第219話 東西家族の特大宴会と、悪魔のインテリ会議
西の大陸の最大の貿易港、ルミナ。
その沿岸を隙間なく埋め尽くしていたアルビオン帝国の海上封鎖艦隊(三百隻)は、カイルの放った広域魔力ジャミングと、外側からのオカン・ユニオンの特売ダッシュによって、あっけないほど完全に無力化された。
コントロールを失い、海上で玉突き事故を起こした真っ白な装甲船に、ガトーやアーニャたち外側の海賊衆が次々と乗り込んでいく。
『動くねえぞ! 武器を捨てて両手を上げな!』
『抵抗する奴は、海に叩き落として魚の餌にするわよ!』
魔力炉が停止し、鉄の箱と化した船の上で、エリート帝国兵たちはなす術もなく武装解除されていった。
内側からは、エルゼの指示を受けたルミナの防衛騎士団が小舟で出撃し、拿捕した船を次々と港の桟橋へと曳航していく。
「……ふぅ。これで特大の通行止め(封鎖)は、完全にお掃除完了やな」
うちは防波堤の上で特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、手際よく制圧されていく海上の景色を見渡して、満足げに頷いた。
隣では、真紅のドレスを着たエルゼが、漆黒の扇子をパチンと閉じて優雅に微笑む。
「ええ。この三百隻の船と備蓄物資は、すべてルミナの……いえ、私たち『世界連合』の資産として有効活用させてもらうわ。帝国の連中も、まさか自分たちの封鎖艦隊が、そのまま私たちの『軍備増強』に使われるとは思ってもみないでしょうね」
「せやな! 敵の財布で自分らの店をデカくするんが、商売の基本や!」
うちはガハハと笑い、拡声魔道具を口元に構えた。
「おーい、みんな! お掃除ご苦労さん! 港の安全は確保したで! 今から、待ちに待った『東西家族の特大同窓会(大宴会)』の始まりやぁぁッ!」
「「「うおおおおおぉぉぉぉぉッ!!!」」」
ルミナの港に、種族も国も違う労働者たちの、割れんばかりの歓声が響き渡った。
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その日の夕方。
ルミナの巨大な広場には、何十もの特大の焚き火と寸胴鍋が並べられ、かつてない規模の大宴会が繰り広げられとった。
エルゼが領主の権限で大盤振る舞いしたルミナの最高級の肉やワイン。そこに、大和郷から佐吉たちが持ち込んだツヤツヤの「白米」と、海賊たちがカリカで仕入れた「強烈なスパイス」が合わさる。
「ガハハハ! 西の大陸の肉ってやつは、脂が乗ってて最高に美味えな!」
「こっちの『コメ』ってのもたまらねえぜ! どんな汁にも合う魔法の食べ物だ!」
大和郷の狂戦士たちと、海賊衆、そしてカリカのドワーフたちが、肩を組んで大ジョッキをぶつけ合い、笑い声を上げとる。
手紙や物資のやり取りだけで繋がっていた彼らが、こうして一つの火を囲んで、同じ釜の飯を食っている。
「……おばちゃん、見て! エルゼお姉ちゃんが、可愛いお洋服くれたの!」
うちの元へ、リリルが小走りで駆け寄ってきた。
彼女が着ているのは、これまでのポンチョではなく、エルゼが仕立てさせたルミナ特産の美しい絹のワンピースやった。
「あら、ほんまによう似合うとるやんか! お姫様みたいやで」
うちが頭を撫でてやると、後ろからエルゼとクレアが微笑みながら歩み寄ってきた。
「ふふっ。カリカの社長さんに、みすぼらしい格好はさせられないもの。……それにしても静江。大和郷や海賊たち……あなたが世界中で集めてきた『家族』は、本当に賑やかで頼もしいわね」
「せやろ? みんな、ちょっとお節介焼いただけやのに、立派に育ってくれてオカンは鼻が高いわ」
うちは熱いお茶をすすりながら、広場で笑い合うみんなの姿を目に焼き付けた。
