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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明


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第21話 黄金の晩餐会と、ヒョウ柄の闖入者

 侯爵邸へと続く並木道は、美しく整えられすぎていて、かえって薄気味悪かった。ルミナの街のような生活の匂いは一切せえへん。漂ってくるのは、手入れされた芝生と、金に飽かした高慢な沈黙だけや。


「……静江さん。本当にその格好で行くんですか? 門番の人たち、さっきから腰の剣に手が伸びてますよ」


 アレンが借りてきた猫のように肩をすぼめて、うちの背後をついてくる。

 今日のうちは、昨日新調した『極』刺繍の黒サテンブルゾン。さらに、歩くたびにジャラジャラと鳴る金色の太いネックレスを重ね付けし、唇には少し派手なピンクのグロスを塗りたくった。


「ええねん。あっちが『正装』で来るなら、うちは『勝負服』や。門番の兄ちゃんらも、こんなハデなもん見たことないからビビってるだけやわ」


 そんなやり取りをしている間に、うちらは豪華な装飾が施された大食堂へと案内された。

 上座に座っていたのは、冷徹な氷のような瞳を持った初老の男。カイルの父親であり、この地の絶対君主、エドワード侯爵や。


「……よく来たな、ルミナの占師。そして……不肖の息子よ」


 侯爵の声は低く、地を飛ぶような威圧感があった。カイルは口の中のレモン飴をガリリと噛み砕き、皮肉な笑みを浮かべて向かいに座った。うちはと言えば、給仕が椅子を引くのを待たず、ドカッと座って、まずは一番近くにあった銀のフォークを鏡代わりに口元をチェックした。


「えらい豪華な部屋やなぁ、侯爵様。掃除大変そうやけど、これ全部あんたの趣味か? ちょっと成金趣味が強すぎる気がするわぁ」


 周囲に控えていた役人や騎士たちが、一斉に息を呑んだ。バルトロに至っては、泡を吹いて倒れそうな顔をしとる。


「……口の減らない女だ。貴様が地下水路で成したことは、我が侯爵家の理を揺るがした。……さて、食事を始めよう。毒など入っておらん。そんな回りくどいことをせずとも、貴様を排除する法など、いくらでも捏造できるのでな」


 運ばれてきたのは、見事な霜降りの肉料理や。

 侯爵が「排除」という言葉を吐いた瞬間、うちは感じた。周囲の騎士たちが、微かな殺気を放ったのを。


 だが、その殺気を真っ向から押し返したのは、アレンやった。

 彼は剣を抜くことこそなかったが、その瞳は獣のように鋭く、侯爵の直属騎士たちを射抜いた。

「……静江さんに、無礼な真似はさせませんよ」

 その低く、静かな声には、地下水路での戦いを経て手に入れた、本物の『強者』の重みがあった。騎士たちが思わず怯み、空気が一変する。


「……ほう。良い犬を飼っているな」


 侯爵の言葉に、うちは鼻先で笑いながら、タロットを肉の皿の横に並べた。


「『皇帝』の逆位置。……侯爵様、あんた。この肉を喉に通す前に、うちの言葉を飲み込まなあかんで。……あんた、今、夜も眠れんほど『所属変更』の書類が山積みになってるやろ。理由はシンプルや。あんたの顔が、この肉より硬くて不味そうやからやわ。……領民はな、領主のプライドなんか食うて生きてるんとちゃう。明日の水と、笑える毎日を求めているんや」


 侯爵の手が止まった。


「……貴様、私に何を指図しているのか分かっているのか!」


「分かってるわ。……バネッサさんから預かってきた書類、見せよか? あんたの領地が銀行に負うてる債権、もう半分以上、ルミナの商業ギルドが買い取ったで。……つまりな、侯爵様。あんたのこの豪華な家も、この不味そうな肉も、実質的にはうちらのもんなんやわ」


 食堂が、静寂に包まれた。

 カイルが、その光景を眺めながら、本当に楽しそうに声を上げた。

「父上。言っただろう? この人は、星の動きよりも『今日の銭の動き』に詳しいんだ」


 侯爵の顔が、怒りと恐怖で歪んだ。……だが、そこで彼は、ガハハと喉を鳴らして笑い出した。

「……ククッ、ハハハ! まさか、この私が、路地裏の女に『金』で首を絞められるとはな。……面白い。ならば占師よ。私のすべてを賭けて、貴様を試させてもらおうか」


 侯爵は、テーブルを滑ってきた一粒の白い飴――ハッカ味を手に取った。

 彼がそれを口に入れた瞬間。

 鼻を抜ける清涼感が、彼の凝り固まった支配欲を、少しだけ解きほぐした。


「……この清々しい香り。……地下水路の、あの爺やが守りたかった水と同じ匂いだな」

 侯爵の瞳から、氷のような冷たさが消え、かつて「この地を豊かにしよう」と誓った若き頃の情熱が、一瞬だけ宿った気がした。


「……さぁ、占師。……おばちゃんとやら。じっくり『銭の話』と……この街の『未来』の話をしようじゃないか。……ただし、安くはないぞ?」


 見た目は派手なギャル、中身は最強のオカン。

 黄金の晩餐会は、今や「おばちゃんの説教部屋」であり、新しい時代の「交渉の場」へと変わっていた。 侯爵邸へと続く並木道は、美しく整えられすぎていて、かえって薄気味悪かった。


