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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明


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第22話 新世界の契約と、ギャルの事業計画書

 豪華な大食堂に、ハッカ飴の清涼な香りがふわりと漂う。


 エドワード侯爵は、口の中で転がす飴の「真実」を噛み締めるように、しばし黙り込んでいた。あんなに氷のように冷たかった彼の瞳に、かつてのルミナを、そしてこの地を愛した若き日の情熱が、陽炎のようにゆらめいとる。


「……ハッカ、か。鼻に抜けるこの鋭い香りが、これほどまでに心を鎮めるとはな。……占師、いや、静江と言ったか。貴様の差し出したこの一粒の『菓子』が、私の数十年間にわたる意固地な支配欲を笑い飛ばしたようだ」


 侯爵は、背もたれに深く体を預け、ふぅと長い溜息を吐いた。その動作一つで、この部屋を支配していた刺すような威圧感が、心地よい「静寂」へと変わっていく。


「さて、侯爵様。飴ちゃんで頭もスッキリしたところで、そろそろ本題に入ろか。……アレン、バネッサさんから預かってきた『あの派手な紙』出しなはれ」


「は、はい! これですね」


 アレンが震える手で懐から取り出したのは、バネッサが徹夜で書き上げ、うちが「地味やからもっとハデにしなはれ!」と、蛍光色に近いインクで縁取りさせた特注の羊皮紙や。

 侯爵は、その目に優しくない色彩の書類をまじまじと見つめ、眉をひそめた。


「……何だ、この毒々しい配色の書状は。これが貴様の言う『銭の話』か?」


「せや。ルミナと侯爵領を繋ぐ、『大ルミナ自由貿易圏』の設立趣意書や。……侯爵様、あんたの領地は広い。小麦も採れるし、山からは鉄も出る。でもな、それを売るための『喉(水)』と『足(流通)』を、あんたは自分で締め上げてしもうてたんや」


 うちは、金のファスナーをシャカシャカ鳴らしながら、テーブルの上にタロットを扇状に広げた。


「『世界』の正位置。……これから始まるんは、奪い合いやない。あんたの持ってる『土地』と、うちの持ってる『カネ』と『知恵』を掛け合わせて、この国で一番の『楽園』を作る計画や。……具体的にはな、侯爵領の街道を整備して、ルミナをハブ(中心)にした巨大な市場を作る。侯爵領の農家には、うちの『最新の農法(占いで予測した気象データ)』を教えたる。……その代わり、侯爵領の関税は撤廃。商売の上がりは、ルミナの商業ギルドが三分の一を管理させてもらうで」


「……関税の撤廃だと? それは、私の統治権を半分差し出せと言っているに等しいぞ」


「違うわ。あんたが一人で抱えて、領民に恨まれながら細々と集めてる税金より、活発な商売で回るカネの数%の方が、よっぽどあんたの蔵を潤すって言うてるんや。……それに、バネッサさんから聞いたで。……あんた、王都の財務官に、えらい弱み握られてるらしいやんか」


 侯爵の顔が、再び強張った。今度は怒りではなく、隠し事を見透かされた「驚愕」や。


「……なぜそれを。……王家への献納金が滞っていることは、ごく一部の重臣しか知らぬはずだ」


「カードに書いてあったわ。……それに、あんたの顔に『カネが足りん』って書いてあるしな。……安心しなはれ。その滞納分、ルミナが肩代わりしたる。……その代わり、侯爵様。あんたには、この計画の『顔(看板)』になってもらうで。王家への根回しも、あんたの仕事や。……泥臭い交渉と銭勘定は、うちとバネッサさんが引き受けたげるわ」


 侯爵は、呆気にとられたようにうちを見つめ、それから隣で静かに成り行きを見守っていたカイルに視線を向けた。


「……カイル。貴様、この無茶苦茶な女の側にいて、本気でこの国を作り替えようというのか?」


 カイルは、口の中の飴をコロコロと転がしながら、優雅に肩をすくめた。


「父上。私は言ったはずだ。……退屈な侯爵家を継ぐより、このヒョウ柄の女神の使い走りにされる方が、よっぽど刺激的だと。……私は、静江さんの『外務代理官ハンドラー』として、この計画を王都に叩きつけるつもりだ。……父上の汚れた名誉を洗うのは、私の役目じゃない。父上自身が、この新しい風に乗れるかどうかだ」


 カイルのその言葉には、親子の情愛を超えた、対等な「男としての覚悟」が宿っていた。


 侯爵は再び笑った。今度は、心底楽しそうな、朗らかな笑いやった。


「……ハハハ! 所属変更を希望する領民を止めるどころか、私自身が貴様に所属を移したくなるな。……分かった。この毒々しい配色の契約書に、署名しよう。……ただし静江。貴様のその知恵、安売りするなよ。……王都の連中は、侯爵家の私などより、遥かに強欲で狡猾だ」


「分かってるわ。……王様でも王子様でも、うちの前に来たらただのお客さんや。……値切り倒して、飴ちゃん一袋で黙らせたげるわ」


 うちはニカッと笑い、最後の一粒――これまたハデなピンク色のイチゴ味の飴を、侯爵の前に置いた。


「これ、アレンへの『無礼』の分のお詫びや。……あんたの騎士ら、アレンに睨まれて震えてたで。……これからは、剣やなくて『算盤そろばん』を磨きなはれ」


 アレンは照れくさそうに頭を掻き、カイルは不敵に微笑む。

 黄金の晩餐会は、いつの間にやら冷め切っていたが、そこに流れる空気は、ルミナの噴水のように瑞々しく、熱い未来への予感に満ちていた。


 ルミナの占師・静江。

 見た目はギャル、中身は最強のオカン、正体は怪物の女。

 彼女の「銭の話」は、一領地の争いを超え、王国全体を飲み込む巨大な渦になろうとしていた。


「さぁて、アレン。……帰りに、一番高いエール買って帰ろか。……バネッサさんに、特大の報告プレゼンせなあかんからな!」

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