第235話 終わらない承認の迷宮と、オカン流・直談判ルート
無数の監視の目を「図太い井戸端会議」とオレンジ茶で強制終了させたうちらは、親玉の引きこもり部屋(真の闇)の、さらに奥深くへと歩みを進めとった。
「……静江さん。この空間、歩いても歩いても景色が変わりません。それに、足元に散らばっているこの白い紙の束は……」
アレンが、長剣の先で床に積もった紙切れを拾い上げる。
見れば、空間のあちこちに、天井まで届くほどの巨大な「書類の山」が、まるで迷路の壁のようにそびえ立っとった。
カイルがインテリ眼鏡を光らせ、その紙切れを覗き込む。
「……『決裁書』に『稟議書』、それに『始末書』ですか。どれもこれも、何重にも承認の印を押す欄が設けられていますが、すべて途中で処理が止まっていますね」
すると、巨大な書類の山の奥から、青白い顔をした無数の「サラリーマン(幻影)」たちが、フラフラと歩み出てきた。
彼らの顔には生気がなく、両手には山のような書類の束を抱えとる。
『……ハンコを……。次の部署の、承認印を……』
『……私の責任ではない……。上の指示通りにやっただけだ……。私に責任を問わないでくれ……』
彼らはブツブツとうわ言を呟きながら、うちらの周りをぐるぐると歩き回り、持っていた書類を吹雪のように撒き散らし始めた。
「な、なんやこれ! 鬱陶しいわぁ!」
うちが特大のゴミ拾いトングで紙吹雪を払いのけようとしたが、紙は払っても払っても無限に湧き出してくる。
『……不確定要素(侵入者)を検知。処理ルートを通せ。……第一承認、第二承認、第三承認……すべてのハンコが揃うまで、この迷宮から出ることは許可されない』
空間全体に、あの機械的で冷徹な親玉の声が響き渡った。
「ハンコが揃うまで出られへんやて!? アホか! こんな紙切れの迷路、力ずくで突破したるわ!」
「僕が道を切り拓きます! 『刹那の観測』!」
アレンが神速の踏み込みで、目の前の書類の壁めがけて長剣を振り下ろす。
ガガァァァンッ!
だが、アレンの剣は分厚い紙の束に「ズブッ」と深く食い込んだだけで、壁を切り裂くことはできへんかった。
「……っ! 剣が、紙の束に絡め取られて抜けない……!」
「アレン! 下がってください、『炎の矢』!」
カイルが炎の魔法を放ち、書類の壁を燃やそうとするが、紙の表面に青白い魔力のバリアが張り巡らされており、炎はシュンと音を立てて消滅してしもうた。
「……静江さん、物理攻撃も魔法も、この『手続きの壁』には通用しません! 相手のルール(承認)に則らない限り、空間そのものが攻撃を無効化してしまうようです!」
カイルが焦燥の声を上げる。
書類の吹雪は激しさを増し、うちらの足元を徐々に埋め尽くしていく。
このままやと、うちらもこの終わらない決裁ルートの迷宮に飲み込まれ、紙の下で窒息してまうわ。
「……おばちゃん、このおじさんたち、すっごく怯えてるよ」
リリルが、タロットカードを胸に抱きながら、うわ言を呟く幻影たちを見つめて言った。
彼女は空中にバシッと一枚のカードを展開する。
出たのは、『審判(Judgement)』の逆位置や。
「……カードが言ってるよ。失敗して怒られるのが怖くて、みんなで責任を押し付け合ってるんだって。……一番上のおじさん(親玉)も、本当は自分で決めるのが怖くて、こんなにいっぱい『壁(書類)』を作って隠れてるだけだよ」
リリルの真っ直ぐな言葉が、迷宮の空気をピリッと震わせた。
「……なるほどな。失敗の責任を取るんが怖くて、ハンコっていう『言い訳の壁』を何重にも作って引きこもっとるんか」
うちは大きくため息をつき、アイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込んだ。
「ええか、親玉の坊ちゃん! 組織っちゅうのはな、下に責任を押し付けるためのもんやない! 一番上の社長が『全部俺が責任持ったるから、好きにやれ!』って言うためにあるんやろが!」
うちは、アイテムボックスから、真っ赤なインクがたっぷり染み込んだ『特大のハナマル・スタンプ(直径一メートル)』と、前向きな活力を生み出す『リンゴ味』の飴ちゃんを限界まで取り出した。
「アレン! カイル! こんな回りくどい手続き、付き合う必要あらへん! うちらは労働基準監督署や! 下請けすっ飛ばして、社長に『直談判』や!」
「直談判……!? でも、この壁をどうやって!?」
「こうやるんや!」
うちは、特大のハナマル・スタンプに、すり潰したリンゴ飴の粉末をたっぷりと振りかけた。
そして、それを特大のゴミ拾いトングでガシッと挟み込み、書類の壁めがけて、思いっきり全力で叩きつけた!
「承認なんか、おばちゃんが全部まとめて押したるわ!! オカン特権、『全決裁・強制通過』やぁぁッ!!」
ドゴォォォォンッ!!!
スタンプが書類の壁に激突した瞬間、リンゴ飴の「絶対的な肯定」の魔力が、分厚い言い訳の壁を内側から爆発的に吹き飛ばした。
『責任』という重圧から解放された書類たちは、キラキラと輝く光の粒子となって、迷宮ごとサラサラと崩れ去っていく。
『な、なんだと……!? 規定のルートを無視して、壁が……私の防壁が、こんな強引な肯定で崩されるなど……!』
親玉のパニックになった声が空間に響き渡る。
「当たり前や! 失敗したって、命まで取られるわけやない! そんな紙切れで心にバリケード張ってんと、堂々と表に出てきて責任取らんかい!」
うちは、崩れ去った書類の山を踏み越え、トングを肩に担ぎ直した。
「……すごい。終わらない迷宮が、たった一つのスタンプで……」
アレンが呆然としながらも、剣を取り戻してニカッと笑う。
「ええ。理不尽な手続きには、理不尽なまでの『強行突破』が一番効くということですね」
カイルもインテリ眼鏡を押し上げ、頼もしく頷いた。
「さぁ、行くで! くだらん言い訳の壁はこれで全部ぶっ壊した! 次はいよいよ、この引きこもり部屋の『ド真ん中』にカチ込みや!」
責任逃れの迷宮を、オカン流の特大ハナマルで強引に突破したうちら。
大帝国アルビオンのすべてを操る、孤独で冷徹な親玉(ブラック社長)との直接対決は、もうすぐそこまで迫っとったんや!
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