第217話 西の大陸への帰還と、最悪の「特売通行止め」
海賊諸島の防波堤で、アルビオン帝国の先遣隊五十隻を見事に拿捕(お買い上げ)したうちら。
大和郷の鉄甲船団と、カリカのドワーフたちという『特大の家族』が合流し、港は再会の歓喜と、戦勝の熱気に沸き立っとった。
鹵獲したばかりの真っ白な帝国船は、ドワーフたちの手によって次々と解体され、使える魔力機関や装甲板が、うちらの船の補強材として手際よく再利用されていく。
「……しかし静江さん。先遣隊を退け、船の補強が進んでいるとはいえ、手放しで喜んでばかりもいられません。東の海から、五百隻にも及ぶ『帝国本隊』がこちらへ向かってきているのは事実です。彼らが到着する前に、この海賊諸島で迎え撃つ陣形を組みますか?」
黒衣の天才軍師・黒戸が、奪ったばかりの帝国軍の精緻な海図を木箱の上に広げ、扇子でトントンと叩きながら尋ねてきた。
その隣では、白衣の半月も「この狭い海域に五百隻を引き込むのは、我々の鉄甲船の機動力を殺すことにもなりかねません」と、渋い顔で同意しとる。
「アホか。こんな狭い島で五百隻も相手にしたら、いくらあんたらが賢くても、島ごとすり潰されて沈んでまうわ」
うちは特大のサングラスを押し上げ、西の方角――はるか海の向こうにある、エルゼたちのいる『グランシェル王国』を指差した。
「うちらの最終目的地は、もともと西の大陸や。エルゼちゃんやカイルたちも、王都で帝国相手に関税やら利権やらでバチバチにやり合ってるはずやしな。本隊が来る前に、うちらも西へ向かって、ルミナの街で合流(店開き)するで!」
「なるほど。この島に固執せず、ルミナの強固な防衛網と我々の艦隊を合わせれば、五百隻の無敵艦隊とも真っ向から渡り合えますね」
ルミナの騎士であるアレンも、故郷での決戦という提案に、目を輝かせて力強く頷いた。
こうして、三十隻の海賊船と、大和郷の無敵の鉄甲船団からなる『オカン・ユニオン世界連合軍』は、海賊諸島を後にして、西の大陸(グランシェル王国)へ向けて意気揚々と出航したんや。
===========
西の大陸へ向かう数日間の航海は、まさに東西の文化が入り交じる「特大の慰労会」やった。
甲板の上には特大の寸胴鍋がいくつも並べられ、大和郷の連中が持ち込んだ大量の白米と、カリカで仕入れた刺激的なスパイスが、見事な融合を果たしとる。
「おうおう! こりゃあたまんねぇ匂いだぜ! カリカの香辛料ってのは、こんなに食欲をそそるのか!」
「ガハハハ! ドワーフの胃袋にもガツンとくるぜ! 大和郷の『コメ』ってやつは、汁気を吸って最高に美味えな!」
巨漢の海賊ガトーや、大和郷の若武者である佐吉や久義、そしてカリカのドワーフたちが、肩を組みながら『特大のスパイスカレーライス』を頬張り、ドンチャン騒ぎを繰り広げとる。
「……静江さん。みんな、本当にいい笑顔ですね。言葉も文化も違うのに、一つの鍋を囲むだけで、まるで昔からの家族みたいだ」
アレンが、カレーの皿を持ちながら、穏やかな顔でうちの隣にやってきた。
「せやろ。腹が減ったら飯を食う、美味いもん食ったら笑う。それだけは、どの種族でもどの国でも変わらん『生活の基本』やからな」
うちは、満足げにカレーをかき込みながら、海風に吹かれて目を細めた。
「……おばちゃん。あそこが、エルゼお姉ちゃんやカイルお兄ちゃんたちのいる街?」
ふと、うちのポンチョの裾を握りながら、リリルが遠くの水平線を指差した。
潮の匂いが変わり、朝靄の向こうに、西の大陸の切り立った崖と、カモメが舞うルミナの港町の輪郭がうっすらと見え始めとった。
「せやで。久しぶりの実家やな。みんな、元気にしとるやろか……ん?」
うちは、以前カイルに作ってもらった『遠視の魔道具(双眼鏡)』を取り出し、ルミナの港の方角を覗き込んだ。
そして、思わず「えっ」と声を漏らし、カレーを持つ手をピタリと止めた。
隣で同じく海を見ていたアレンも、信じられないものを見るように目をひん剥いとる。
