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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
最終章:帝国本社ガサ入れ! 笑顔のディストピアと最強オカンの卒業

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第226話 絶対遵守の法務局と、オカン流・クーリングオフ

 人事部長クロードのネチネチした圧迫面接を「飴ちゃんとオカン説教」で強制終了させたうちらは、再び魔導昇降機に乗り込み、タワーのさらに上層へと向かっとった。


「……静江さん。このタワー、上にいくほど空気の淀みがひどくなっています。まるで、息をするだけで精神を削られるようだ」


 カイルがインテリ眼鏡を指で押し上げながら、不快そうに眉をひそめる。


「せやな。ブラック企業の中枢なんやから、偉いさんがおる階層ほどドス黒いストレスが溜まっとるに決まってるわ」


 うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、昇降機の扉が開くのを待った。


 チンッ、と冷たい電子音が鳴り、扉が開く。

 そこは、これまでの工場や真っ白な面接室とは全く違う、異様な圧迫感のある空間やった。

 見渡す限りの巨大な書架。そこにギッシリと詰め込まれているのは、分厚い魔導書……やなく、帝国の「法律」や「契約書」の束や。

 部屋の中心には、裁判官が座るような高いデスクがあり、その上で木槌ガベルを弄んでいる、神経質そうな白髪の男がおった。


「ようこそ、帝国中央法務局へ。私は法務局長にして、このタワーの絶対の規律を司る者、ジャッジメントだ」


 男が冷酷な目でうちらを見下ろす。


「法務局やて? ほな、ちょうどええわ。あんたんとこの帝国が、新大陸でやってる不法投棄やら強制労働やら、全部ひっくるめて訴えに来たんや。おばちゃんの慰謝料請求、きっちり受理してもらうで!」


 うちがトングを突きつけて凄むが、ジャッジメントはフンと鼻で笑い、手元の木槌をカーーン! と高く鳴らした。


「静粛に。……野蛮な侵入者どもよ。お前たちは今、帝国の『法』のド真ん中に立っているという自覚がないようだな。……ここでは、私の言葉がルールだ」


 ジャッジメントが分厚い六法全書のような魔導書を開き、冷ややかに宣言する。


「帝国法務局規約、第一項。許可なき武器の抜刀を禁ずる」


 その瞬間、アレンが腰の長剣を抜こうとしたが、「……っ! 剣が、抜けない! 鞘と剣がくっついたように重い!」と焦燥の声を上げた。


「第二項。攻撃魔法の使用を禁ずる」


 カイルが指先に魔力を集めようとするが、シュン……と音を立てて霧散してしもうた。


「なんだと……!? 空間そのものが、術式を強制的にキャンセルしている……!」


「ハハハハ! 驚いたか。この部屋は、私が定めた『ルール』に反する行為を一切無効化する、絶対遵守の結界だ! お前たちのような野蛮な暴力も魔法も、ここでは何の意味も持たない。……さぁ、おとなしく縛につけ。不法侵入の罪で、一生地下工場の電池としてこき使ってやる」


