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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
最終章:帝国本社ガサ入れ! 笑顔のディストピアと最強オカンの卒業

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第230話 完璧な社長秘書と、オカン流・予定不調和の回覧板

 財務局の「命の金貨」を全土に還元し、ついに帝国の資金源をスッカラカンにしてやったうちら。

 魔導昇降機を降りると、そこは中枢タワーの最上階。

 目の前には、見上げるほど巨大で、重厚な黒鋼で造られた『社長室(玉座の間)』の扉がそびえ立っとった。


「……静江さん。この扉の奥から、今までのどの階層とも違う、底知れないプレッシャーを感じます。まるで、世界そのものを押し潰すような……」


 アレンが長剣を構え、額に冷や汗をにじませる。

 カイルもインテリ眼鏡の奥で目を細め、幾重にも防御結界を展開した。


「間違いありません。この奥にいるのが、すべての理不尽な法律とマニュアルを生み出した元凶、アルビオン皇帝です」


「せやな。ここまで来るのにえらい手間かかったわ。さっさとこの扉蹴り開けて、特大のクレーム叩き込んだるで!」


 うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、厚底ブーツでズンズンと扉へ向かって歩き出した。


 ……だが、うちが扉に手をかけようとした、その瞬間。


「――申し訳ありませんが、本日はアポイントメントが入っておりません。お引き取りください」


 静寂に包まれた最上階のホールに、氷のように冷たく、機械的な女性の声が響いた。


 黒鋼の扉の前に、いつの間にか一人の女性が立っとった。

 髪を隙なく束ね上げ、タイトな純白のスーツに身を包んだ、神経質そうな眼鏡の女。

 その手には、分厚い黒革の「スケジュール帳」と銀色の万年筆が握られとる。


「ようこそ、帝国中枢最上階へ。私は皇帝陛下の筆頭秘書官、セクレタリア。……陛下のお時間を、貴方方のようなイレギュラーな存在に一秒たりとも割かせるわけにはいきません」


 セクレタリアが眼鏡を中指で押し上げ、冷ややかに見下してくる。


「アポイントやて? アホか! 労働基準監督署のガサ入れに、事前予約なんかいるかいな! そこ退きなはれ!」


 うちはトングを突きつけて怒鳴るが、秘書官は一切動じることなく、手元のスケジュール帳をペラリとめくった。


「午後三時十五分、侵入者の剣士が神速の斬撃を放つ。……しかし、それは第参防壁によって完全に相殺される」


 彼女が万年筆でサラサラと何かを書き込んだ、その直後。


「どいてください! 『刹那の観測』!」


 アレンが神速の踏み込みでセクレタリアの懐に潜り込み、峰打ちを放とうとしたが……何もない空間から突如として分厚い光の盾(第参防壁)が出現し、アレンの剣をガキィィィンッ! と完璧なタイミングで弾き返したんや。


「なっ……!? 僕の動きが、完全に読まれていた!?」


 アレンが驚愕して後方に跳ぶ。


「午後三時十五分十秒。後方の魔導師が雷撃を放つが、対魔力フィールドにより無効化される」


 セクレタリアが再びペンを走らせると、カイルが放った渾身の雷の魔法が、彼女に届く数寸前でシュン……と音を立てて霧散してしもうた。


「……僕たちの行動を、すべて『予定』として書き込み、強制的にその通りの現実を引き起こしているのか……! なんという恐ろしい事象制御の魔法だ!」


 カイルが舌打ちをする。


「驚くことではありません。下層での貴方方の戦闘データ、そして行動パターンは、すべて私の頭脳にインプットされています。どのような攻撃も、私の完璧なスケジュール管理の前では、単なる『予定調和』に過ぎないのです」


 セクレタリアが、誇らしげに黒革の手帳を掲げた。


「予定調和ぁ? ほな、これはどうや!」


 うちはアイテムボックスの奥深くに手を突っ込み、精神を安定させるオレンジ味と、前向きになるリンゴ味の飴ちゃんを取り出し、彼女の口めがけて指で弾き飛ばした。

 だが。


「午後三時十六分。女が甘味を投擲するが、血糖値の急激な上昇は業務の妨げになるため、結界で廃棄する」


 パキィィィンッ!

 うちの最強のサプリメント(飴ちゃん)が、彼女の顔に届く前に、見えない壁に弾かれて粉々に砕け散ってしもうたんや。


「なっ……おばちゃんの飴ちゃんを、血糖値がどうのって理由で弾きよったで! こいつ、本物の堅物エリートや!」


 うちは思わず目を見開いた。

 物理攻撃も、魔法も、オカンの飴ちゃんすらも、すべて手帳に書き込まれて「却下」されてしまう。


「……無駄です。貴方方の取るべき次の行動も、すでにここに記してあります。『午後三時二十分、侵入者たちは絶望し、制圧される』とね」


 セクレタリアが万年筆を高く掲げると、ホールの周囲から無数の防衛用ゴーレムが湧き出し、うちらを完全に包囲した。


 完璧なスケジュール管理による、絶対的な封殺。

 打開策が見えない中、うちの背後で、すっかり立派な占い師として成長したリリルが、タロットカードを胸に抱えて一歩前に進み出た。


「……リリルちゃん?」


「……お姉ちゃん。その黒い手帳、見せてもらったよ」


 リリルは、セクレタリアを真っ直ぐに見据え、空中に一枚のカードを展開した。

 出たのは、『愚者(The Fool)』の正位置や。


「……カードが言ってるよ。お姉ちゃんの手帳、朝から夜まで、分刻みで予定が真っ黒に書き込まれてる。……遊ぶ時間も、お茶を飲む時間も、ボーッとする時間も、どこにもない。……そんなの、息が詰まって倒れちゃうよ」


