第228話 嘘まみれの広報局と、オカン流・真実の生放送
研究開発局の非道なシステムを破壊し、解放された市民たちを安全な場所へ誘導したうちらは、魔導昇降機でさらにタワーの上層へと向かっとった。
「……静江さん。この上の階層からは、先ほどのような直接的な魔力の重圧は感じません。ですが、なんだかひどく『人工的で軽薄な空気』が漂ってきます」
カイルがインテリ眼鏡を拭きながら、昇降機の天井を見上げて訝しげに言う。
「軽薄な空気、ねぇ。ブラック企業の上の階におるのは、大抵口ばっかり達者な連中やからな。騙されんように気ぃ引き締めや」
チンッ、と軽快な音が鳴り、昇降機の扉が開いた。
そこに広がっていたのは、これまでの薄暗い工場や無機質な実験室とは全く違う、眩いほどの光に包まれた「巨大なスタジオ」やった。
部屋の壁一面には、数百個もの水晶モニターがズラリと並び、そこには帝国全土の街角や工場の映像が映し出されとる。
そして、部屋の中央には派手なスポットライトが照らされ、真っ白なスーツを着た、いかにも胡散臭い笑顔の男が立っとった。
「ようこそ、大帝国アルビオンが誇る『中央情報・広報局』へ! 私は局長のメディアス。皇帝陛下の偉大なる教えと、この国の『幸福なる真実』を全土に配信する、真実の語り部です!」
メディアスが、舞台俳優のように大げさな身振りで両手を広げる。
「広報局やて? 毎日毎日、市民に『死ぬまで働くのが幸せや』ってアホな放送流しとるんが、あんたらやな!」
うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、ズンズンとスタジオのド真ん中へ踏み込んだ。
「アホな放送とは心外な。我々が発信する情報は、完璧に編集された『美しい真実』ですよ。……そう、例えばこんな風にね」
メディアスが指を鳴らすと、スタジオ内の巨大な水晶モニターに、突然「アレンがかつての仲間を見捨てて一人で逃げ出す偽の映像」や、「カイルの魔法のせいで罪のない人々が傷つく巧妙な合成映像」が映し出された。
「なっ……!? これは、僕じゃない! 僕は誰も見捨ててなど……!」
「合成の幻術か! 悪趣味な……!」
アレンとカイルが、自分たちのトラウマをえぐるような精巧なフェイク映像を見せられ、顔を青ざめて動揺しとる。
「フフッ、映像の力は偉大でしょう? 私はこの部屋から、いくらでも『事実』を作り出せる。……全土の市民に、あなたたちが『帝国の平和を脅かす極悪非道なテロリスト』であると放送することも、造作もないことなのですよ!」
メディアスが、手元の操作盤に手を伸ばし、勝ち誇ったように笑う。
だが、うちはそんな映像をチラッと見ただけで、呆れたように鼻で笑った。
「……なんやこれ。CG(合成)のクオリティが低すぎるわ。深夜の通販番組のヤラセ演出の方が、まだリアリティあるで」
「な、なんだと!?」
「だいたいな! アレンがこんな卑怯な顔して逃げるわけないやろ! カイルかて、魔法撃つ時はもっと神経質に角度計算しとるわ! あんた、編集の前に人間の『生活感』っちゅうもんを全く分かっとらん!」
うちのオカン特有の「細かいツッコミ」に、メディアスの顔が引きつる。
そこへ、すっかり頼もしく成長したリリルが、タロットカードを一枚、モニターの前にバシッと突きつけた。
出たのは、『月(The Moon)』の逆位置や。
「……カードが言ってるよ。おじさんの見せてる映像は、全部中身がカラッポの嘘っぱちだって」
リリルは、メディアスを真っ直ぐに見据えた。
「それにね。あのモニターの向こうで放送を見ている人たちも、本当はおじさんの嘘に気づいてるよ。みんな、心がすっごく冷たくて、空っぽな顔してるもの」
「……だ、黙れ小娘! 私の放送の視聴率(洗脳率)は常に100パーセントだ! 愚かな市民は、私が与える美しい嘘だけを食べていれば幸福なのだ!」
メディアスが操作盤を激しく叩き、今度はスタジオ中に強烈な「洗脳の光と音波」を放ち始めた。
「静江さん、目を閉じて! 視覚と聴覚から直接精神を侵食する術式です!」
