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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる 〜運命は変わってへんで〜  作者: 川原 源明
最終章:帝国本社ガサ入れ! 笑顔のディストピアと最強オカンの卒業

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第233話 終わらない試験会場と、オカン流・特大のハナマル添削

 ごま油の滑りと飴ちゃんの甘い匂いによって、感情を排除した「完璧な歯車の世界」をスクラップに変えたうちら。

 崩れ落ちる真鍮の歯車の隙間から、さらに奥へと続く真っ暗な道が現れた。


「……静江さん、気をつけてください。この先は、今まで以上に空気が張り詰めています。まるで、針の穴を通すような息苦しさだ」


 カイルがインテリ眼鏡を中指で押し上げ、杖の先に灯した光を頼りに慎重に歩みを進める。

 アレンも西の大陸の長剣を構え、リリルはうちのポンチョの裾をギュッと握りしめとる。

 皇帝の心の中枢たる「真の闇」。その奥深くに進むにつれて、空間そのものが持つ『拒絶』の意志が、肌を刺すように強くなっとるのが分かった。


 やがて、うちらの足元が再び硬い床のような感触に変わった。

 パッ、と周囲が不自然なほど白い光に照らし出される。

 そこに広がっていたのは、広大な……いや、果てしなく続く『真っ白な教室』のような空間やった。

 等間隔に並べられた無数の無機質な机と椅子。そして、空のあちこちを、数え切れないほどの「紙切れ」が猛吹雪のように舞い散っとる。


「……なんやこれ。学校の教室……?」


 うちが特大のゴミ拾いトングを肩に担いで呟くと、その舞い散る紙切れの一枚が、うちの顔の前にヒラリと落ちてきた。

 拾い上げてみると、それは真っ赤なインクで『不合格』『減点』『価値なし』という文字がびっしりと書き込まれた、何かのテスト用紙(評価表)やった。


『……その通り。ここは完璧なる評価の空間。数値化された絶対の基準のみが、人間の価値を決める場所だ』


 教室の教壇にあたる位置に、いつの間にか一人の男が立っとった。

 分厚い黒縁眼鏡をかけ、手には赤黒い魔力を帯びた巨大な羽ペンを持っとる。その姿は、かつての人事部長や法務局長にも似ていたが、さらに冷徹で、血の通っていない『完璧な試験官』の幻影やった。


「評価の空間やて? あんたら、ほんまに数字と点数で人を測るんが好きやな」


 うちが呆れて溜息をつくと、試験官の幻影は冷たい声で宣告した。


『この世界に、無駄な感情はノイズでしかない。すべては満点か、それ以外か。……さぁ、不法侵入者ども。お前たちのこれまでの人生の選択、能力、そして存在価値を、この私が厳密に採点してやろう。……百点満点に満たない欠陥品は、この空間の塵として消去する』


 試験官が巨大な羽ペンを一振りした瞬間。

 空間を舞っていた無数のテスト用紙が、鋭い刃のような吹雪となってうちらに襲いかかってきた!


「させません! 『雷の障壁』!」


 カイルが即座に多重結界を展開する。

 だが、紙吹雪が結界に触れた瞬間、紙に書かれた赤い文字が光り輝き、カイルの魔力回路そのものに干渉を始めたんや。


「なっ……!? 僕の魔法の構築式が、強制的に『添削』されている……!? 術式のわずかな無駄を減点対象とされ、魔力が根こそぎ奪われていく……!」


 カイルが膝をつき、苦悶の表情を浮かべる。

 完璧主義の彼の魔法ですら、この空間の絶対的な「減点法」の前では、粗探しをされて力を失ってしまうんや。


「カイル! くそっ、ならば僕の剣で……!」


 アレンが神速の踏み込みで試験官に斬りかかろうとするが、試験官は羽ペンを素早く振るい、アレンの足元に巨大な『バツ印(×)』を描いた。

 ガァァァンッ!

