第213話 海賊諸島の凱旋と、オカン発・特大の同窓会案内
新大陸近海で帝国の装甲船と交戦し、沈みゆく炎の中から「敵の少年兵」を救い出したうちら。
だが、その強引すぎる人命救助を巡って、うちとアレンの間に生じた『解釈違いの亀裂』は、その後も艦隊全体に重苦しい沈黙を落としたままやった。
波の音だけが虚しく響く、どんよりとした数日間の航海。
やがて、三十隻の海賊艦隊は、かつての拠点である『海賊諸島』へと無事に帰り着いた。
旗艦の甲板から見下ろすその島は、うちらが初めて訪れた時の「血と酒と生ゴミの匂いが充満する無法地帯」とは、見違えるほどに変わっとった。
うちが定めた『オカン・ユニオン労働基準法』と、毎週日曜の町内会大掃除がすっかり定着したおかげや。
かつては死体が転がっていた港の石畳はピカピカに磨き上げられ、海賊の家族たちが住む家々には、色とりどりの洗濯物が気持ちよさそうに海風に揺れとる。
略奪を辞め、正規の運送業者として真っ当な給料を稼ぐようになった海賊たちの顔には、荒んだ殺気はない。皆、自分の家族を養う「父親」としての、誇り高く穏やかな顔つきになっとった。
「おおーい! ガトーの父ちゃんが帰ってきたぞー!」
「赤鯱の旦那! 金鯱の兄貴も! 無事だったかー!」
港に船が接舷した瞬間、島に残っていた女子供や老人たちが、歓声を上げて一斉に駆け寄ってきた。
ガトーやアーニャたち海賊衆が、照れくさそうに笑いながら家族と抱き合う。子供たちが父親の太い足にすがりつき、妻たちが安堵の涙を流して夫の無事を喜ぶ。
その温かいやり取りは、何度見ても胸の奥がじんわりと温かくなるもんや。
……やけど、今のうちの隣には、その温かい光景を一緒に笑ってくれるはずの「銀髪の相棒」の姿があらへんかった。
アレンは、港の喧騒から少し離れた甲板の隅で、西の大陸の長剣を無言で手入れしとった。
彼のすぐ横には、うちが拾い上げたあの帝国の少年兵が、アレンの厳しい監視の目に怯えながら、小さく丸まって座っとる。
「……静江さん」
アレンが剣の血振りをし、こちらをチラリと見た。その瞳には、まだ「僕を頼ってくれなかった」という不満と、一人前の騎士としての強い警戒心が冷たく張り付いたままや。
「この少年は、一応の怪我の治療は終わりましたが、あくまで帝国の人間です。この島に下ろすわけにはいきません。……僕が、責任を持ってこの船の船底(牢)で監視を続けます」
「……そうか。まぁ、あんたがそう言うなら任せるわ。でも、ちゃんと三食温かいご飯は食べさせたりや。育ち盛りなんやから」
「分かっています。僕は、彼を虐待したいわけじゃない。ただ、あなたを危険な目に遭わせたくないだけです」
アレンはそれだけ言うと、剣を鞘に納め、少年を促して船底へと降りていってしもうた。
(……あーあ。ほんまに、真面目すぎる子やで)
うちは特大のサングラスを押し上げ、小さく、誰にも聞こえへんような溜息をついた。
彼が立派な騎士になったのは分かっとる。やけど、目の前で消えそうな命を見たら、どうしても手が出てしまうのが「オカン」の性分なんや。この埋まらない解釈違いは、時間が解決してくれるのを待つしかないかもしれへん。
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「……姐さん。アレンの旦那と、まだギクシャクしてるんですかい?」
家族との再会を終えた巨漢のガトーが、心配そうな顔で歩み寄ってきた。
「アホ、夫婦喧嘩みたいなもんや。ほっといたらそのうち腹減って機嫌直るわ」
うちは強がって笑い飛ばし、アイテムボックスからパイプ椅子を取り出して、甲板にガシャンと広げてどっかと座り込んだ。
「それよりガトー! しんみりしてる暇はあらへんで! 帝国の偵察船がうろついとるってことは、もうすぐ向こうの『本隊』が、この海賊諸島をすり潰すために大軍を差し向けてくるはずや!」
うちの言葉に、ガトーの顔から緩んだ空気が消え、歴戦の海の男の顔つきに戻った。
「……へい。俺たちオカン・ユニオンの三十の艦隊でも、帝国の本国が相手となれば、とても正面からは支えきれねぇでしょう。どうしやす?」
「決まっとるやろ! 相手が世界最大の大企業(帝国)なんやったら、こっちも世界中から『最強の身内』を呼び寄せて、特大の合同会社(世界連合)を作るんやわ!」
うちは、アイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込み、大和郷で仕入れた上質な『和紙』と、大量の筆とインクを、これでもかというほど甲板にぶちまけた。
「ガトー! アーニャ! 森の兄ちゃんらも呼びなはれ! 今からおばちゃんが、世界中のダチ(同窓生)に、とびきりド派手な『同窓会の案内状』を書き殴ったるからな!」
うちは筆を乱暴に墨に浸し、和紙の上にバシッ、バシッと力強い文字を書き連ねていった。
一通目は、東の果て、大和郷の頂点に立ったあの若き修羅……いや、今や立派な新社長となった『佐吉』や、島津の久義、そして天才軍師の両兵衛(黒戸・半月)たちへ宛てた手紙や。
『佐吉、久義、元気にしてるか? 大和郷のホワイト化は順調やろな?
