第220話 無敵艦隊の襲来と、特大ワゴン(地雷原)へのご案内
数日後。
ルミナの海は、嵐の前の静けさという言葉がふさわしい、異様な緊張感に包まれとった。
やがて、朝霧が晴れた東の水平線を、文字通り「隙間なく」埋め尽くすようにして、真っ白な帆と分厚い鋼鉄の装甲が姿を現した。
神聖アルビオン帝国が誇る、皇帝直属の『無敵艦隊・本隊』五百隻や。
先遣隊五十隻、そして海上封鎖艦隊三百隻を失ったという報告は、すでに彼らの耳にも届いているはずやった。それでもなお、圧倒的な数の暴力を信じて疑わない彼らは、海鳴りのような進軍の音を立てて、一直線にルミナの港へと迫ってきとった。
旗艦の甲板では、金銀の装飾が施された豪華な鎧を纏う本隊の総司令官(将軍)が、冷徹な目でルミナの街を睨み下ろしとった。
『……先遣隊や封鎖艦隊の通信が途絶えた時は何事かと思ったが。なるほど、東の野蛮人や海賊の寄せ集めどもが、この港に一極集中しているというわけか』
将軍の隣で、副官が双眼鏡を覗き込みながら報告する。
『閣下。ルミナの防衛網ですが、左右には強固な海賊船と異形の鉄甲船が陣取っておりますが……なぜか、中央の海域だけがポッカリと空いております。兵力が足りず、中央の防衛が手薄になっているものと思われます』
将軍は、フンと鼻で笑った。
『愚かな。たかが下等な寄せ集めの連合軍が、我が帝国の正規艦隊に勝てるはずがないのだ。中央の隙間から一気に港へと雪崩れ込み、あの生意気な街ごと火の海にしてすり潰してしまえ! 全艦隊、中央突破だ!』
将軍の号令を受け、五百隻の無敵艦隊は、我先にと手柄を求めて、ルミナ湾の中央の空いたスペースへと密集しながら突撃を開始した。
……だが、彼らは知らへんかった。
その「ポッカリと空いた中央」こそが、オカンとインテリ組が仕組んだ、最悪の罠やということを。
===========
ルミナの防波堤の上。
うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、特大のサングラスを押し上げて、迫り来る五百隻の艦隊を見下ろしとった。
「……フフッ。特売のワゴンに、お客様が我先にと殺到しとるわ。ほんまに、強欲な連中やで」
うちの隣には、カイル、そして大和郷の二人の天才軍師、黒戸と半月が並び立っとる。
黒戸がパチパチと算盤を弾き、半月が涼しい顔で扇子を揺らした。
「……静江さんの読み通り、見事に中央のキルゾーンへと誘い込まれましたね。敵艦隊の八割が、すでに我々が敷き詰めた『ポイント』の真上を通過中です」
半月の報告に、カイルがインテリ眼鏡を中指でクイッと押し上げ、悪魔のように微笑んだ。
「ええ。海底に設置した、大和郷の火薬と私の魔導技術を融合させた『特大の機雷(地雷)』。……起爆の準備は、いつでもできています」
「よっしゃ!」
うちはアイテムボックスから拡声魔道具を取り出し、空に向かって突き上げた。
「お待たせしました、お客様! 本日の超特大タイムセール、これよりスタートや!! カイルちゃん、スイッチ押しなはれ!!」
「御意! 海底の魔力、臨界突破!」
カイルが白銀の杖を地に力強く突き立て、莫大な魔力を流し込んだ。
直後。
ルミナ湾の中央、密集して進軍していた無敵艦隊の足元(海底)から、太陽が爆発したかのような凄まじい閃光が放たれた。
ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!
