第218話 おばちゃん専用レジの突破と、ついに揃った東西の家族
西の大陸、グランシェル王国の最大の貿易港であるルミナ。
その沿岸を隙間なく埋め尽くす、アルビオン帝国の海上封鎖艦隊三百隻の分厚い壁。彼らは、ルミナの街を兵糧攻めで干上がらせるべく、鉄壁の陣形を敷いて余裕の面持ちで海を睨んどった。
……やがて、その背後から。
朝霧を切り裂いて、真っ黒な帆に極彩色のヒョウ柄ラインをあしらった『オカン・ユニオン』の三十の海賊艦隊と、カリカのドワーフが魔改造を施した大和郷の『巨大な鉄甲船団』が、猛烈なスピードで突っ込んできたんや。
『な、なんだあのふざけた旗の船団は! 後方から接近してくるぞ!』
『砲撃用意! 虫ケラどもを海の藻屑にしてやれ!』
帝国軍の指揮官が血相を変えて怒号を飛ばし、後方の数十隻が一斉に魔導砲の火を噴いた。
だが、その青白い光弾がうちらの艦隊に届くよりも早く、海面を滑るように駆け抜けた一筋の『銀色の風』が、砲弾の軌道を次々と斜めに斬り払い、海へと逸らしていった。
「……ルミナの騎士を、甘く見るな! 『刹那の観測』!」
西の大陸の長剣を構えたアレンや。
彼は神速の足捌きで、密集している帝国艦隊の端――一番手薄な部分の装甲船に飛び移り、マストのロープと操舵輪を一瞬にして斬り捨てていく。
動力を失って制御不能になった敵船が、隣の船と接触し、分厚い封鎖網の端っこに『ポッカリとした穴』が空いた。
「今だ! おばちゃん専用のレジ(道)が空いたぞ! 特売ダッシュで突っ込めェェッ!」
アレンが作ったそのわずかな隙間めがけて、大和郷の新社長・佐吉と、若き当主の久義が乗る巨大な鉄甲船が、減速することなく猛スピードで突入した。
ガガァァァァンッ!!
鋼鉄の装甲同士がぶつかり合う凄まじい衝撃。帝国の船が大きく傾き、陣形が完全に崩されたその道を通って、うちの乗る旗艦が、拡声魔道具で大音量のサイレンを鳴らしながら一気にルミナの港へと滑り込んだんや。
「そこ退きなはれ! おばちゃんのお通りやで!!」
外側から強引に「一本の血路」をこじ開けられた帝国軍は、完全にパニック状態に陥っとった。
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うちらの旗艦が、数ヶ月ぶりにルミナの港の桟橋にドスンと横付けされる。
敵の三百隻の軍艦に包囲されているんや、さぞかし街の中は恐怖と飢えでパニックになっとるやろうと思いきや……。
うちが特大のゴミ拾いトングを肩に担いで甲板から飛び降りると、そこには、信じられない光景が広がっとった。
「……遅かったわね、静江。待ちくたびれて、紅茶が冷めてしまったわ」
防波堤の安全な場所に優雅なパラソル付きのテーブルを広げ、漆黒の扇子で口元を隠しながら、冷たい視線で帝国の艦隊を見下ろしている、真紅のドレスの美女。
ルミナを束ねる『女帝』、エルゼ・ルミナ侯爵や。
その隣では、インテリ眼鏡の魔導具師カイルが分厚い魔導書を片手に不敵な笑みを浮かべ、純白の作業着を着た聖女クレアが、いつでも結界を張れるように白銀の杖を構えて待機しとった。
彼らの顔には、焦りも飢えの影も一ミリもあらへん。
「……エルゼちゃん! カイル! クレアちゃん!」
うちは、特大のサングラスを押し上げ、ホッと息をつきながら彼らの元へ歩み寄った。
「カイル、クレアちゃんはカリカの防衛戦ぶりやな! みんな無事でよかったわ……って、あんたら、なんでこんなに余裕ぶっこいとるんや! カイルのその『極太の魔導砲』があれば、敵が三百隻おろうと、港から撃ち返して包囲を破れたんとちゃうんか!」
うちのツッコミに、エルゼはパチンと扇子を閉じ、妖艶に微笑んだ。
「ふふっ、静江。あなたが私に教えてくれたじゃない。『自分の店(街)を壊すような派手なドンパチは三流のすることだ』って」
「え?」
「こんなに密集した敵のど真ん中に、カイルの規格外の魔導砲を撃ち込んでみなさい。凄まじい爆発と津波で、このルミナの港の設備まで吹き飛んでしまうわ。それに、沈んだ何百隻もの船の残骸が『特大の粗大ゴミ』となって港を塞げば、後で商売を再開する時の特大の邪魔になるでしょう?」
エルゼの言葉に、カイルも眼鏡をクイッと押し上げて同意した。
「ええ。それに、敵の目をこのルミナに『釘付け』にしておけば、彼らは他の街や航路に手を出せません。我々はあえて封鎖されているフリをして、彼らをこのルミナ近海という『一部屋』にギュウギュウ詰めに集めていたんですよ。……外からあなたたちが戻ってきて、背後の扉を閉めてくれるのを待ってね」
「……」
