第211話 徘徊する偵察艦隊と、海での前哨戦
新大陸の「特大の大掃除(神霊たちのお悩み解決)」を無事に終え、沿岸部で留守番をしていた『オカン・ユニオン(海賊衆)』と合流を果たしたうちら。
三十隻の巨大な海賊艦隊は、一斉に新大陸を背にして、新たな海へと帆を張った。
久しぶりに乗る旗艦の甲板は、潮の香りと荒くれ者たちの活気に満ちとったわ。
「……姐さん。内陸の掃除、ご苦労さんでした。こっちの海の留守番も、バッチリやらせてもらいましたぜ」
ピンクのラインストーンでデコられた魔導銃を肩に担いだ巨漢のガトーが、海図を広げながら報告してくる。
「おう、頼もしかったで。……で、海の様子はどないや?」
「それが、少し厄介なことになっていましてね」
ガトーの横から、若き女海賊のアーニャが双剣を手入れしながら口を挟んだ。
「オカンたちが内陸で大暴れした影響が、アルビオン帝国の本国にも届いたみたいでね。最近、この新大陸周辺の海域を、帝国の最新鋭の『偵察艦隊』が何隻もウロチョロと徘徊しているのよ」
「偵察艦隊やて? うちらの動きを探っとるんか」
うちは特大のサングラスを押し上げ、水平線を睨んだ。
「ええ。静江さん、帝国は新大陸の資源を独占できなくなった今、武力で無理やりにでもこの海域を封鎖しようとするはずです。……見つかれば、すぐに砲撃戦になりますよ」
アレンが西の大陸の長剣を構え、油断なく目を細める。
そのアレンの言葉を証明するかのように、見張り台から鋭い声が落ちてきた。
「前方より船影! 白い帆の装甲船が三隻! 間違いねえ、アルビオン帝国の偵察部隊だ!」
霧の向こうから姿を現したのは、船体を分厚い鋼鉄で覆い、無数の魔導砲をハリネズミのように備えた最新鋭の軍艦やった。
『――所属不明の海賊艦隊に告ぐ! ここは神聖アルビオン帝国の絶対防衛海域である! 直ちに停船し、武装を解除せよ! さもなくば撃沈する!』
拡声魔道具を使った、いかにもエリートらしい高慢な警告が響き渡る。
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「……停船やて? アホか! 誰が自分の家の前で、他人に通行止め食らわなあかんねん!」
うちはアイテムボックスからパイプ椅子を引っ張り出し、甲板にガシャンと広げてどっかと座り込んだ。
「アーニャ! ガトー! 挨拶代わりの『特大ガサ入れ』や! あの生意気な鉄の塊、ちょっと凹ませたれ!」
「「応ッ! 任せなオカン!!」」
うちらの艦隊の三十隻の海賊船が、一斉に散開し、波を滑るようにして帝国の偵察艦隊を包囲していく。
『なっ!? 警告を無視する気か! 撃てェッ! 海の藻屑にしてやれ!』
帝国軍の指揮官の号令で、三隻の装甲船から魔導砲が一斉に火を噴いた。
ドォォォォンッ!!