 ルミナの街のような生活の匂いは一切せえへん。漂ってくるのは、手入れされた芝生と、金に飽かした高慢な沈黙だけや。


「……静江さん。本当にその格好で行くんですか? 門番の人たち、さっきから腰の剣に手が伸びてますよ」


 アレンが借りてきた猫のように肩をすぼめて、うちの背後をついてくる。

 今日のうちは、昨日新調した『極』刺繍の黒サテンブルゾン。さらに、歩くたびにジャラジャラと鳴る金色の太いネックレスを重ね付けし、唇には少し派手なピンクのグロスを塗りたくった。


「ええねん。あっちが『正装』で来るなら、うちは『勝負服』や。門番の兄ちゃんらも、こんなハデなもん見たことないからビビってるだけやわ。飴ちゃんでもあげよか?」


「やめてください! 火に油を注ぐようなもんです!」


 そんなやり取りをしている間に、うちらは豪華な装飾が施された大食堂へと案内された。

 高い天井には巨大なシャンデリア。テーブルには、眩しいほどの銀食器と、見たこともないような細工が施されたグラスが並んどる。


 そして、その上座に座っていたのは、冷徹な氷のような瞳を持った初老の男。

 カイルの父親であり、この地の絶対君主、エドワード侯爵や。


「……よく来たな、ルミナの占師。そして……不肖の息子よ」


 侯爵の声は低く、地を這うような威圧感があった。

 カイルは無言で、けれど口の中のレモン飴をガリリと噛み砕き、皮肉な笑みを浮かべて向かいに座った。うちはと言えば、案内の給仕が椅子を引くのを待たず、ドカッと座って、まずは一番近くにあった銀のフォークを鏡代わりに口元をチェックした。


「えらい豪華な部屋やなぁ、侯爵様。掃除大変そうやけど、これ全部あんたの趣味か? ちょっと成金趣味が強すぎる気がするわぁ」


 周囲に控えていた役人や騎士たちが、一斉に息を呑んだ。バルトロに至っては、泡を吹いて倒れそうな顔をしとる。


「……口の減らない女だ。だが、認めよう。貴様が地下水路で成したことは、我が侯爵家の千年の理を揺るがした。……さて、食事を始めよう。毒など入っておらん。そんな回りくどいことをせずとも、貴様を排除する法など、いくらでも捏造できるのでな」


 運ばれてきたのは、見事な霜降りの肉料理や。

 アレンが緊張でナイフを落としそうになっとる横で、うちはおもむろに懐からタロットを取り出し、肉の皿の横に並べた。


「『皇帝』の逆位置。……侯爵様、あんた。この肉を喉に通す前に、うちの言葉を飲み込まなあかんで」


「……何だと?」


「あんた、今、夜も眠れんほど『所属変更』の書類が山積みになってるやろ。……領民たちが次々とルミナに籍を移したがってる。理由はシンプルや。あんたの顔が、この肉より硬くて不味そうやからやわ。……領民はな、領主のプライドなんか食うて生きてるんとちゃう。明日の水と、笑える毎日を求めてるんや」


 侯爵の手が止まった。

 うちはおもむろに、肉をナイフで豪快に切り分けると、それを口に運んでガツガツと食べ始めた。


「……ふむ。肉はええもん使ってるな。でも、焼き方がお上品すぎて、魂が入ってへんわ。……侯爵様。あんた、ルミナを呑み込もうとして、逆に喉に骨が刺さったんや。……その骨を抜いてほしかったら、まずはその『高そうな椅子』から降りて、うちの話を聞きなはれ」


「……貴様、私に何を指図しているのか分かっているのか!」


「分かってるわ。……バネッサさんから預かってきた書類、見せよか? あんたの領地が銀行に負うてる債権、もう半分以上、ルミナの商業ギルドが買い取ったで。……つまりな、侯爵様。あんたのこの豪華な家も、この不味そうな肉も、実質的にはうちらのもんなんやわ」


 食堂が、静寂に包まれた。

 カイルが、その光景を眺めながら、本当に楽しそうに、そして少しだけ寂しそうに声を上げた。


「……父上。言っただろう? この人は、星の動きよりも『今日の銭の動き』に詳しいんだ」


 侯爵の顔が、怒りと、そして初めての「恐怖」で歪んだ。

 うちはその顔を見て、アイテムボックスから一粒の飴を取り出し、テーブルの上を滑らせた。


「……これ食べなはれ。……これは、ただの飴やない。……『現実』を飲み込むための薬や」


 侯爵は、滑ってきたその飴を、震える手で見つめていた。

 見た目は派手なギャル、中身は最強のオカン。

 黄金の晩餐会は、今や「おばちゃんの説教部屋」へと変わっていた。


「……さぁ、侯爵様。……おばちゃんと、じっくり『銭の話』、しよか!」


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