うちは、彼らのあまりにもえげつなく、そして合理的な「おばちゃんの教えの応用」に、ポカンと口を開けてしもうた。
外から見れば「封鎖されて大ピンチ」やが、内側では「敵を一箇所に集めて、一網打尽にするタイミングを待っていた」だけやったんや。
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「……あ、あの……。あなたがいつもおばちゃんと、お手紙や仕送りの『やりっこ(交換)』をしてた、『エルゼお姉ちゃん』……?」
うちのポンチョの背中から顔を出したリリルが、おどおどとしながらも、興味津々の目でエルゼを見上げた。
エルゼはしゃがみ込み、初めて直接顔を合わせるその小さなエルフの弟子の金糸の髪を、優しく撫でた。
「あなたがリリルね。静江が送ってくれた手紙で、いつも話は聞いていたわ。立派にカリカの南の森の『社長』を務めているそうじゃない。……よく来てくれたわね、私の領地へ」
「うんっ! カイルお兄ちゃんと、クレアお姉ちゃんも、カリカの時はいっぱい助けてくれてありがとう!」
リリルがペコリと頭を下げると、クレアが「またお会いできて嬉しいです、リリルちゃん」と優しく微笑んだ。
その後ろからは、アレンと、道をこじ開けて一緒に突入してきた大和郷の佐吉や久義、天才軍師の黒戸と半月が続々と上陸してきた。
「へぇ……! あんたが、大和郷のおばちゃんたちと莫大な物資のやり取りをしてた『ルミナの女帝』か! ずっと手紙だけの付き合いだったが、ようやく会えたな!」
佐吉が、エルゼの圧倒的なオーラに感心したように声を上げる。
エルゼは立ち上がり、初めて直接対面する『東の家族』に向かって、優雅に、けれど誇り高く会釈をした。
「大和郷の島津グループの皆様、長きにわたる物流と手紙での取引、いつも感謝しております。……私たちの『世界商圏』を担う立役者たちを、ルミナ領主として心から歓迎いたしますわ」
「……静江さん。僕の留守中、この街は僕がいなくても全く問題なかったようですね……」
アレンが、少しだけ複雑な顔をして苦笑いする。
「せやな! やっぱりうちらの家族は、最高に優秀でしたたかやわ! 手紙で繋がっとった家族が、ついにここに大集合や!」
うちはガハハと笑い、振り返って海を埋め尽くす帝国の艦隊を睨みつけた。
帝国軍の指揮官たちは、ようやく自分たちが「ルミナの防衛網(内側)」と、「オカン・ユニオンと大和郷の艦隊(外側)」に完全に挟み撃ちにされていることに気づき、大パニックを起こしとった。
『ば、馬鹿な! 背後から敵だと!? 封鎖網の内と外から挟まれている! 陣形を反転しろ! 海へ向かって大砲を撃て!』
指揮官の怒号が響くが、密集しすぎた船団は、そう簡単には身動きが取れへん。
「……さぁ、カイル。敵が完全に『すり鉢の底』に集まったわ。私たちが水面下で仕掛けていた『特大のカウンター(罠)』を起動しなさい」
エルゼが扇子で海を指し示すと、カイルが「御意」と不敵に笑って魔導書を開いた。
「旧公爵領のプラントから地下水路を通じて、このルミナの港の海底に張り巡らせておいた『広域魔力ジャミング(電波妨害)』の術式……起動します!」
カイルが杖を地に突き立てた瞬間、ルミナの海底から凄まじい妨害電波が放たれた。
『な、なんだ!? 魔力炉の出力が急低下している!』
『舵が利かない! 操舵輪が言うことを聞かんぞ! ぶつかる、ぶつかるゥゥッ!』
ジャミングを受けた帝国軍の最新鋭の装甲船は、次々と動力を失い、コントロールを失って味方の船同士で激しく衝突(玉突き事故)を始めよったんや。
『オカン! こっちは準備万端だぜ!』
外側に残った艦隊を指揮するガトーの声が、拡声魔道具を通じて海越しに響いてくる。
「よっしゃ! 中からはエルゼちゃんたちの特大の罠! 外からはうちらオカン・ユニオンの特売ダッシュや!」
うちは特大のゴミ拾いトングを天に突き上げ、拡声魔道具で全軍に号令をかけた。
「さぁ、みんな! ついに直接顔を合わせた『東西の家族』の初陣や! この三百隻の不良在庫(帝国艦隊)、海のゴミになる前に、全部まとめて『お買い上げ(拿捕)』したるでぇぇッ!! 特大バーゲンセールの時間や!!」
「「「うおおおおおぉぉぉぉぉッ!!!」」」
ルミナの港と外の海から、世界連合軍の割れんばかりの歓声が響き渡る。
完全に合流を果たした東西の最強家族による、帝国無敵艦隊をすり潰す「怒涛の挟み撃ちバーゲンセール」が、今、高らかに幕を開けたんや!
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