「……静江さん。あれ……ルミナの港が、とんでもないことになっています。いや、ルミナだけじゃない……!」
ルミナの港だけやない。
グランシェル王国の沿岸部一帯を、文字通り「隙間なく」埋め尽くすようにして、見渡す限りの真っ白な帆と、分厚い鋼鉄の装甲を持ったアルビオン帝国の軍艦が、何重にも陣取っとったんや。
その数は、ざっと見ても三百隻以上。
海賊諸島に向かってきていた五百隻の本隊とは別に、西の大陸そのものを完全に海から閉じ込めるための、特大の『海上封鎖艦隊』やった。
===========
「……なるほどな。エルゼちゃんたち、王都で帝国相手にバチバチやってるんやと思とったけど……この特大の封鎖のせいで、海に出るどころか『身動き取れん状態』にされとったんやわ」
うちは双眼鏡を下ろし、大きな溜息をついた。
王国の商船も、漁船も、一隻たりとも外へ出ることは許されず、帝国の軍艦が放つ冷酷な大砲の筒先が、ルミナの街を常に威圧しとる。
完全に、首の皮を真綿で締め上げるような「特大の兵糧攻め(嫌がらせ)」や。
「……帝国め。海賊諸島に五百隻を差し向けながら、同時に一国を完全に封鎖するだけの艦隊を展開しているとは。これが、世界最大の覇権国の『真の底力』ですか」
天才軍師の半月が、手にしたカレーの皿を置き、冷や汗を流しながら扇子を握りしめる。
「静江殿! どうする! 敵の数は三百以上! しかも、あのようにガッチリと陣形を組まれていては、我らの鉄甲船でも容易には突破できんぞ!」
島津の久義が、珍しく焦燥の声を上げた。
彼ら大和郷の精鋭であっても、あれほど密集した近代兵器の壁に真正面から突っ込むのが、どれほど無謀かは一目で理解できたんや。
「せやな。あんな満員電車みたいなとこに真正面から突っ込んでも、ハチの巣にされるだけや。……でも、絶望するんはまだ早いで」
うちはアイテムボックスからパイプ椅子を取り出し、甲板のド真ん中にガシャンと広げてどっかと座り込んだ。
そして、いつものように使い込まれたタロットカードを取り出し、バシッ、バシッと展開する。
出たのは、『塔(The Tower)』の逆位置と、『悪魔(The Devil)』の逆位置や。
「……『塔』の逆位置は、じわじわと続く緊迫状態。『悪魔』の逆位置は、呪縛からの解放の兆しやな」
うちはカードの絵柄をデコネイルで弾き、ニヤリと極悪な笑みを浮かべた。
「……エルゼちゃんのことや。ただ大人しく封鎖されて震えてるタマやない。絶対に、街の内側から帝国を出し抜くための『えげつないカウンター』の準備をしとるはずやわ」
うちは立ち上がり、拡声魔道具を口に当てて、連合軍の全艦隊に向かって号令をかけた。
「よう聞きなはれ、あんたら! 帝国が特大の『通行止め』しとるけど、あんなもん、おばちゃんには通用せえへんで!」
「オカン! どうやってあの分厚い壁を突破するんだ!」
ガトーが叫ぶ。
「真正面から行くからアカンねん! スーパーのレジが混んどる時、真正面から並んだら一生会計できへんやろ! アレン、あんたの神速と風の魔法、そして佐吉たち大和郷の『特売ダッシュ』の出番や! 敵の封鎖の端っこ……一番手薄なところに、無理やり『おばちゃん専用レジ(血路)』をこじ開けるで!」
「承知しました! 僕の剣で、ルミナの海を切り拓いてみせます!」
「大和郷の突撃、見せてやるぜ!」
アレンと佐吉が、同時に武器を構えて前に出た。
ルミナの街を包囲する、絶望的な帝国の海上封鎖。
だが、外から帰ってきた最強のオカン連合軍は、迷うことなくその分厚い壁に「特大の穴」を開けるべく、怒涛の突撃を開始しようとしとったんや!
読んでくれてありがとうございます!
「面白い!」「続きが気になる!」「応援したい!」と思っていただけたら、
作品ページ上部の【☆評価】【ブックマーク】、そして【リアクション】ボタンをポチッと押していただけるととても励みになります!
みなさんの応援が、次回更新の原動力になります。
引き続きよろしくお願いします!