 見えない巨大な力で上から押さえつけられ、アレンが床に叩きつけられる。


『……踏み込みの角度に一ミリのブレあり。減点だ。……お前たちの不完全な技など、この完璧なる採点システムの前では赤子の遊戯に過ぎない』


 カイルの魔法も、アレンの神速も、ほんの少しの「人間らしいブレ(余白)」があるだけで、徹底的に減点され、行動そのものを封じられてしまう。

 息が詰まるような、絶対的な減点主義の地獄や。


===========


「……おばちゃん、お兄ちゃんたちが……!」


 リリルが涙目でうちを見上げる。

 うちはパイプ椅子をガシャンと広げ、どっかと座り込みながら、周囲に舞い散る「不合格」のテスト用紙をじっと見つめとった。


 怖いんやない。

 ただ、この息苦しい空間の空気が、うちの魂の奥底にある「前世の記憶」をチクリと抉ってきよったんや。


(……せや。前世の大阪で、うちも息子にこれと同じことをしてしもてたな……)


 息子が一生懸命に描いてきた絵よりも、持ち帰ってきたテストの点数ばっかり見て、「なんでここ間違えたんや」「もっと頑張らな、ええ学校行かれへんで」って、減点法でばっかり彼を評価してしもうた。

 本人がどれだけ頑張ったかという「過程」を見ず、世間体が決めた「満点」という結果だけを押し付けた。

 その結果、息子は心を閉ざし、息苦しさに耐えかねて、うちの手の届かないところへ行ってしもうた。


 この皇帝の心の中にある「真の闇」。

 それは、ただの暴君の狂気やない。

 誰かに評価されること、完璧でなければ見捨てられるという『極度の恐怖と孤独』が作り出した、悲しい防壁なんやわ。


「……おばちゃん?」


 リリルの声で、うちはハッと我に返った。

 彼女は、小さな手でタロットカードを一枚、空中にバシッと展開しとった。

 出たのは、『正義(Justice)』の逆位置。


「……カードが言ってるよ。おじさんの採点、全然公平じゃないって。……本当の自分の価値は、紙の上の点数なんかじゃ決まらない。……おじさんは、間違えるのが怖くて、自分で自分をいじめてるだけだよ!」


 五歳から成長した一番弟子の、一切の混じり気のない真っ直ぐな言葉。

 それが、試験官の幻影の冷徹な顔を、一瞬だけピクリと歪ませた。


『……黙れ。完璧でなければ、存在を許されない。それがこの世界の、そして私の絶対のルールだ……!』


 試験官が顔を真っ赤にして激昂し、巨大な羽ペンを振り上げて、リリルめがけて特大の『バツ印』を放とうとした。


「――やかましいわ!!」


 ガァァァァンッ!!

