第216話 特大の挟み撃ちと、世界連合のバーゲンセール
海賊諸島の防波堤の前に広がる海域。
アルビオン帝国軍の先遣隊五十隻は、今、完全にパニック状態に陥っとった。
彼らの背後――東の水平線から突如として現れたのは、分厚い鋼鉄の装甲を纏い、家紋の幕をはためかせた大和郷の『巨大な鉄甲船』の大船団や。
『な、なんだあの異形の船は! 白い帆がないぞ! 構わん、全門一斉射撃! 敵の船を海に沈めろ!』
帝国軍の指揮官が血相を変えて怒号を飛ばし、後方にいた数十隻の軍艦が、一斉に鉄甲船団へ向けて魔導砲の火を噴いた。
ドォォォォンッ!! ドォォンッ!!
無数の青白い光弾が、荒れ狂う海面を這うように飛んでいき、鉄甲船の装甲に直撃する。
普通なら、木造の船など一瞬で木っ端微塵に吹き飛ぶ威力や。
……やけど。
カァァァァンッ!! キィィィンッ!!
耳を劈くような高い金属音が響き渡り、帝国の魔力弾は、鉄甲船の分厚い装甲の表面で虚しく弾け飛び、火花を散らすだけで終わってしもうた。
「ガハハハ! 効かねぇな! 俺たちカリカのドワーフが、航海中に不眠不休で打ち直した『特注の防魔・防刃コーティング装甲』だ! 帝国の量産品の大砲で、傷一つ付けられるかよ!」
鉄甲船の甲板から、油まみれの顔をしたカリカのドワーフたちが、誇らしげに巨大なハンマーを振り上げて笑う。
彼らは大和郷の船に乗り込んだ後、得意な「モノ作り」の腕を存分に振るい、ただの和船を、帝国軍の砲撃すら弾き返す『無敵の要塞船』へと魔改造しとったんや。
『ば、馬鹿な! 直撃したのに無傷だと!?』
帝国兵たちが絶望に目を剥く中、先頭を走る一番巨大な鉄甲船が、減速することなく、帝国軍のしんがりを務めていた装甲船の真横へと猛スピードで激突した。
メキメキバキィィィッ!!
鋼鉄と鋼鉄がぶつかり合う凄まじい衝撃。帝国の船が大きく傾いたその瞬間、鉄甲船の舳先から、血走った目をした男たちが、怒涛の勢いで雪崩れ込んだ。
「――泥をすすれェェッ! チェストォォォォッ!!」
先陣を切ったのは、大和郷の新社長・佐吉や。
彼は獣のような低い姿勢から跳躍し、手にした抜身の日本刀を、帝国の重装甲兵めがけて容赦なく振り下ろした。
ガガァァァンッ!
分厚い白銀の鎧ごと、帝国兵が真っ二つに叩き割られ、甲板に崩れ落ちる。
「クククッ! 命の削り合いこそ武士の誉れ! さぁ、西の海の血をすべて刈り取ってくれるわ!」
狂気じみた笑みを浮かべた島津の久義も、長太刀を風車のように振り回し、群がる帝国兵を次々と血の海に沈めていく。
大和郷が誇る、理屈抜きの「圧倒的な暴力(狂戦士たち)」。
マニュアル通りにしか動けない帝国のエリート兵たちは、その常軌を逸した突撃の前に、一瞬にして陣形を崩され、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始めた。
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「……おいおい。相変わらず、元気すぎるやろあの子ら」
防波堤の上で特大のゴミ拾いトングを肩に担いだうちは、特大のサングラスを押し上げてガハハと笑った。
東からの強烈なプレッシャーに耐えかねた帝国軍は、後退することもできず、うちらが守る防波堤の方へとジリジリと押し出されてきよる。
「静江さん! 敵の陣形が完全に崩れました! 今なら、こちらからも押し込めます!」
息を整え、西の大陸の長剣を構え直したアレンが、目を輝かせてうちを見た。
その顔には、もう迷いも、僕を頼ってくれないという不満もあらへん。互いの背中を預け合う、最高の相棒(用心棒)としての誇りが満ちとる。
「よっしゃアレン! ガトー! アーニャ! 手前まで押し出されてきた『お買い得品(帝国船)』から順番に、特売ダッシュで拿捕していくで!」
「「「応おおおおぉぉぉぉぉッ!!」」」
海賊諸島の砦から、ガトーたちオカン・ユニオンの海賊衆が、一斉に反撃の雄叫びを上げて小舟で飛び出していく。
アレンも風の魔法を足元に纏い、海面を滑るようにして、押し出されてきた帝国の船へと単騎で斬り込んでいった。
一方、背後の鉄甲船団の安全な後方甲板では。
黒衣と白衣を纏った二人の天才軍師、黒戸と半月が、涼しい顔で戦況を見下ろしながら、パチパチと算盤を弾いとった。
「……フッ。敵の右翼が完全に死にましたね。半月、あちらの退路を三番隊の船で塞ぎ、中央へと圧縮しましょう」