実は今、おばちゃんは世界の海を牛耳っとるデカい親玉、神聖アルビオン帝国とバチバチにやり合う準備をしとる。
大和郷でやった「特売ダッシュ」のスケールを、世界レベルに引き上げる時が来たで!
暇してるんやったら、あんたらの鍛え上げた薩摩の精鋭と、東の武士たちをありったけ船に乗せて、海賊諸島まで遊びに来なはれ。特大のバーゲンセール、一緒に楽しもやないか!
――オカン(静江)より』
二通目は、大和郷と西の大陸の中間に位置する巨大中継港『カリカ』の仲間たちへの手紙や。
そこで理不尽な『種族適性法』から解放した、ドワーフや獣人たち、そしてリリルが率いるエルフの同胞たちへの依頼や。
『カリカのみんな、お疲れさん! 街の調子はどないや?
今度、帝国の本国を相手に、特大のケンカを売ることになったわ。
でもな、あんたらカリカの連中は、無理に前線で戦わんでええ。あんたらの「得意なこと」は、物を作ることと、美味しいご飯を食べることやろ!
せやから、あんたらには今回の同窓会の『ケータリング(特大の弁当と物資の補給)』をお願いしたいねん!
ドワーフの兄ちゃんらは武器の修理と予備の弾薬作り! 獣人の兄ちゃんらは物資の運搬! エルフの子らは、美味い保存食と薬草の調合や!
うちらの胃袋と弾薬庫は、あんたらに全部任せたで!』
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「……すげえ。大和郷の武士たちに、カリカの職人たち。……静江姐さんの人脈、本当に世界規模ですね……」
横で手紙を覗き込んでいたアーニャが、呆れを通り越して感嘆の息を漏らす。
「せやろ? 戦っちゅうのはな、最前線でチャンバラするだけやない! 腹が減ったらどんなに強い兵隊も動かれへん。一番大事な『後方支援(兵站)』の頼み先も忘れちゃアカンねん」
うちは、満足げに二通の手紙をパラパラと振って乾かした。
戦闘民族ではないカリカの連中には、決して血を流させない。
それぞれの種族が最も輝ける「適材適所」の役割分担。これこそが、特権商社の理不尽な支配を打ち破った『オカン・ユニオン』の最大の強みなんやから。
(……西の大陸のルミナにおるエルゼちゃんや、魔族領におるゾルゲやバアルたちには、あえて手紙は出さへん。あの子らは、うちらがこれからカチ込む『目的地(西の大陸)』側におるんやからな。わざわざ海を越えてここまで逆戻りさせるんじゃのうて、うちらが向こうの海にたどり着いた時に、現地で合流すればええ話や。あの子らにはあの子らの、現地での戦いがあるはずやしな)
頭の中でそう整理し、うちは書き上げた分厚い手紙を、しっかりと蝋で封印した。
「よし! これで完璧や!」
うちは顔を上げ、集まった海賊たちを見渡した。
「ガトー! アーニャ! あんたらの部下の中で、一番足の速い船出しなはれ! この手紙を、東の海とカリカへ大急ぎでばら撒いてきてほしいんや!」
「へいっ! 任せてくだせぇ、オカン! うちの身内で一番小回りの利く快速船に、特急便で届けさせやす!」
ガトーが胸を叩いて請け負い、すぐさま部下たちに指示を飛ばした。
「頼んだで! ……さぁ、みんな! 家族が到着するまでの間、この海賊諸島を絶対に破られへん『鉄壁の待ち合わせ場所』にリフォームするで! 帝国の連中が来たら、特売前の整理券配りみたいに、キッチリ整列させたれ!」
「「「応おおおおぉぉぉぉぉッ!!!」」」
海賊諸島の空に、三十の海賊団の怒号のような歓声が響き渡った。
アレンとの気まずい関係は続いたままやけど、世界を巻き込む「特大の同窓会(世界連合の結成)」へ向けたオカンの狼煙は、今、確実に放たれたんや!
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