だが、魔の海域の荒波を生き抜いてきた海賊たちの操船技術を舐めたらアカン。
「波のうねりを読め! 砲撃のタイミングに合わせて船を傾けろ!」
アーニャの指示で、海賊船は飛来する魔力弾を紙一重で躱し、そのまま敵船の死角へと猛スピードで肉薄していく。
「僕も行きます! 『刹那の跳躍』!」
アレンが甲板を蹴り、強烈な風を纏って海面を飛び石のように駆け抜けた。
「……遅い!」
アレンの『刹那の観測』が、敵船から放たれる砲弾の軌道をスローモーションで捉える。
彼は空中で身を捻り、帝国の旗艦の甲板へと隕石のように降り立った。
『ひぃっ!? 剣士が乗り込んできたぞ!』
「邪魔だ! 下がれ!」
アレンの長剣が閃き、帝国兵たちの構えた魔導銃の銃身を、次々とスパァァンッ! と真っ二つに斬り落としていく。
血を流すことなく、圧倒的な制圧力で敵の武器だけをスクラップに変えていく神速の剣技。
「野郎ども、アレンの旦那に続けぇッ!」
ガトーたち海賊がロープを伝って敵船に乗り込み、肉弾戦で帝国兵たちを次々と甲板に叩き伏せていった。
最新鋭の兵器を積んでいようが、実戦の場数を踏んだ海賊と神速の騎士の前では、ただの「鈍重な鉄の箱」に過ぎへん。
戦いは、ものの数十分で完全にうちらのペースになっとった。
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「……よしよし。ええ感じに押し込んどるな」
うちはパイプ椅子の上で腕を組み、満足げに頷いた。
だが、その時。
ドゴォォォォンッ!!
敵の旗艦の船底で、不自然な爆発音が響いた。
「静江さん! 敵の指揮官が、拿捕されるのを恐れて船底の魔力炉を暴走させました! 船が……沈みます!」
甲板で戦っていたアレンが、血相を変えて叫ぶ。
「なんやと!? 証拠隠滅の自爆か! アレン、ガトー! さっさとこっちの船に引き上げなはれ!」
うちの指示で、海賊たちが急いでうちらの船へと飛び移ってくる。
帝国兵たちも、沈みゆく船から我先にと海へ飛び込み、救命艇にしがみついて逃げ出していった。
炎と黒煙に包まれ、急速に海面へと沈んでいく帝国の装甲船。
……だが、うちは特大のサングラス越しに、その沈みゆく船の甲板に、「逃げ遅れた一つの影」が残されているのを見逃さへんかった。
「……おい。あそこに誰か残っとるで!」
うちが指差した先。
炎の中で、瓦礫の下敷きになって身動きが取れなくなっているのは、まだ十代半ばにも満たない、ブカブカの軍服を着た『敵の少年兵』やった。
「た、助けて……! 足が、抜けない……!」
少年が、炎と迫り来る海水に恐怖し、涙を流して必死に手を伸ばしている。
その姿を見た瞬間。
うちの心臓が、ドクンッ、と嫌な音を立てて大きく跳ねた。
(……あ。あかん)
目の前で、若い命が助けを求めて、冷たい海へ消えようとしている。
ただそれだけの状況が、うちの魂の奥底にある『一番触れられたくないトラウマ(後悔)』を、強引に抉り開けたんや。
「……待っとき! 今おばちゃんが助けたる!」
うちは何も考えず、パイプ椅子を蹴り飛ばして、船の縁から海へと飛び込もうとした。
だが、その腕を、アレンがガシッと強く掴んで引き止めた。
「ダメです、静江さん!!」
「アレン! 離しなはれ! あの子が死んでまう!」
「相手は帝国の兵士です! この沈没も、こちらを道連れにするための罠かもしれない! 危険すぎます!」
アレンの瞳は、純粋に「静江を危険な目に遭わせたくない」という、一人前の騎士としての強い警戒心に満ちとった。
やけど、今のうちの耳には、そんな正論は一ミリも届かへん。
「敵とか罠とか関係ないやろ! 目の前で子供が泣いてんねん! 手を引ける時に引かんかったら、一生後悔するんやわ!!」
うちはアレンの手を力任せに振り解き、アイテムボックスから特大のトングを取り出して、沈みゆく敵船へと向かって一人で海へと飛び込んだ。
「静江さん!!」
アレンの悲痛な叫びが海風に虚しく響く。
新大陸での「大掃除」を終え、順風満帆に見えたおばちゃんとアレンの絆。
だが、一人の敵の少年兵を巡って、互いを思いやるがゆえの『特大のすれ違い(解釈違い)』が、今、荒波の中で明確な亀裂を生み出そうとしとったんや。
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