「ええ、黒戸殿。静江さんたちの海賊艦隊と我々で、敵を完全に『すり鉢の底』へ追い落とすのです。逃げ場をなくせば、あとは降伏を待つだけだ」
二人の軍師の冷徹で完璧な計算(陣形コントロール)により、五十隻の帝国先遣隊は、文字通り前後を完全に塞がれ、海峡のド真ん中でギュウギュウ詰めの「満員電車状態」にされてしもうたんや。
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『……ば、馬鹿な。我が帝国の最新鋭艦隊が、東の野蛮人と下等なドワーフの寄せ集めに、こうも簡単に蹂躙されるだと……!』
帝国軍の指揮官は、燃え盛る旗艦の甲板にへたり込み、絶望に顔を歪めていた。
もはや、砲撃を撃つ隙間すらない。味方の船同士がぶつかり合い、完全に身動きが取れんようになっとる。
「――寄せ集めちゃうわ!」
指揮官の頭上から、腹の底に響くような関西弁の怒声が降ってきた。
見上げれば、アレンに抱えられて旗艦のマストの上に降り立ったうちが、拡声魔道具を口に当てて、ギラリと指揮官を睨み下ろしとった。
「うちらはな、それぞれの『得意なこと』を最大限に活かした、特大の合同会社(世界連合)や! 上からの命令で嫌々動いてるだけの、あんたらみたいなブラック企業(帝国)に負けるわけないやろが!」
うちはマストから飛び降り、特大トングの先を指揮官の鼻先にビシッと突きつけた。
「さぁ、命が惜しかったらさっさと白旗上げなはれ! 抵抗するなら、あんたらの船、全部バラバラに解体して鉄屑としてリサイクルに回すで!」
『……ひっ……! こ、降伏だ……! 武器を捨てろォッ!』
おばちゃんの圧倒的な凄みと、完全に詰んだ戦況を前に、指揮官は涙と鼻水を流しながら地面にひれ伏した。
それを合図に、五十隻の帝国軍艦に白旗が上がり、先遣隊は一隻残らずオカン・ユニオンの手に落ちたんや。
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戦いの火が収まり、黒煙が薄れていく海賊諸島の港。
防波堤の広場には、泥と血にまみれながらも、満面の笑みを浮かべた大和郷の面々が上陸してきとった。
「おばちゃーーーんっ!!」
一番に船から飛び出してきた佐吉が、猛ダッシュでうちの元へ駆け寄り、ヒョウ柄のポンチョに勢いよく抱きついてきた。
「痛っ! こら佐吉、あんたデカくなったんやから、勢いよく飛びついたらおばちゃんの腰が折れるわ!」
うちは文句を言いながらも、彼が立派な若武者として、そして「一人の家族」として真っ直ぐに育ってくれたことが嬉しくて、その頭をわしゃわしゃと乱暴に撫で回した。
「約束通り、一番に駆けつけたぜ! 大和郷の特大出資、役に立っただろ!」
「ああ、完璧なタイミングやったで! 久義も、黒戸と半月の兄ちゃんらも、それにカリカのドワーフのおっちゃんらも! ホンマに、よう来てくれたわ!」
うちは、港に集まった東西の家族たちをぐるりと見渡し、感無量の笑みを浮かべた。
アレンも、久義や黒戸たちと固い握手を交わし、再会を喜んどる。
種族も、生まれた国も違う。だけど、おばちゃんのお節介と飴ちゃんで繋がった「最強の家族」が、今、この海賊諸島に結集したんや。
「……ですが、静江さん。喜ぶのはまだ早いです。今回退けたのは、あくまで帝国の『先遣隊』に過ぎません」
アレンが表情を引き締め、東の海へと視線を向けた。
黒戸と半月も、パチンと扇子を鳴らして深く頷く。
「ええ。我々が海を渡ってくる途中、凄まじい数の大船団が、こちらへ向けて出航準備を進めているのを補捕捉しました。……その数、およそ五百隻。本国が誇る『無敵艦隊・本隊』が、すぐそこまで迫っています」
五百隻。
先遣隊の十倍という、まさに国を一つ沈めるための暴力の塊や。
だが、うちはパイプ椅子を広げてどっかと座り、アイテムボックスからとびきり甘い「ハチミツ味」の飴ちゃんを取り出して、ガリッと噛み砕いた。
「……上等やないの。相手が世界最大の大企業なんやったら、うちらはこの世界連合で、特大の『買収劇』を仕掛けたるだけや。……さぁ、みんな! 一息ついたら、本番の店開きの準備やで!!」
東西の家族の合流。
強固な絆で結ばれた世界連合軍は、いよいよ迫り来るアルビオン帝国の本隊との、過去最大スケールの大海戦へと向けて、高らかに士気の狼煙を上げたのだった。
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