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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第14章:東西家族の大集結! ルミナ湾の特大バーゲンセール

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第212話 炎の救出劇と、すれ違う師弟の船出

 炎と黒煙を上げながら、急速に海面へと沈んでいく神聖アルビオン帝国の装甲船。

 瓦礫の下敷きになり、泣き叫ぶ『敵の少年兵』の姿を見た瞬間、うちはアレンの制止を振り切り、一人で荒れ狂う海へと飛び込んどった。

 ザッバーーーンッ!


「……ゲホッ! しょっぱ!」


 波を掻き分け、沈みゆく敵船の甲板へと這い上がる。

 周囲は火の海や。不老不死の身体やから火傷はすぐ治るけど、熱いもんは熱いし、何より煙で息が詰まりそうになる。


「おばちゃんが来たで! もう大丈夫や!」


「た、助けて……! 熱い……ッ!」


 少年は、倒れた太い鉄の帆柱に足を挟まれ、身動きが取れんようになっとった。

 うちは、海に飛び込む前に取り出していた『特大のゴミ拾いトング』の先端を、その重たい鉄柱の下にねじ込んだ。


「ええか、よう見ときや! テコの原理や!」


 ガチンッ!

 うちが全体重をかけてトングの柄を押し下げると、ギギギッという音とともに、少年の足を挟んでいた鉄柱がわずかに持ち上がった。


「今や! 足抜け!」


「あ、あああっ!」


 少年が必死に這いずり出た直後、船体が大きく傾き、足元の甲板が真っ二つに割れて一気に海水の流入が始まった。

「ひぃぃッ! 船が沈む!」


「慌てなさんな! おばちゃんにしっかりしがみついとき!」


 うちは少年を小脇に抱え、沈みゆく船から海へと跳躍した。

 だが、その瞬間、敵船の魔力炉が大爆発を起こし、凄まじい爆風と鉄の破片がうちらの背後に迫ってきたんや。


「(……あかん、避けきれへん!)」


 うちが少年を庇うように背中を向けた、その時。


「風よ! 『絶対防壁』!!」


 ドォォォォォンッ!!


 うちらの背後に分厚い風の壁が展開され、爆風と瓦礫をすべて弾き飛ばした。

 見上げれば、アレンが甲板から風の魔法を放ち、うちらを援護しとったんや。


「アレン! 助かったわ!」


 うちは風の魔法で海面から引き上げられ、ガトーたちが差し出したロープを掴んで、無事にうちらの旗艦の甲板へと生還を果たした。


===========


「ゲホッ……ゴホッ……! はぁ、はぁ……」


 甲板に倒れ込んだ少年が、海水を吐き出しながら荒い息をつく。

 うちは濡れた前髪をかき上げ、アイテムボックスから怪我を治す黄色の「レモン味」の飴ちゃんを取り出して、少年の口に放り込んでやった。


「ほら、これ舐めとき。火傷の痛みもすぐに引くわ。……よう頑張ったな」


 飴の魔力で体力を取り戻した少年が、涙目でうちを見上げる。

 だが、その安堵の空気は、アレンの冷たく鋭い声によって一瞬で切り裂かれた。


「……静江さん。なぜ、あんな無茶をしたんですか」


 アレンが、長剣を鞘に納めながら、氷のような目でうちを見下ろしていた。


「無茶? アホか、目の前で子供が死にそうになっとるんやで。助けに行くのが当たり前やろが」


「相手は帝国の兵士です! 彼をこちらの船に引き入れれば、恩を仇で返され、内側から破壊工作をされる危険だってあったはずだ!」


 アレンの言葉に、周囲の海賊たちも息を呑んで沈黙する。


「危険やて? 相手はまだ十代の子供やないか! こんなパニックになっとる子を見捨てて、自分だけ安全な場所で息してる方が、よっぽど心が腐るわ!」


 うちが言い返すと、アレンはギリッと強く歯を食いしばり、拳を震わせた。


「……じゃあ、なぜ僕を頼ってくれなかったんですか!!」


 アレンの悲痛な叫びが、海風の中に響き渡った。


「え……?」


「僕の『刹那の観測』と風の魔法があれば、あなたを危険な目に遭わせることなく、あの少年を救い出すことだってできたはずだ! なのにあなたは、僕を振り払って、一人で火の海へ飛び込んだ!」


 アレンの瞳には、かつての泣き虫な青年の面影はない。

 ルミナの騎士として、そして最強の用心棒として成長した彼だからこその、強烈な「不満」と「悲しみ」が渦巻いとった。


「……静江さんは、まだ僕のことを『守られるだけの子供』だと思っているんですか。……僕はもう、あなたの背中に隠れているだけの存在じゃないのに!」


===========


 アレンの言葉が、うちの胸にチクリと刺さった。

 確かに、彼の力ならもっと安全に救出できたかもしれん。やけど、あの時のうちは、前世のトラウマのせいで完全に「母親のパニック」に陥っとった。自分以外の誰かに任せる余裕なんて、一ミリもなかったんや。


「……アレン。あんたが立派な騎士になったんは、誰よりもおばちゃんが一番よう分かっとる。……でもな、これはうちの『性分』や。目の前で若い命が消えようとしてる時に、誰かの助けを待つなんてできへんのやわ」


「……」


「それに、この子はもううちらの『お客さん』や。敵やない。……アーニャ、ちょっと毛布持ってきたって」


 うちはアレンの視線から逃げるように、震える少年を抱き起こした。

 アレンは、そんなうちの背中を、悲しげに、そして諦めたような冷たい目で見つめとった。


「……分かりました。あなたがそう言うなら、これ以上は言いません。ですが、この船の安全は僕が守ります。彼には常に、僕の監視をつけてもらいます」


 アレンはきびすを返し、無言のまま甲板の反対側へと歩き去っていった。


「あっ……アレンの旦那……」


 ガトーやアーニャがオロオロと二人の間を行き来するが、うちらの間に走った「冷たい亀裂」は、誰の目にも明らかやった。


「……おばちゃん。ごめんなさい……僕のせいで……」


 少年が、申し訳なさに震えながら呟く。


「あんたは何も悪ない。……おばちゃんが、ちょっと不器用なだけや」


 うちは、少年の肩に毛布をかけながら、ポツリとこぼした。

 新大陸での大掃除を終え、絶対的な信頼で結ばれていたはずのオカンと騎士。

 だが、互いを思いやるがゆえの「解釈違い」は、重苦しい沈黙となって艦隊全体を覆い尽くしてしもうた。


「……ガトー。とりあえず、このまま進むで。まずは、あんたらの故郷である『海賊諸島』に寄港や。大和郷や魔族領の連中を呼び寄せるには、あそこが一番都合がええからな」


「へ、へい……! 分かりやした、オカン」


 ギクシャクとした空気を乗せたまま、三十隻の海賊艦隊は、かつての拠点である『海賊諸島』へ向けて、静かに、そして重々しく航海を続けていくんや。


読んでくれてありがとうございます!


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