第225話 止まった昇降機と、人事部の圧迫面接
大帝国アルビオンの中枢タワー。
役員会議室を特大の「有給休暇(飴ちゃん)」で強制終了させたうちらは、皇帝の待つ最上階(社長室)へと向かうべく、役員専用の魔導昇降機に乗り込んどった。
「……静江さん。この昇降機、先ほどから上昇しているというよりは、横や斜めに複雑な移動を繰り返しているような気がします」
アレンが、昇降機内の壁に手を当て、鋭い感覚で違和感を口にする。
「せやな。どうやら、すんなり社長室までは通してくれへんみたいやわ。防衛システムか何かが働いて、別の階層に誘導されとるんやろ」
うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、フンと鼻を鳴らした。
巨大なブラック企業の本社タワーや。社長の前に、厄介な「門番(幹部)」が何人も待ち構えとるのはお約束やからな。
ガコンッ!
やがて、不自然なほど静かに昇降機が停止し、目の前の分厚い魔鋼の扉がゆっくりと開いた。
そこは、これまでの煌びやかな装飾や、無機質な工場とは全く違う空間やった。
見渡す限りの「真っ白な壁と床」。
窓一つなく、ただ等間隔に配置された真っ白な机とパイプ椅子だけが、不気味なほど整然と並んどる。
そして、その空間の中央にある一つの机の前に、分厚いバインダーを手にした、神経質そうな細身の男が立っとった。
「……ようこそ、アルビオン帝国『中央人事局』へ。私は人事部長のクロード。……不法侵入者の皆様、まずは『面接』のお時間です」
クロードが、冷たい眼鏡の奥の瞳を光らせ、口角を歪めて笑う。
「面接ぅ? アホか、うちらは就職活動に来たんやない! ガサ入れ(大掃除)に来たんや!」
うちがトングを突きつけて怒鳴るが、クロードは一切動じることなく、手元のバインダーのページをペラリとめくった。
「そう感情的にならないでいただきたい。我が帝国では、すべての市民、そして侵入者であっても、その『適性』を正確な数字で評価し、最も相応しい部署(歯車)へと配置する義務があります。……さて、まずはそこのエルフの少女から再評価を始めましょうか」
クロードの冷たい視線が、うちの背後に隠れていたリリルへと向けられた。
「……ひっ……」
リリルが、うちのポンチョの裾をギュッと握りしめて肩を震わせる。
「ふむ。南の森の王族の生き残り。反乱分子の象徴として活動しているようですが……あなたの『従順性パラメータ』は、元々は非常に高かったはずだ。なぜ、このような野蛮な女に付き従っているのです?」
「わ、わたしは……!」
「あなたの本来の適性は、ただ魔力を提供し、偉大なる帝国の発展に貢献すること。……それが、あなたにとって最も『幸福』な生き方のはずです。違うというなら、なぜ今、そんなに足が震えているのですか? 本当は、戦うことなど恐ろしいのでしょう?」
クロードの言葉は、まるで静かな毒のように、リリルの心の隙間に入り込もうとしとった。
ただの威圧やない。相手の不安や弱さを正確に突いて、自分自身を否定させる「洗脳のプロ」の喋り方や。
いわゆる、極悪ブラック企業の『圧迫面接』そのものやった。
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「……やめろ! 彼女を惑わすな!」
アレンが激昂し、西の大陸の長剣を抜いてクロードへと斬りかかろうとする。
だが。
「おっと。面接中の『暴力行為』は、減点対象ですよ」
クロードが指を鳴らした瞬間。
真っ白な部屋の床から、無数の「白い魔力の糸」が蛇のように飛び出し、アレンの手足と剣をガッチリと縛り上げてしもうた。
「くっ……! なんだ、この糸は……! 魔力が、吸い取られる……!」
「アレン!」
「静江さん、気をつけてください! この部屋全体が、相手の魔力を無力化し、精神を縛り付ける特殊な結界になっています!」
カイルも結界を張ろうとするが、足元から絡みついてくる白い糸によって、動きを封じられてしまう。
物理的な攻撃ではなく、相手の心を折るための「面接室」という名の拘束具。
「さぁ、エルフの少女よ。もう一度、私と話をしましょう。……あなたの本当の居場所は、ここではない。帝国の保護の下、ただ何も考えずに魔力を提供し続けるだけの、安心で幸福な『電池』としての生活が待っているのですよ」
クロードが、蜘蛛のように這う白い糸を操りながら、リリルへとゆっくりと歩み寄ってくる。
「……ちがう……。わたしは……電池じゃ、ない……っ!」
リリルは涙目になりながらも、必死に首を横に振った。
「いいえ、あなたは電池です。数字がそう証明している。……あなたのその恐怖と震えが、何よりの証拠だ」
「……」
クロードの容赦ない言葉責めに、リリルの瞳からポロリと大粒の涙がこぼれた。
五歳の子供が、プロの洗脳面接官の言葉の暴力に耐えられるはずがない。
クロードが勝利を確信し、リリルの腕に白い糸を巻きつけようと手を伸ばした、その時やった。
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「――やかましいわ、このクソボケがァァッ!!」
ガァァァァンッ!!