海が、文字通りひっくり返った。
何十本もの巨大な水柱が天を衝くように立ち上り、海底に仕掛けられていた無数の機雷が一斉に牙を剥いたんや。
『な、なんだぁぁぁっ!?』
『海底から爆発!? 船体が……船体が割れるぅぅっ!』
五百隻が密集していたことが、最悪の仇となった。
下からの凄まじい爆発の衝撃をモロに受けた帝国艦隊は、次々と鋼鉄の装甲をへし折られ、宙へと吹き飛ばされていく。さらに、隣の船とぶつかり合い、引火し、絵に描いたような巨大な「玉突き事故(大渋滞)」を引き起こしたんや。
たった一瞬で、誇り高き無敵艦隊の陣形は完全に崩壊し、海峡はパニックと阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
===========
「今だ! 敵の陣形が崩れたぞ! おばちゃん専用レジ(血路)を通って、横っ腹から食い破れェェッ!」
特大の爆発を合図に、両サイドで待機していたオカン・ユニオンの世界連合軍が、怒涛の勢いで動き出した。
「――チェストォォォォォォッ!!」
佐吉と久義が率いる大和郷の鉄甲船団が、混乱して身動きが取れない帝国艦隊の側面へと猛スピードで激突する。
鋼鉄同士がぶつかり合う轟音と共に、狂戦士たちが抜身の日本刀を掲げて敵の甲板へと雪崩れ込み、マニュアル通りにしか動けないエリート兵たちを次々と叩き伏せていく。
「ルミナの騎士の剣、見せてやります! 『刹那の跳躍』!」
アレンも風の魔法を足元に纏い、沈みゆく敵船の残骸を飛び石にして、神速の動きで敵の指揮系統(魔導砲の砲座や通信機)を的確に斬り飛ばしていった。
「ば、馬鹿な……。我が無敵艦隊が、たった一度の爆発と、こんな野蛮人どもの突撃で、瓦解していくというのか……!」
旗艦の甲板で、総司令官の将軍が絶望に顔を歪めて叫ぶ。
「野蛮人やない。あんたらが『お客様の心理』を読めてへんだけや!」
将軍の背後から、腹の底に響くような関西弁が降ってきた。
将軍が弾かれたように振り返ると、そこにはアレンの風魔法で送り込まれ、甲板のド真ん中にドスンと降り立ったうちが、特大のゴミ拾いトングを肩に担いで立っとった。
「き、貴様は……! 噂に聞く、ヒョウ柄の魔女か!」
将軍が腰の剣を抜き放ち、ギリッと歯を食いしばる。
「魔女ちゃうわ! 出張鑑定の占い師や!」
うちはトングの先を、将軍の鼻先にビシッと突きつけた。
「あんたら、自分の数が多くて強いからって、完全に足元がお留守になっとったわ。『ここに隙間がありますよ』って言われたら、ホイホイと密集して飛び込んでくる。……スーパーの特売ワゴンに群がって、周りが見えへんようになっとる強欲な客と、全く同じ心理やで!」
「ふ、ふざけるな! 我ら神聖アルビオン帝国を、スーパーなどという下賤な例えで……!」
「下賤やと!? 生活舐めたらアカンで!」
うちは一歩踏み込み、将軍を凄まじい眼光で睨み据えた。
「あんたらは、力と数で何でも押し通せると思っとる! でもな、現場で泥水すすって、毎日を必死に生きてるうちら『世界連合』の知恵と絆の前に、そんな見掛け倒しの力なんか通用せえへんのや! あんたらのブラック企業(帝国)、今日で完全に倒産やわ!」
「お、おのれぇぇッ!」
激昂した将軍が剣を振り下ろそうとした、その瞬間。
ガァァァンッ!
アレンの長剣が横から閃き、将軍の剣を見事に弾き飛ばした。
さらに、佐吉が背後から回り込み、将軍の膝裏を蹴り飛ばして甲板に這いつくばらせる。
「……勝負あったな。さっさと白旗上げなはれ」
うちが冷たく見下ろすと、将軍は完全に戦意を喪失し、涙と鼻水を流しながら「こ、降伏だ……」と崩れ落ちた。
五百隻の無敵艦隊を相手にした、過去最大スケールのルミナ湾攻防戦。
それは、東西の天才たちの頭脳と、おばちゃんの「特売ワゴン理論」が完璧に融合した、オカン・ユニオンの完全勝利によって、痛快な幕を閉じたんや!
読んでくれてありがとうございます!
「面白い!」「続きが気になる!」「応援したい!」と思っていただけたら、
作品ページ上部の【☆評価】【ブックマーク】、そして【リアクション】ボタンをポチッと押していただけるととても励みになります!
みなさんの応援が、次回更新の原動力になります。
引き続きよろしくお願いします!




