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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明


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第23話 ヒョウ柄の凱旋と、黄金の算盤

 ルミナの街へと続く並木道を、侯爵家から借り受けた豪華な馬車が揺られていく。


 窓の外を流れる景色は、数日前までの「死の静寂」が嘘のように、瑞々しい生命力に溢れていた。封鎖が解かれた街道には、ルミナへ急ぐ商人の荷馬車や、水を求めて戻ってきた農夫たちの姿がある。


 うちは、馬車のふかふかのシートに深く腰掛け、窓ガラスに映る自分の姿を眺めていた。


 漆黒のサテン地に金糸で刺繍された、特注のスカジャン風ブルゾン。


 背中には、龍と虎が宇宙の覇権を争うような猛々しい刺繍が施され、その中心には『極』の一文字が、もはや不敬を通り越して「宗教画」のような威圧感で鎮座しとる。


 光の加減でギラリと光るその金糸は、この世界のどんな高貴な絹織物とも違う。化学繊維特有の、どこか毒々しく、けれど誰にも媚びない強烈な光や。うちは、塗り直したばかりのショッキングピンクのネイルを満足げに眺め、指先で『極』の文字をなぞった。


「……静江さん。さっきから、街の入り口に見たこともないような人だかりができてますよ。……あれ、もしかして全部、僕たちを待ってるんですか?」


 御者台の横から身を乗り出し、アレンが裏返った声で叫んだ。


 馬車がルミナの広場に滑り込むと同時に、耳をつんざくような歓声が炸裂した。街中の人間が広場を埋め尽くし、色とりどりの布を振り、口々にうちの名前を呼んどる。


「静江さーん! 奇跡の占師!」「水路の女神様や!」「侯爵様をボコボコにしたって本当か!?」


 馬車の扉が開いた瞬間、うちはヒョウ柄の裏地をわざと見せびらかすように、颯爽と石畳に降り立った。一瞬、あまりにハデな格好に群衆が怯んだが、うちはアイテムボックスから掴み取れるだけの飴ちゃんを空に放り投げた。


「みんな、ただいま! お土産の飴ちゃんや、喧嘩せんと分けなはれ!」


 色とりどりのセロハンに包まれた飴が、陽光を反射して宝石のように降り注ぐ。その光景は、どんな魔法よりも鮮やかで、平和の到来を告げる合図やった。


 鼻の穴をこれ以上ないほど膨らませたバネッサさんが、人混みをかき分けて突進してきた。

「静江! 契約書、確かにギルドの使いから受け取ったよ! あんた、最高にエグいね! 侯爵領の流通網を実質的に支配したおかげで、今日だけでギルドの帳簿がカネの匂いでむせ返ってるよ!」


「バネッサさん、顔がもう金貨の形になってるで。……まぁ、これからはルミナがこの地域の心臓や。ええ商売させてもらうで」


 その日の夜、酒場『黄金の樽亭』は、歴史に刻まれるべき狂乱の祝宴会場へと変わった。

 店内に溢れるエールの香り、焼きたてのパンの匂い、そして何より、人々が「明日を恐れずに笑う」という一番贅沢な音。うちはカウンターの指定席にどっかと座り、ジョッキを傾けながら、店の一角で「奇妙な特訓」に励むアレンを眺めていた。


「……八、三、五……。あぁっ、静江さん! 剣の素振りなら千回でもできますけど、この『算盤そろばん』って道具、指が攣るどころか脳みそが沸騰しそうです!」


 アレンは左手で重い剣の柄を握りしめ、右手でうちが木の板と木の実の種を加工して作った算盤をパチパチと弾いとる。剣士の鋭い目つきで算盤の玉を睨みつける姿は、シュールを通り越して一つの芸術や。


「ええねん。これからは『護衛ができる経理』が最強なんや。剣で敵を追い払って、算盤で敵の財布を空にする。……王都へ行くなら、カネの流れが分からん奴は、一瞬で食い物にされるで」


「王都……。本当に行くんですか?」


 アレンが手を止め、不安そうにうちを見た。その瞳には、この平和なルミナを離れることへの未練よりも、うちは一人で危ないところへ行ってしまうんやないかという、真っ直ぐな懸念が宿っとった。


「……行くしかないやろ。あの次男坊が、もう勝手にお膳立てしよったわ」


 店の隅、一番高いワインを勝手に開けて優雅にグラスを揺らしているカイルが、こちらに気づいて不敵に笑った。彼はすでに、洗練された貴族の皮を脱ぎ捨て、うちの**『外務代理官ハンドラー』**としての、冷徹で愉悦に満ちた顔を完成させとる。


「……静江さん。王都には、侯爵様よりももっと強欲で、心臓が毒でできたような連中がうじゃうじゃいるって聞きます。……僕に、あなたを守り切れるでしょうか」


 アレンがうちの腕に視線を落とした。

 魔法灯の光を受けてツヤツヤと輝く、二十代の瑞々しい肌。けれど、その奥底に潜んでいるのは、死を忘れ、あらゆる困難を「値切り倒して」生き抜いてきた、58年分の大阪のおばちゃんの魂や。


「怖い? ……アレン、あんたはうちの故郷の『バーゲンセールの開店直後』を見たことがないから、そんなことが言えるんや。……王様でも魔王でも、うちの前に来たらただの『値切りの交渉相手』やわ。……うちはな、この肌が老いへん代わりに、中身に一生分の厚かましさと、飴ちゃんを詰め込んであるんや。負ける気、一ミリもせえへんわ」


 うちはアイテムボックスの底から、とっておきの一粒――透き通った黄金色の「ハチミツ味」の飴を取り出し、アレンの口に放り込んだ。


「これ食べて、気合入れなはれ。……明日の朝には出発や。……王都の連中にも、教えてあげなあかんな。……この世で一番強いんは、魔法でも権力でもない。……『生活を舐めるな』っていう、オカンの説教やってことをな!」


 うちは『極』の刺繍が施されたサテンブルゾンのファスナーを、首元までシャカッと力強く上げた。

 窓の外には、遠く王都へと続く街道が、月明かりに照らされて銀色の帯のように伸びている。


 見た目はハデなギャル、中身は最強のオカン、正体は不老の怪物。

 一人の占師が起こした小さな波紋は、今や国全体を飲み込み、歴史という名の帳簿を書き換える巨大な渦へと変わり始めていた。


「さぁて。……王都まるごと、おばちゃん色に染めたるわ!」


 ルミナの夜風に、静江の豪快な高笑いがいつまでも響き渡っていた。


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