 ジャッジメントが指を鳴らすと、書架の陰から、警棒を持った屈強な法務執行官ゴーレムたちがワラワラと湧き出してきた。


「静江さん、マズいです! 武器も魔法も使えないのでは、防戦一方になります!」


 アレンが剣の鞘ごとゴーレムを殴りつけようとするが、圧倒的なパワーに押し戻されてしまう。


 だが、うちはパイプ椅子をガシャンと広げてどっかと座り込み、余裕の笑みを浮かべとった。


「……アレン、カイル。焦らんでええ。あんな自分勝手なルール、まともに受け止める必要あらへんわ」

「えっ?」


 うちは立ち上がり、ジャッジメントに向かって腹の底から怒鳴りつけた。


「おい、そこの白髪のおっさん! あんた、さっきから偉そうにルールルール言うてるけどな! うちら、そんな契約に『同意』した覚え、一ミリもあらへんで!」


「何だと? 帝国領内に足を踏み入れた時点で、帝国の法に同意したとみなされるのだ! いわゆる『みなし契約』だ!」


「みなし契約ぅ!? アホか! そんなちっちゃい字で書かれた規約なんか、誰が読むねん! 消費者を舐めたらアカンで!」


 うちは特大トングを振り回し、オカン流のド正論を叩きつけた。


「相手の同意も得んと、自分にだけ都合のええルールを押し付けるんは、立派な『消費者契約法違反』や! 一方的な不利益条項は無効なんやわ!」


「な、何を訳の分からないことを……! この法務局で、私の法が通じないとでも……!」


「通じへんわ! ……リリルちゃん! おじちゃんに、本当の『法』の裁き、見せたるんや!」


「うんっ!」


 うちの背中に隠れていたリリルが、タロットカードを胸に抱えて一歩前に進み出た。

 そして、バシッと一枚のカードを空中に展開する。

 出たのは、『正義(Justice)』の逆位置や。


「……カードが言ってるよ。おじさんのルール、自分にだけ甘くて、ズルいって。……本当のルールは、みんなを助けるためにあるのに、おじさんは人を縛り付けるために使ってる。……そんなの、絶対に間違ってる!」


 リリルの一切の混じり気のない、真っ直ぐな『正義』の言葉。

 それが、法務局の淀んだ空気を切り裂いた。


「だ、黙れ小娘が! 私の法が間違っているだと!? 私は帝国の頭脳、完璧なる法務局長だぞ!」


 ジャッジメントが顔を真っ赤にして木槌を振り上げる。


「間違っとるから、おばちゃんが直々にキャンセルしたるって言うとるんや! オカン特権、『クーリングオフ』発動や!!」


 うちはアイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込み、頭をスッキリと冷やす青色の「ハッカ味」と、精神を安定させるオレンジ色の「オレンジ味」の飴ちゃんを取り出した。

 それをすり鉢で粉々に砕き、水筒の冷たい水に溶かして、特濃の『頭脳クールダウン水』を作り上げる。


「あんたみたいに、凝り固まった法律ばっかり読んで頭でっかちになっとるおっさんには、この強烈なスースー水で脳みそを強制冷却したるわ!!」


 うちはその特濃ハッカ水を、ジャッジメントの顔面めがけて、バシャァァァッ!! と豪快にぶちまけた。


「ぎゃあぁぁぁっ!? な、なんだこの強烈な清涼感は……ッ! 目が、鼻がスースーして、頭の中の六法全書が……真っ白に飛んでいくぅぅッ!」


 ジャッジメントが顔を押さえてのたうち回る。

 飴ちゃんの強烈な魔力とハッカの成分が、彼の「自分勝手な法」でガチガチに固まっていた脳細胞を、無理やりリセット(クーリングオフ)してしもうたんや。


「……法が……。私の完璧な規約が……。いや、そもそも法とは、人を縛るものではなく、導くための……ハッ! 私は、なんという自己中心的な……!」


 強烈なクールダウンによって正気(本来の法学者の良心)を取り戻したジャッジメントは、自分のかけた結界の魔力を維持できなくなり、その場にガクンと膝をついた。


 パキィィィンッ!

 絶対遵守の結界が、ガラスが割れるように音を立てて崩壊する。


「……結界が解けました! 剣が抜ける!」


 アレンがすかさず長剣を抜き放ち、神速の踏み込みで周囲のゴーレムたちを次々とスクラップに変えていく。


「やれやれ、手こずらせてくれましたね。『雷の矢』!」


 カイルも魔法を取り戻し、残った警備システムを雷撃で完全に沈黙させた。


「……ふぅ。これで法務局のガサ入れも完了やな」


 うちはトングを肩に担ぎ、へたり込んでいるジャッジメントを見下ろした。


「おっちゃん。法律っちゅうのはな、弱いもんを守るためのお守りや。自分の立場を守るための盾にしたら、ただの呪いの紙切れになるんやで。……反省したなら、一から勉強し直しなはれ」


「……はい……。申し訳、ありませんでした……」

 法務局長は、スースーする鼻をすすりながら、涙目で深く頭を下げた。


 人事部の圧迫面接に続き、法務局の理不尽な契約縛りをも、オカンの「クーリングオフ」で粉砕したうちら。

 だが、中枢タワーのさらに上層には、帝国の歪んだ研究開発を担う、さらなるブラック部署が待ち構えとる。


「さぁ、アレン、カイル、リリルちゃん! 止まってる暇はないで! 次の階へカチ込みや!」


 皇帝の待つ社長室への道は、おばちゃんの大掃除によって、着実に切り拓かれつつあったんや!





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