……だが、その宴会の喧騒から少し離れた、防波堤の静かな一角。
そこには、インテリ眼鏡を光らせる天才魔導具師カイルと、大和郷から来た二人の天才軍師(黒戸と半月)、そしてアレンや佐吉といった「首脳陣」が、重苦しい顔で長机を囲んどった。
「……さて。宴会の最中に無粋ですが、現実的な話をしましょうか」
うちがパイプ椅子を広げてその机の端に座ると、カイルが分厚い海図をバサッと広げた。
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「……先遣隊五十隻、そしてこの封鎖艦隊三百隻を無力化したとはいえ、東の海からは、アルビオン帝国の『無敵艦隊・本隊』およそ五百隻が、一直線にこのルミナへ向かってきています」
カイルの言葉に、黒戸がパチパチと算盤を弾きながら頷く。
「ええ。我々の予測計算では、あと三日……遅くとも四日後には、このルミナの近海に到達するでしょう。いくら我々が三百隻を拿捕して戦力を増強したとはいえ、あの本隊の正面火力は桁違いです」
「しかも、今回はジャミングの奇襲も通用しません。敵も警戒を強め、魔力炉の防護をガチガチに固めてくるはずです。……真正面からの艦隊決戦になれば、ルミナの街にも甚大な被害が出ます」
半月が扇子を口元に当て、冷や汗を流しながら分析する。
五百隻の最新鋭軍艦。それは文字通り、一国を地図から消し去るための「暴力の壁」や。
「……真正面からやり合う必要なんか、一ミリもあらへんわ」
うちはアイテムボックスからタロットカードを取り出し、海図の上にバシッ、バシッと二枚展開した。
出たのは、『悪魔(The Devil)』の正位置、そして『塔(The Tower)』の正位置。
「『悪魔』の誘惑と、『塔』の崩壊。……カイルちゃん、黒戸と半月の兄ちゃんら。あんたらのその優秀な頭脳で、このルミナの海に『特大の落とし穴(お買い得品のワゴン)』を作れへんか?」
「特大の落とし穴……ですか?」
アレンが首を傾げる。
「せや。敵は五百隻の大群や。当然、ルミナの港だけじゃ収まりきらんで、この湾全体に広がって陣形を組むはずや。……やったら、敵が一番『ここなら一斉に砲撃できる』って思って密集するポイントに、あらかじめえげつない罠を仕込んどくんやわ」
うちの提案を聞いた瞬間。
カイルと二人の軍師の顔に、全く同じ「極悪なインテリの笑み」が浮かんだ。
「……なるほど。あえてルミナの防衛網に『弱点(隙)』を作り、そこに敵の主力を誘い込む。そして……」
黒戸が算盤を弾く手を止める。
「誘い込んだ海底から、カイル殿の魔導技術と、我ら大和郷の火薬を融合させた『特大の機雷(爆弾)』を一斉に起爆させる……。敵が密集していればいるほど、誘爆して甚大な被害を与えられる!」
「ええ。カリカのドワーフたちに急ピッチで鉄の側を造らせ、そこにエルゼ様の資金で買い集めた魔石を詰め込めば……三日でルミナの湾を『地雷原』に改造できます」
カイルが眼鏡を中指でクイッと押し上げ、悪魔のように微笑んだ。
「よっしゃ、決まりやな! アレン、佐吉! あんたらは敵が罠にハマって陣形が崩れた瞬間に、横から特売ダッシュで突っ込んで、指揮系統を叩き斬るんや!」
「「了解しました(任せておけ)!」」
おばちゃんの圧倒的な「生活の知恵(ワゴンの誘導)」と、東西の天才たちの頭脳が合わさった、最悪の迎撃作戦。
宴会の熱気に包まれるルミナの港で、迫り来る帝国本隊五百隻を海の藻屑にするための『超特大の罠の仕込み』が、今、密かに、そして着実に動き始めとったんや。
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