アレンが叫ぶが、うちは一歩も退かず、アイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込んだ。
「美しい嘘やて? アホか! 腹が減ってる時に、テレビで美味そうな肉の映像見せられても、余計腹立つだけやろが! 画面越しの嘘っぱちより、目の前にある『一個の飴ちゃん』の方が、よっぽど人間の心を救うんやわ!」
うちは、拡声魔道具を取り出し、メディアスの放送機材の音声入力部分にガチャン! と強引に接続した。
そして、アイテムボックスから取り出した、前向きな活力を生む赤色の「リンゴ味」と、精神を安定させるオレンジ色の「オレンジ味」の飴ちゃんを、すり鉢で粉々に砕き始めた。
「アレン! カイル! その操作盤の『電波塔』に、この飴の粉末を風魔法で一気に乗せて、全土のモニターに飛ばしなはれ! 映像と一緒に、おばちゃんの『本音の電波』をブロードキャストしたる!」
「は、はい! 行きます!」
カイルの風魔法が、砕かれた飴の粉末をスタジオの送風システムと魔力アンテナに乗せ、帝国全土へと一斉に拡散していく。
同時に、うちはメガホンを握りしめ、腹の底から全土の市民に向かって怒鳴りつけた。
「おーい! 帝国の皆の衆! テレビの前のあんたらや! こんな嘘まみれの放送見てんと、さっさと寝なはれ!」
おばちゃんのドス黒い、いや、温かみのある関西弁が、帝国のすべての街角のモニターから響き渡る。
「痛い時は痛いって言うてええねん! しんどい時は休んでええねん! 誰かが勝手に決めた『幸せ』なんかに縛られなや! 腹減ったら甘いもん食べて、明日も笑って生きるんが、一番の幸せやろが!!」
その言葉と共に、モニターを通じて帝国全土に降り注いだ「リンゴとオレンジの魔力(匂い)」。
洗脳の映像を見せられ、虚ろな目をしていた市民たちの鼻腔に、その甘酸っぱくて優しい香りが届いた瞬間。
彼らの瞳から、メディアスの仕込んでいた「美しい嘘」のフィルターが、音を立てて剥がれ落ちていったんや。
「あ……あれ? 私たちは、なぜあんな過酷な労働を、喜んでやっていたんだ……?」
「痛い……。そうだ、腹が減っているんだ。……休みたい、休んでいいんだ……!」
スタジオのモニターに映る全土の市民たちが、次々と洗脳から解け、手から工具や武器を落として座り込み始めた。
それは、広報局が何年もかけて築き上げてきた『洗脳のネットワーク』が、おばちゃんの「井戸端会議の電波ジャック」によって完全に崩壊した瞬間やった。
「ば、馬鹿なァァッ!? 私の、私の完璧な視聴率が! ゼロに……ゼロに暴落していくぅぅッ!!」
メディアスが、真っ暗になっていくモニターの数値を見て、頭を抱えて絶叫する。
「数字ばっかり見てるから、足元すくわれるんやわ。……嘘で塗り固めたメッキはな、本物の『生活の匂い』には絶対に勝てへんのやで!」
うちは特大トングで操作盤をガァァァンッ! とぶっ叩き、完全に放送を停止させた。
メディアスは白目を剥いて、その場にドサリと気絶してしもうた。
「……ふぅ、えらい声出したわ。これで全土の洗脳も強制解除(お開き)やな」
うちはメガホンを片付け、ホッと息をついた。
「お疲れ様です、静江さん。まさか電波ジャックで帝国全土を正気に戻してしまうとは……オカンの発信力、恐るべしですね」
カイルが呆れたように、けれど心底感心したように笑う。
「おばちゃん、すっごくカッコよかった! これで、みんなお家でゆっくり休めるね!」
立派に成長したリリルも、嬉しそうにうちのポンチョの裾を引っ張る。
「せや! 嘘まみれのブラック部署はこれで全部お掃除完了や! さぁ、アレン、カイル、リリルちゃん! いよいよ次は、このタワーの天辺……『社長室』に乗り込むでぇぇッ!」
広報局のペテンをオカンの生放送で完全粉砕したうちら。
大帝国アルビオンの中枢、諸悪の根源である皇帝の待つ最上階への扉が、今、いよいよその姿を現そうとしとったんや!
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