第227話 完璧な研究開発局と、オカン流・精密機械のホコリ払い
法務局長ジャッジメントの「絶対遵守の結界」を、特濃ハッカ水のクーリングオフで粉砕したうちら。
魔導昇降機は、いよいよ中枢タワーのさらに上層へと昇っていく。
「……静江さん。この上の階層から、極めて異常な魔力反応を感じます。ただの魔力じゃない、無理やり抽出され、不自然に加工されたような……」
カイルが、インテリ眼鏡の奥で険しい目を向けた。
彼はルミナで魔導具の開発も手がける研究者や。だからこそ、その「魔力の使われ方の異常さ」に敏感なんやろう。
チンッ、と昇降機の扉が開く。
そこに広がっていたのは、無機質で冷たい、巨大な実験室やった。
部屋の壁一面には無数のガラスカプセルが並び、その中には、老若男女問わず大勢の市民たちが、チューブに繋がれて眠らされとる。
彼らの身体から、淡い光(生命力と魔力)が絶え間なく吸い上げられ、部屋の中央にある巨大な魔導コンピューターへと送られとった。
「ようこそ、帝国中央研究開発局へ。……不純物(侵入者)の皆様」
部屋の中央から、白衣を着た小柄な女が振り返った。
だが、その顔の半分と右腕は、無機質な銀色の機械(魔導義体)に置き換えられとる。片目は赤いレンズとなって、チカチカと不気味な光を点滅させとった。
「私は局長のフラン。皇帝陛下の偉大なる計画を、技術の力で具現化する者です」
「……なんやこれ。人間を文字通り電池にしとるやないか」
うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、嫌悪感で顔をしかめた。
カリカの地下工場でもエルフが電池にされとったが、ここはさらにシステム化され、完全に「部品」として処理されとる。
「電池? ええ、最高のエネルギー源ですよ。……人間は放っておけば、無駄な感情に振り回され、喧嘩をし、非効率な一生を終える。ならば、こうして自我を休眠させ、帝国の発展のためにエネルギーだけを抽出するのが、彼らにとっても最も『幸福で効率的』な生き方なのです」
フランが、機械の右腕を動かしながら淡々と語る。
その言葉に、普段は飄々としているカイルが、かつてないほどの激しい怒気を放って前に出た。
「……ふざけるな。技術というのは、人々の生活を豊かにし、笑顔にするためにあるものだ! 人の心を奪い、ただの部品に貶めるようなものを、技術とは呼ばない。それはただの冒涜だ!」
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「冒涜? 感情などというバグを抱えた旧世代の魔導具師には、私の完璧な数式は理解できないでしょうね」
フランが冷たく笑うと、部屋の天井から無数の防衛用魔導兵器が展開し、うちらに銃口を向けた。
「排除します。あなた方の魔力も、良質なサンプルとして回収させてもらいましょう」
「やらせるか! アレン!」
「はいッ!」
カイルが雷の魔法を放ち、アレンが神速の剣技でドローンを斬り落としにかかる。
だが、ドローンの動きが不自然に速い。アレンの剣をギリギリで回避し、カイルの雷撃も、瞬時に展開された絶縁シールドによって完全に防がれてしもうた。
「……遅いですね。この部屋のシステムは、あなた方の過去の戦闘データから『行動パターン』をすでに解析済みです。物理攻撃の軌道も、魔法の波長も、すべて私の義体と防衛システムが予測し、最適化された防御を行います。……私の『完璧な機械』の前に、あなた方の感情的な攻撃は無意味です」
フランの赤い機械の目が点滅し、ドローンが正確無比な陣形を組んでうちらを追い詰めていく。
「くそっ……! 完全に動きを読まれている……!」
アレンが焦燥の声を上げる。
カイルも、額に汗を浮かべて障壁を張るのが精一杯や。
だが。
うちはパイプ椅子をガシャンと広げてどっかと座り込み、余裕の笑みを浮かべてタロットカードをシャッフルしとった。
「……完璧な機械、ねぇ」
うちは、バシッと一枚のカードを展開した。
出たのは、『塔(The Tower)』の正位置や。
「フランとやら。あんた、機械のことばっかり勉強して、大事な『日常のお手入れ』を忘れとるんとちゃうか?」