真っ白な面接室に、腹の底に響くような関西弁の怒声と、パイプ椅子が豪快にひっくり返る音が轟いた。
「なっ……!?」
クロードが驚愕して振り返ると、そこには、自分の足元に絡みついていた白い魔力の糸を、特大のゴミ拾いトングでブチブチと力任せに引きちぎりながら、鬼の形相で歩み寄ってくるおばちゃんの姿があった。
「き、貴様! なぜ私の『精神束縛の糸』を物理的な力で引きちぎれるのだ! この部屋の結界は、反抗の意志そのものを削ぐようにできているはず……!」
「反抗の意志ぃ? アホか! おばちゃんが今感じてるんは、ただの特大の『イライラ』や!」
うちは、トングを肩に担ぎ直し、クロードの鼻先をビシッと指差した。
「あんたな! さっきから聞いてたら、ネチネチネチネチと、子供相手に屁理屈こね回しやがって! 人の弱みに漬け込んで、不安を煽って自分の思い通りに動かそうとするなんて、圧迫面接でも最低のやり方やで!」
「だ、黙れ! 私は帝国の人事部長として、彼女の正しい適性を……!」
「適性やて? 数字で人間の心が測れるかいな! リリルちゃんが震えてるのはな、あんたの言う通りにするのが『幸福』やからやない! あんたみたいな気持ち悪い大人に近寄られて、生理的に『拒否反応』起こしとるだけやわ!」
うちの容赦ないオカンのド正論が、真っ白な部屋に響き渡る。
クロードの顔が、怒りと屈辱で真っ赤に染まった。
「……ええい、野蛮な女め! ならば貴様から、完全に精神を破壊してやる! 白き戒めよ、この女の魂を縛り上げろ!」
クロードがバインダーを投げ捨て、両手を高く掲げる。
部屋中の壁と床から、さっきの何十倍もの太さの「白い魔力の糸」が、大蛇のようにうねりを上げてうちに向かって殺到してきた。
「静江さん!!」
アレンたちが悲鳴を上げる。
だが、うちは一歩も退かず、アイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込んだ。
「……こんな陰湿な糸で、おばちゃんの心を縛れると思たら大間違いやで!」
うちは、精神を安定させるオレンジ色の『オレンジ味』と、前向きな活力を生み出す赤色の『リンゴ味』の飴ちゃんを、限界まで大量に掴み出した。
「あんたのそのネチネチした洗脳には、これでお口直しや!!」
うちは、迫り来る白い糸の群れめがけて、大量の飴ちゃんを散弾銃のようにバサァァッ! と豪快にばら撒いた。
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パキィィィンッ!!
オレンジとリンゴの飴ちゃんが、白い糸に衝突した瞬間。
飴に込められていた「絶対的なポジティブと安心感の魔力」が、クロードの作り出した「不安と束縛の魔力」を、まるで熱湯で氷を溶かすように一瞬にして中和し、粉々に打ち砕いていったんや!
「ば、馬鹿なァァッ!? 私の、私の精神束縛の結界が……たかが甘いお菓子の匂いで、崩壊していくだとォォッ!?」
クロードが、自分の魔法がシュワシュワと溶けて消えていくのを見て、頭を抱えて絶叫する。
アレンやカイルを縛っていた糸も消え去り、二人は自由を取り戻して立ち上がった。
「……よっしゃ、これで圧迫面接は強制終了や!」
うちは、呆然とへたり込むクロードの胸ぐらを特大トングでガシッと挟み込み、顔の数寸前まで近づいた。
「ええか、人事部長さん。人間はな、あんたらが勝手に決めた『適性の枠』に収まるようなちっぽけな存在やないんや。……迷いながら、泣きながら、それでも自分で道を選んでいくからこそ、予想もつかんような特大の『成長』を見せてくれるんやで!」
うちは、後ろで涙を拭い、しっかりと前を見据えて立っているリリルを振り返って、ニカッと笑った。
「せやろ、リリルちゃん!」
「……うんっ! わたし、もう迷わない! わたしは、おばちゃんの一番弟子だから!」
リリルが、力強く宣言する。
その真っ直ぐな瞳の前には、もはや帝国の洗脳など一ミリも通用せえへんかった。
「ひぃぃぃッ……! や、やめろ……! 私は、帝国の人事……!」
「人事の仕事は、人を輝かせることやろが! あんたは一から『履歴書』の書き方でも勉強し直しなはれ!」
うちがトングを振り下ろすと、クロードは白目を剥いて床に転がり、完全に気絶してしもうた。
「……やれやれ。社長室への道は、まだまだ長いみたいやな」
うちはトングを肩に担ぎ直し、最上階へと続く階段を見上げた。
帝国の洗脳と配置のスペシャリストを、オカンの飴ちゃんと説教で粉砕したうちら。
皇帝の待つ中枢への果てしないタワー登頂は、さらに深い闇と刺客を孕みながら、いよいよ本格化していくんや!
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