第208話 オカン流・超特大フルーツポンチと、半分この教え
大森林の上空。
大地の化身である超巨大な熊と、天空の化身である超巨大な鷲の、スケールのデカすぎる兄弟喧嘩(縄張り争い)。
その激突の中間地点に、アレンが神速の剣圧で作り出した「分厚い真空の壁」が立ちはだかり、二匹の神獣は戸惑ったようにピタリと動きを止めとった。
『……グルルッ?』
『……ピギャァ?』
見えない壁に攻撃を弾かれ、空中でパニックを起こしている「山」と「雲」のような巨体。
「……静江さん! この真空の壁、僕の全魔力を使っても数分しか維持できません! 急いでください!」
空中で風を纏って滞空するアレンが、悲鳴のような声を上げる。
「分かっとる! あと一分で終わらせるわ!」
うちは大森林のふもとで、これまでの旅でアイテムボックスに溜め込んでいたフルーツの山――大和郷のスイカや桃、南のジャングルのマンゴーやバナナと格闘しとった。
特大のゴミ拾いトングの持ち手部分をすりこぎ代わりにして、空腹を満たす緑色の『メロン味』と、精神を安定させるオレンジ色の『オレンジ味』の飴ちゃん数十個を、巨大なすり鉢の中で親の仇のようにゴリゴリと粉砕していく。
「ええか! 腹を空かせてイライラしてるガキの喧嘩を止めるには、圧倒的なカロリーと甘みで、胃袋から黙らせるんが一番や!」
うちは粉々になった飴の粉末に、水筒の綺麗な水とたっぷりのハチミツを混ぜ込み、ドロドロの「超特濃・精神安定シロップ」を作り上げた。
それを、剣の峰やトングで豪快に叩き割ったフルーツの山と一緒に、超特大の金タライの中にドバドバと流し込む。
暴力的なまでの果実の甘い香りと、飴ちゃんが放つ高密度の魔力が、タライの中からチカチカと輝きながら立ち上った。
「よっしゃ! おばちゃん特製、『超特大・飴ちゃん特濃フルーツポンチ』の完成や!」
うちは金タライをドンッと叩き、上空のアレンに向かって拡声魔道具で叫んだ。
「アレン! 準備完了や! あんたの風で、この特大のおやつを、あいつらの口ん中に直接『デリバリー』しなはれ!」
「えっ!? このタライの中身を、全部空まで巻き上げるんですか!?」
「せや! 兄弟喧嘩の仲裁の鉄則! 『どっちも平等に、仲良く半分こ』や! 一滴残らず、二匹の口に均等にぶち込むんやで!」
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「……りょ、了解しました! 無茶苦茶なオーダーですが、やります!」
アレンが上空で西の大陸の長剣を構え直す。
彼は、二匹を分断していた「真空の壁」をスッと解除し、代わりに剣先を下方のうちら(金タライ)へ向けて、極限まで圧縮した風の魔力を解放した。
「風の精霊よ、天を衝く竜巻となれ! 『大上昇気流』!!」
ゴオォォォォォッ!!
アレンの剣から放たれた強烈な竜巻が、うちらの目の前にある超特大の金タライの中身――大量のフルーツと特濃シロップだけを、掃除機のようにズボォォッ! と空へ向かって巻き上げた。
『……グルァ?』
『……キュル?』
真空の壁が消え、再び喧嘩を再開しようと口を大きく開けた熊と鷲。
だが、そのポッカリと開いた巨大な顎めがけて、地上から巻き上がってきた「甘い香りを放つフルーツの竜巻」が、見事に真っ二つに分かれて、ドシャァァァッ!! と同時に飛び込んだんや!
『ゴフッ……!?』
『ピギャッ……!?』
二匹の神獣が、空中でビクンと身体を強張らせる。
直後、極上の果実の甘みと、メロン飴の限界突破するほどの満腹感。そして、オレンジ飴の強烈なリラックス効果が、喧嘩で血に飢えていた二匹の脳天から胃の腑へと、ジュワァァァッと染み渡っていった。
『……モグ……モグモグ……』
『……クチャ……モグ……』
さっきまで大地と空を揺るがす咆哮を上げていた二匹の動きが、不自然なほどピタリと止まった。
あまりの美味しさと、怒りを強制的に鎮火させる甘みに、二匹は目を見開きながら、口の中に放り込まれたフルーツポンチを夢中で咀嚼し始めたんや。
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「……どうや? どんなに体がデカくても、美味しいおやつを前にしたら、ただの食いしん坊の子供と同じやろ」
うちが腰に手を当てて見上げると、熊と鷲の爛々と血走っていた瞳が、徐々にトロ〜ンとした半開きになり始めた。
空中で睨み合っているのも億劫になったのか、二匹の巨体はズルズルと高度を下げ、やがて大森林のなぎ倒された木々の上に、ドスンッ! と重たい音を立てて、隣同士で大人しく座り込んだんや。
『……ゲップ』
『……コォォ……』
完全に戦意を喪失した二匹の鼻先から、満足げな息が漏れる。
オレンジ飴の精神安定と、メロン飴の満腹感。オカンの「強制的おやつタイム」が、見事に規格外の兄弟喧嘩を強制終了させた瞬間やった。
「……信じられません。あれほど大自然を巻き込んで殺し合っていたように見えた二体が、甘い果物であんなに大人しく並んで座るなんて……」
アレンが空から舞い降り、剣を鞘に納めながら、呆然と胸を撫で下ろす。
「せやろ? 子供の喧嘩なんて、腹が減って機嫌が悪い時に起きるもんや。腹いっぱいになれば、半分は解決したようなもんやわ」
うちは空になった特大の金タライをアイテムボックスに仕舞い、大人しく座り込んでいる「山」と「雲」のような二匹の神獣へとズンズン歩み寄った。
二匹は、近づいてくるうちを見ても、もう威嚇の咆哮を上げることはなかった。
ただ、少しバツが悪そうに、互いにそっぽを向いて視線を逸らしとる。
「……さて。お腹も膨れて、頭も冷えたみたいやな」
うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、特大のサングラス越しに二匹の巨体を睨みつけた。
「喧嘩の仲裁は、ここからが本番やで! あんたら、自分が周りの森にどんだけ迷惑かけたか、きっちりおばちゃんが説教したるから覚悟しなはれ!」
胃袋を掌握され、完全にオカンのペースに飲まれた空と大地の兄弟。
大自然の理不尽な縄張り争いを終わらせるための、おばちゃんのド正論説教が、いよいよ炸裂しようとしとったんや!
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