのだ! 私の完璧な世界に、お前たちのような不純物は必要ない! ……消えろ!」


 皇帝が、苛立ちに顔を歪め、玉座の肘掛けにある巨大な魔導コンソールを激しく叩いた。

 その瞬間やった。


 ガガガガガッ!!


 真っ白だった部屋全体が、強烈な赤黒い警報の光に包まれた。

 皇帝の背後から、彼が世界を管理するために構築した超巨大な『事象制御システム』の全貌が、幾重もの巨大な歯車と魔力回路の塔となって姿を現す。

 だが、そのシステムの様子が、明らかにおかしかった。


「……静江さん、マズいです! あのシステムが放っている魔力……ただの帝国の術式じゃありません! なんだ、このドス黒い淀みは……!」


 カイルがインテリ眼鏡を光らせ、血相を変えて叫んだ。


「……えっ?」


 皇帝自身も、コンソールに表示される異常なエラー表示を見て、目を見開いた。


「な、なんだこれは!? 計算式にない莫大な負のエネルギーが、システムの根幹に……! いや、私が構築したマニュアルではない! この世界そのものに空いていた『穴』から、未知のバグが流れ込んで……ッ!」


 そうや。

 うちは、その赤黒い淀みの気配を知っとる。

 この世界に転生した一番最初、骸骨の神様から見せられた、あの『世界崩壊の痕跡バグ』と同じ匂いや。

 この見知らぬ若き独裁者は、自分の心を守るために強固なシステムを作り上げた。やけど、そのシステムを稼働させるために、知らず知らずのうちに、この世界の奥底に眠っていた「本物の崩壊のバグ」を取り込んでしまっとったんや。


===========


『ギギギギギ……ッ!!』


 暴走を始めた巨大システムから、無数の赤黒い触手(魔力ケーブル)が生き物のように飛び出し、侵入者であるうちら……ではなく、玉座に座る皇帝自身の手足に、凄まじい力で巻き付いた。


「がぁぁっ!? な、なぜだ! 私は管理者だぞ! システムが、私を取り込もうと……!」


 皇帝が必死にケーブルを引き剥がそうとするが、暴走したバグの力は、彼が制御できる範疇を完全に超えとった。

 彼の氷のような完璧な仮面が崩れ、年齢相応の、死に対する恐怖とパニックがその顔に浮かび上がる。


「静江さん! このままでは、彼ごとシステムが暴走し、この中枢タワー……いや、世界中に致命的なバグが撒き散らされます!」


 アレンが剣を構え、強風に煽られながら叫ぶ。

 自業自得や。他人の心を部品扱いした男が、最後に自分の作った機械の部品として取り込まれようとしとる。

 ここで見捨てて逃げるのが、一番賢い選択かもしれへん。


 ……やけど。


「おばちゃん! あのお兄ちゃん、すっごく……すっごく怖がって泣いてるよ!」


 リリルが、暴走するシステムに取り込まれようとしている皇帝を見て、悲痛な声を上げた。

 せや。あいつは非道な独裁者やけど、今あそこで怯えてるのは、ただの「失敗してパニックになっとる迷子」や。


「……しゃあないな! 自分で散らかした部屋も片付けられへん、ホンマに手のかかる社長さんやで!」


 うちはアイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込み、ありったけの飴ちゃんと、特大のゴミ拾いトングを取り出した。


「アレン! カイル! リリルちゃん! 逃げるでなく、前に出るで!」


「えっ!? 静江さん、あんな暴走したシステムに突っ込むんですか!?」


「当たり前や! 社長がポカやらかしたんやったら、うちら『労働基準監督署オカン・ユニオン』が、強制的に業務改善(大掃除)したるしかないやろが!」


 うちは、赤黒い魔力が荒れ狂う暴走システムのド真ん中へ向かって、ギラギラのデコネイルが光る指をビシッと突きつけた。


「おい、そこの見知らぬ兄ちゃん! 諦めて泣きべそかいとる暇があったら、しっかり歯ァ食いしばっときや! あんたの散らかした特大のゴミ、おばちゃんが一緒に片付けたるわ!!」


 互いの正体に気づかぬまま。

 冷徹な独裁者と最強のオカンの、世界崩壊のバグを巻き込んだ最大にして最悪の「共同作業(大掃除)」が、今、白亜の社長室を舞台にして怒涛の勢いで幕を開けたんや!


読んでくれてありがとうございます!


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