「……何だと?」
「あんたのその機械の身体も、部屋のドローンも、確かに計算は完璧かもしれん。でもな、どんなに精密で高価な機械でも、一番恐ろしいのは魔法でも剣でもあらへんのや!」
うちはアイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込んだ。
取り出したのは、王宮の掃除で使った『使い古しのハタキ』と、細かい汚れを吸着する『特製・重曹パウダー』の特大袋や。
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「精密機械の一番の天敵はな……『静電気』と『ホコリ(粉塵)』なんやわ!!」
うちはハタキを振り回し、重曹パウダーを部屋中にバサァァッ!! と豪快にぶちまけた。
細かい粉末が空中に舞い上がり、部屋の空調システムに乗って、フランの義体やドローンの排熱口、関節の隙間へと容赦なく入り込んでいく。
「な、なんだこの粉は!? フィルターが……吸気口が目詰まりを起こしている!?」
フランが慌てて機械の腕を振るが、重曹パウダーが内部のギアに挟まり、ギギギ……と不吉な音を立て始める。
「カイル! 今や! あんたの雷魔法で、部屋中に『静電気』を起こしなはれ!」
「了解しました! そういうことなら、お手の物です!」
カイルがニヤリと笑い、杖を掲げて微弱な、しかし広範囲に及ぶ雷属性の魔力(静電気)を部屋全体に放った。
バチバチバチッ!
静電気が舞い散るパウダーに引火し、ドローンの精密な魔力回路やフランの義体の基盤に、直接ショートを引き起こしたんや!
「ピィィィッ! エラー! システム、再起動不可……!」
ドローンたちが次々と火花を散らして床に墜落し、フランの右腕と赤い目も、ジジジ……と音を立てて完全に機能停止した。
「……ば、馬鹿な。私の、完璧な計算式が……たかが粉の目詰まりと静電気で……崩壊するなんて……」
フランが膝から崩れ落ち、信じられないものを見る目で自分の動かない右腕を見つめる。
「せやから言うたやろ。どんなに性能がええ機械でも、こまめにホコリ払って掃除せな、すぐにショートして使い物にならんようになるんや。……人間も同じやで。効率ばっかり求めて感情を無視してたら、いつか心ん中で目詰まり起こして、ポンコツになってまうわ」
うちはパイプ椅子から立ち上がり、フランの前に歩み寄った。
そして、アイテムボックスから、頭をスッキリさせる青色の『ハッカ味』の飴ちゃんを取り出し、彼女の口にポンッと放り込んだ。
「んぐっ……。こ、これは……」
強烈な清涼感がフランの脳を駆け抜け、マニュアルと効率に縛られていた彼女の思考回路を、強制的にリセット(再起動)していく。
「……あ、あれ……。私は、何という恐ろしいことを……。技術は、人を助けるために学んだはずなのに……」
フランの残された人間の左目から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「目が覚めたか。ほな、さっさとこのカプセルの電源切って、寝かされてる人らを解放しなはれ」
「……はい。直ちに、すべての生命維持と解放プロセスを実行します……」
フランが涙を拭い、残された人間の左手で、中央コンソールの停止コマンドを打ち込んだ。
プシューッという音とともにカプセルが開き、繋がれていた市民たちが次々と目を覚ましていく。
「お見事です、静江さん。機械の弱点を物理的に突くとは。……これで、この階層の非人道的な実験も終わりですね」
カイルが眼鏡を拭きながら、晴れやかな顔で笑う。
「せや! どんな小難しいシステムも、最後はオカンの掃除術が勝つんやわ! さぁ、アレン、カイル、リリルちゃん! 止まってる暇はないで! 皇帝の待つ社長室まで、一気に駆け上がるでぇぇッ!」
研究開発局の非道なシステムを、ハタキと重曹で完全にショートさせたうちら。
ブラックタワーの大掃除は、いよいよ帝国の真の闇へと迫っていくんや!
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