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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
最終章:帝国本社ガサ入れ! 笑顔のディストピアと最強オカンの卒業

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第231話 真っ黒な社長室と、弟子たちの卒業検定

 大帝国アルビオンの中枢タワー、最上階。

 筆頭秘書のセクレタリアを「生活のノイズ(回覧板とチラシ)」でパンクさせ、うちらはいよいよ、すべての元凶である皇帝が待つ社長室の分厚い黒鋼の扉を蹴り開けた。

 ……やけど。


「……なんや、ここ。電気代ケチりすぎちゃうか」


 うちが特大のゴミ拾いトングを肩に担いだまま呟くと、横に立つアレンも油断なく長剣を構え、ゴクリと息を呑んだ。


「静江さん、気をつけてください。ここはただの暗闇じゃない。……上下左右の感覚すら曖昧になるような、異常な空間です」


 扉の奥に広がっていたのは、煌びやかな玉座の間でも、豪華な執務室でもあらへんかった。

 光をすべて吸い込むような「真っ黒な空間(真の闇)」が、どこまでも果てしなく続いとったんや。

 カイルがインテリ眼鏡を指で押し上げ、指先に小さな光の魔法を灯しながら分析する。


「……物理的な部屋というより、極めて高度な『精神世界(固有結界)』に近いですね。外部からの予測不能なノイズ(感情)を完全にシャットアウトするために、皇帝自身が心の周囲に築き上げた、分厚い絶対防壁……いわば『究極の引きこもり部屋』です」


「引きこもり部屋やて? ほんまに、トップがそんなんでどうやって国回しとんねん」


 うちは呆れてため息をついた。

 だが、その暗闇の中から、不気味な笑い声と共に、ドロドロとした白い霧が湧き出してきた。


『……帰れ。ここは完璧な静寂。他人の土足(感情)を許さぬ場所……』


 霧は形を変え、うちらの目の前で「人間の姿」を取り始めた。

 それを見て、アレンとリリルが同時に「あっ」と小さく息を呑んだ。

 霧が形作ったのは、帝国の兵士やない。

 かつてアレンを「無能」「足手まとい」と罵ってルミナの広場で追放した、あの嫌味な冒険者パーティーのリーダーの姿。

 そしてリリルの前には、彼女を「生きた電池」として魔力炉に繋ごうとした、カリカの特権商社の醜い役人の姿が浮かび上がったんや。


『……おい、無能アレン。お前みたいなノロマが、偉そうに騎士気取りか? どうせまた、肝心なところで仲間の足を引っ張るんだろう?』


『そうだエルフのガキ。お前は一生、誰かに搾取されるだけの電池に過ぎないんだ。その女に守られて、まだ自分に価値があると思っているのか?』


 侵入者の心を折るために、皇帝の防壁が自動で生み出した「過去のトラウマ」の幻影や。


「……チッ。他人の心の傷をえぐるような真似しやがって! ええ加減にしなはれ!」


 うちが激怒してトングを振りかざし、アイテムボックスから飴ちゃんを取り出そうとした、その時やった。


「……静江さん。手出しは無用です」


 アレンが、静かに、けれど揺るぎない声でうちを制止した。


「アレン?」


「おばちゃん、わたしも大丈夫。……もう、おばちゃんの背中に隠れて震えてた、あの時のわたしじゃないもん」


 リリルも、うちの前に進み出て、真っ直ぐに幻影を見据えた。


 二人の顔には、かつてのような「過去への恐怖」は一ミリもあらへんかった。

 アレンは西の大陸の長剣をスッと上段に構え、かつてのトラウマである冒険者の幻影に向かって、清々しい笑顔を向けた。


「……確かに、昔の僕は周りに合わせられなくて、自分の本当の力(速さ)を見失っていた。……でも、静江さんが僕の背中を押してくれたおかげで、僕は自分の武器を信じられるようになったんだ」


『な、何を強がって……!』


「今の僕は、ルミナの誇り高き騎士であり、最強のオカンの一番弟子だ! 過去の未練ごと、吹き飛べ!」


 アレンの瞳が青白く輝く。

『刹那の観測』から放たれた神速の一閃が、冒険者の幻影を文字通り「一刀両断」に斬り捨てた。幻影は悲鳴を上げる間もなく、ただの霧となって霧散していく。


 そしてリリルも、役人の幻影の前にタロットカードを一枚、バシッと突きつけた。

 出たのは、『審判(Judgement)』の正位置や。


「……カードが言ってるよ。過去の呪縛からの解放、そして新しい自分への生まれ変わりだって」


『だ、黙れガキ! お前などただの部品のくせに!』


「部品じゃない! わたしは、南の森の社長で、立派な占い師だもん! ……おじさんの言葉、ちっとも怖くないよ!」


 リリルの迷いのない真っ直ぐな言葉が、言霊(魔力)となって役人の幻影を打ち砕き、シュアアアッと音を立てて浄化してしもうた。


===========


「……」


 うちは、トングを下ろして、その光景を呆然と見つめとった。

 手出しする隙なんて、どこにもあらへん。

 あんなに泣き虫で自信がなかったアレンと、おどおどして木箱の裏に隠れていたリリルが。

 今や、自分の足で立ち、自分の過去トラウマを自らの手で綺麗に「お掃除」してしもうた。


「……静江さん? どうしたんですか、鼻をすすって」


 アレンが剣を納め、不思議そうに振り返る。


「……なんでもないわ! ここ、埃っぽくてちょっと鼻がムズムズしただけや!」


 うちは慌ててサングラスの奥の涙を拭い、強がって鼻をフンッと鳴らした。

 あかん、子供の成長を見せつけられて、オカンの涙腺が完全に緩んでもうとる。


「……ふふっ。素晴らしいですね。この心の防壁(トラウマの迷宮)も、彼らの強い意志の前にはただの『薄い霧』に過ぎないようです」


 カイルが優しく微笑みながら、先へと続く暗闇の道を杖で照らした。


「せやな! さすがうちの自慢の弟子たちや! これで入口の『お化け屋敷』はクリアやな!」


 うちは気合を入れ直し、特大トングを肩に担いで、真っ黒な空間の奥をギロッと睨みつけた。


「さぁ、皇帝の坊ちゃん! うちらの家族の絆は、こんな小細工じゃ一ミリも揺るがへんで! 覚悟して首洗って待っときや!」


 弟子たちの見事な「卒業検定(トラウマ克服)」を見届けたおばちゃん一行。

 皇帝の閉ざされた心(引きこもり部屋)の最深部へ向けて、真の闇の中を力強く進んでいくんや!


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