 うちはパイプ椅子を蹴り飛ばし、特大のゴミ拾いトングで、その飛んできたバツ印の魔力を思いっきり弾き飛ばした。


「……ええ加減にしなはれ。こんな重箱の隅をつつくような嫌らしい引っかけ問題ばっかり出しといて、何が完璧な評価や!」


 うちは、舞い散るテスト用紙を一枚むんずと掴み取り、試験官の鼻先にビシッと突きつけた。


===========


「百点満点以外はゴミやて? アホか! 人間なんてな、間違えるからこそ次どうすればええか考えるんやろが! 失敗もせんような機械みたいな人生、何がオモロいねん!」


『な、何を……! 不完全なものを認めるなど、怠慢だ! 敗北だ!』


「敗北ちゃうわ! それが『成長』っちゅうもんや! ……おばちゃんが、あんたのその偏った採点基準、根本から添削し直し(書き換え)たるわ!!」


 うちはアイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込んだ。

 取り出したのは、前世からずっと持っていた、使い込まれた極太の『赤ペン(油性マーカー)』や。

 さらに、前向きな活力を生む赤色の『リンゴ味』と、精神を安定させるオレンジ色の『オレンジ味』の飴ちゃんをすり潰し、その粉末を赤ペンのインクに限界まで混ぜ込んだ。


「アレン! カイル! 立ちなはれ! 減点されたら、その分『加点』して取り返せばええだけのことや!」


「……っ! はい!」


「静江さん……ええ、僕の魔法は、減点されるほどヤワじゃありませんよ!」


 うちの気迫に押され、二人が魔力を振り絞って立ち上がる。


「行くで! おばちゃんの『特大ハナマル添削』や!!」


 うちは、空を舞う無数の「不合格」のテスト用紙に向かって、特大の赤ペンを振り回し始めた。

 紙の上の『バツ印』や『減点』の文字の上から、飴ちゃんの魔力がたっぷり染み込んだ赤ペンで、強引に、そして豪快に、ぐるぐると大きな『ハナマル(花丸)』を書き殴っていく。


「ここ、計算間違えてるけど、発想はユニークやから加点! ここは字が汚いけど、一生懸命書いた跡があるから努力賞で加点! ほら、これもハナマル! あれもハナマルや!!」


『ば、馬鹿な!? 私の絶対の評価基準が……甘ったるい落書きで上書きされていく!?』


 試験官が悲鳴を上げる。

 リンゴとオレンジの飴ちゃんの力が込められたハナマルは、用紙に書かれた「否定的な言葉(呪い)」を次々とポジティブな力へと変換していったんや。

 不合格の紙吹雪は、温かい光を帯びた桜吹雪のように変わり、カイルやアレンの体力を逆に回復させていく。


「……これが、おばちゃんの評価や。……完璧じゃなくてもええ。間違えたら、一緒にやり直せばええねん。……あんたも、ほんまは誰かにそう言って欲しかったんやろ」


 うちは試験官の真正面に歩み寄り、その手から巨大な羽ペンをひったくると、彼のおでこに、極太の赤ペンで特大のハナマルを「グリグリッ!」と書き込んでやった。


「い、痛っ……! あ、あれ……?」


 おでこにハナマルを書かれた試験官の顔から、冷徹な仮面がスゥッと崩れ落ちた。

 代わりに浮かんだのは、テストの点数に怯え、誰かに認めてほしくて必死に背伸びをしていた、小さな子供のような弱々しい表情やった。


「……もう、頑張らんでええ。あんたは、そのままで十分頑張っとるわ」


 うちは、彼の口にリンゴ味の飴ちゃんをポイッと放り込んだ。

 甘酸っぱいリンゴの味が、彼の心にこびりついていた「完璧でなければならない」という強迫観念を、優しく溶かしていく。


『……あぁ……。僕は……ただ、褒めてほしかっただけ、なのに……』


 試験官の幻影は、ホロリと一粒の涙をこぼし、そのまま光の粒子となって、真っ白な教室ごとサラサラと崩れ去っていった。


「……消えましたね。息苦しかった空間の重圧が、完全に晴れました」


 カイルがインテリ眼鏡を拭きながら、深く息を吐き出す。


「ええ。静江さんの『ハナマル』のおかげで、僕の剣も以前より軽く感じます」


 アレンも、憑き物が落ちたような爽やかな笑顔を見せた。


「せやろ。人間、減点ばっかりされてたら身がすくむわ。たまには自分にハナマルつけて甘やかすんが、長生きの秘訣やで」


 うちは赤ペンをアイテムボックスに仕舞い、大きく伸びをした。

 心の中にあった前世の後悔も、このハナマルと一緒に、少しだけ昇華されたような気がしたわ。


「さてと! 皇帝の坊ちゃんの心の防壁も、だいぶ薄なってきたみたいやな。……次はいよいよ、この引きこもり部屋の『一番奥』にカチ込みやで!」


 終わらない試験会場を、オカン流の特大ハナマル添削で強引に突破したうちら。

 アルビオン帝国のすべてを操る、孤独で冷徹な親玉(ブラック社長)との直接対決は、もうすぐそこまで迫っとったんや!


読んでくれてありがとうございます!


「面白い!」「続きが気になる!」「応援したい!」と思っていただけたら、

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みなさんの応援が、次回更新の原動力になります。

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