 リリルの純粋で真っ直ぐな言葉が、ホールの冷たい空気を切り裂く。

 セクレタリアの眼鏡の奥の瞳が、一瞬だけピクリと揺れた。


「……倒れる? くだらない。私は皇帝陛下の筆頭秘書。完璧なスケジュールをこなすことこそが、私の存在意義であり、幸福なのです。余白などという無駄は、この帝国には必要ありません!」


「無駄やて!?」


 うちは、リリルの言葉を受けて、パイプ椅子をガシャンと蹴り飛ばし、特大トングを肩に担ぎ直した。


「リリルちゃんの言う通りや! 人間の生活っちゅうのはな、手帳に書いた通りに進まんからオモロいんやろが! ギチギチに予定詰め込んで、ロボットみたいに生きてて何が幸せやねん!」


「戯言を。ならば、その愚かな思考ごと、予定通りに制圧して……」

 セクレタリアが万年筆を走らせようとした、その瞬間やった。


「予定調和がなんぼのもんじゃい! おばちゃんが、あんたのその真っ黒な手帳に、特大の『生活のノイズ』を書き込んだるわ!!」


 うちはアイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込み、これまでの旅で溜め込んでいた、ありとあらゆる「生活のガラクタ」をドサドサッとホール中にばら撒き始めた!


「アレン! カイル! これ全部、あの秘書の周りに撒き散らしなはれ!」


「えっ!? これをですか!?」


 うちが放り出したのは、大和郷で配った『特売チラシの束』、町内会の『回覧板』、さらには近所のオバチャンたちからもらった『タッパーに入った煮物の残り』や、『特売で安かった大根やネギ』といった、生活感丸出しのアイテムの数々や!


「はい! 風よ、すべてを巻き上げろ!」


 カイルの風魔法に乗って、チラシや回覧板、タッパーのフタ、そして大根が、吹雪のようにホールの宙を舞い、セクレタリアの視界とスケジュール帳の周りをブンブンと飛び回り始めた。


「な、なんだこれは!? チラシ? 回覧板……!? 予定にない物体が、無数に飛び交って……計算が、事象制御が追いつかない!」


 セクレタリアがパニックに陥り、万年筆を振り回すが、あまりにもランダムで無意味な『生活のノイズ』の乱れ打ちに、彼女の完璧な頭脳(スケジュール管理)は完全にキャパシティを超えてしもうた。


「午後三時十八分……いや、十九分……! 処理不能! エラー! スケジュールが、真っ白に……!」


 ブチッ!

 彼女の持つ黒革の手帳から、魔力のショートする嫌な音が鳴り、ページがパラパラと燃え上がって灰になっていく。


「よっしゃ、パンクしよったで! アレン、今や!」


「承知しました! 『刹那の跳躍』!」


 予定という盾を失ったセクレタリアの懐に、アレンが神速で潜り込み、周囲の防衛ゴーレムたちを次々と峰打ちでスクラップに変えていく。

 うちは、呆然と立ち尽くすセクレタリアの目の前まで歩み寄り、特大トングで彼女の胸ぐらをガシッと挟み込んだ。


「……ほら、手帳が燃えて、予定がすっからかんになったな」

「あ……あぁ……。私の、完璧なスケジュールが……。私は、これから何をすれば……」


 予定を失い、完全に壊れた操り人形のようになった秘書官。

 うちはアイテムボックスから、温かいお茶を入れた水筒と、精神を落ち着かせるオレンジ味の飴ちゃんを取り出し、彼女の手に無理やり握らせた。


「決まっとるやろ。予定が空いたんやったら、とりあえず『休憩ティータイム』や。……あったかいお茶飲んで、甘いもん舐めて、ボーッとしなはれ。それが、人間の一番贅沢な時間の使い方やで」


 セクレタリアは、震える手で飴を口に含み、お茶をすすった。

 その瞬間、彼女の張り詰めていた顔から、憑き物が落ちたように険しさが消え、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。


「……甘い……。温かい……。私、何百年も、こんな風に息をついたことなんて、一度も……」


 完璧な秘書官は、手帳を捨て、ただの一人の疲れ切った女性に戻って、床にへたり込んで泣き崩れた。


「……ふぅ。これで、社長室前の厄介な受付もクリアやな」


 うちはトングを肩に担ぎ、ついに目の前に立ちはだかる、最上階の巨大な黒鋼の扉を見上げた。

 アレンが剣を構え、カイルが息を呑み、リリルがうちのポンチョの裾を強く握りしめる。

 この奥に、大和郷からカリカ、そして新大陸に至るまで、すべての理不尽を撒き散らしてきた元凶がいる。


「さぁて、アルビオン帝国の社長さん。お待たせしたな。おばちゃんの出張鑑定、最後の大仕事(ガサ入れ)やでぇぇッ!!」


 うちは厚底ブーツで、その巨大な扉を力一杯蹴り開けた。

 だが、その奥に広がっていたのは、煌びやかな玉座の間などではなかった。

 うちらの想像を絶する、この世界そのものを歪めるような「真の闇」が、音もなく口を開けて待ち受けていたんや。


読んでくれてありがとうございます!


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