第205話 特濃の着火剤と、火山の元栓締め
空を分厚い黒雲が覆い、見渡す限りの地面に黒い灰が降り積もる荒涼とした火山地帯。
神聖アルビオン帝国が火山の頂上に勝手に建てた『地熱抽出プラント』によって大地の魔力を横取りされ、極度の「ガス欠(不完全燃焼)」に陥った伝承の神霊――『不死鳥』が、狂ったように暴れ回っとった。
『ケホッ……ゲホォォッ! キシャアアアッ!』
本来なら眩い紅蓮の炎を纏っているはずの大怪鳥は、今は美しい羽毛をドス黒く煤けさせ、消えかけのストーブのようにブスブスと不快な黒煙と火の粉を撒き散らしている。
そして、魔力が足りずに火が点かないイライラをぶつけるように、うちらを標的にして巨大な爪を振り下ろしてきたんや。
「アレン! ガス欠で点火不良起こしてるストーブに、無理やり火ぃ点けようとしたらアカン! まずは中身(燃料)を満タンにしてやらな、完全に壊れてまうで!」
うちは、舞い散る黒い灰の中でアイテムボックスからすり鉢を取り出し、ドンッと岩の上に置いた。
「了解しました! 静江さんの『燃料補給』が終わるまで、あの鳥の八つ当たりは僕がすべて防ぎます!」
アレンが『刹那の観測』の極限の動体視力を全開にし、西の大陸の長剣を構えてうちの前に立つ。
ズドゴォォォッ!
不死鳥の巨大な爪が、うちらのいた場所の岩盤を粉々に粉砕する。
「風よ、僕の剣に宿れ!」
アレンは真っ向から受け止めず、風の魔法を足元に纏って紙一重で躱し、剣の腹で不死鳥の爪の側面を「弾く」ようにいなしていく。
ガキィィィンッ!
「……っ! 炎の勢いはなくても、大自然の質量そのものだ……!」
アレンが強風と熱風に煽られながらも、決してうちの前から退かへん。
「アレン、ちょっとだけ持ちこたえなはれ! すぐに極上の『着火剤』を作ったるからな!」
うちは、アイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込んだ。
取り出したのは、空腹を限界まで満たして莫大なカロリー(魔力)に変換する緑色の『メロン味』の飴ちゃんと、精神を安定させるオレンジ色の『オレンジ味』の飴ちゃんや。
それをすり鉢に放り込み、特大トングの持ち手の部分でゴリゴリと粉砕していく。
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「ええか! イライラしてるガス欠のバケモノには、特大のカロリーとリラックス効果を同時にぶち込むんが鉄則や!」
うちは粉々になった飴の粉末に、少しの綺麗な水と、さらに粘り気を出すためのハチミツをたっぷりと混ぜ合わせ、ドロドロの『超高カロリー・特濃着火剤シロップ』を作り上げた。
完成したシロップからは、暴力的なまでの甘い香りと、チカチカと輝くような高密度の魔力が立ち上っとる。
「できましたか、静江さん!」
「おう! 準備完了や! アレン、あんたの神速で、あの鳥の口ん中へこのシロップをぶち込む『道』を切り拓きなはれ!」
「承知しました! 『刹那の跳躍』!!」
アレンが剣を振り抜き、不死鳥が撒き散らしていた黒煙を、竜巻のような風圧で一気に吹き飛ばした。
黒煙が晴れ、空中で暴れる不死鳥の巨大な顔が露わになる。
『キシャアアアァァァッ!!』
不死鳥は、自分に立ち向かってくるアレンを明確な敵と見なし、巨大なクチバシをガバーッと開いて、猛スピードで噛みついてきたんや。
「い、今です、静江さん! 完全に口が開きました!」
「よっしゃ! 飛んで火に入る夏の鳥やな!」
うちは、すり鉢いっぱいにできた『特濃着火剤シロップ』を抱え上げ、特大のサングラス越しに不死鳥の喉の奥をロックオンした。
そして、急降下してくる巨大なクチバシめがけて、そのドロドロのシロップをバシャァァァッ!! と豪快にぶちまけたんや!
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『ゴフッ……!?』
不死鳥の喉の奥に、おばちゃん特製の超高カロリーシロップが、見事にクリーンヒットした。
巨大な怪鳥が、空中でビクンと身体を強張らせる。
直後、メロンの限界突破するほどの満腹感(莫大な魔力エネルギー)と、オレンジの爽やかな香りが、ガス欠でカラカラになっていた不死鳥の体内に、ジュワァァァッと染み渡っていった。
『……ピルル……?』
さっきまで不完全燃焼の黒煙を撒き散らして怒り狂っていた不死鳥の動きが、ピタリと止まった。
枯渇していた魔力回路に、特大のエネルギーが一気に注ぎ込まれる。
ボワァァァァァァッ……!!!
次の瞬間、不死鳥の煤けていた羽毛から、眩いばかりの『紅蓮の炎』が爆発的に燃え上がったんや!
それは、周囲の黒い灰をすべて焼き尽くし、分厚い黒雲を突き破って青空を呼び込むほどの、圧倒的で神々しい炎の柱やった。
『ピィィィィィィィィッ!!!』
莫大なカロリー(燃料)を得て、完全に火が点いた不死鳥。
大空の王者にして炎の化身は、かつての気高く美しい姿を取り戻し、歓喜に満ちた高らかな鳴き声を火山地帯に響き渡らせた。
「……おおぉっ! 点火完了や! やっぱりストーブは、赤い火ぃが勢いよう燃えとるのが一番綺麗やな!」
うちは、熱気で前髪を揺らしながら、満足げに手を叩いた。
「……信じられません。あんなにも弱り切っていた神霊が、たった一杯のシロップで、本来の強大な力を取り戻すなんて……」
アレンが剣を鞘に納め、眩しそうに上空を見上げる。
「せやろ? どんなに強そうな生き物かて、腹が減ってガス欠になったら、ただの不機嫌な迷子やわ」
うちは空になったすり鉢をアイテムボックスに仕舞い、特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ直して、遥か上方にそびえる火山の頂上を睨みつけた。
「……さて。鳥さんが元気になったところで、次は根本的な原因の片付けやな」
『キュルルルッ!』
不死鳥が、うちの意図を汲み取ったかのように空から舞い降り、うちらの目の前にその燃え盛る巨大な背中を差し出した。
「おっ、乗せてくれるんか? 気が利くやないの! アレン、火傷せんように乗りなはれ! あの火山の頂上で魔力チューチュー吸い上げとる『悪質な地熱プラント』の元栓、キッチリ締めに行くで!」
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不死鳥の背に乗ったうちらは、凄まじい上昇気流とともに、一瞬にして火山の頂上へと到達した。
火口の縁には、帝国の『特大・地熱抽出プラント』が、無数の極太パイプをマグマ溜まりに突き刺して稼働しとった。
『な、なんだあれは!? 不死鳥が……不完全燃焼で墜落したはずの魔獣が、復活しているだと!?』
プラントの警備に当たっていた帝国兵たちが、空から急降下してくる紅蓮の炎を見て、パニックに陥る。
『しかも背中に人間が乗っているぞ! 迎撃しろォォッ!』
無数の魔力弾が放たれるが、完全に調子を取り戻した不死鳥の炎の結界の前では、すべてが空中で蒸発して消え去ってしまう。
「アレン! 兵士は鳥さんに任せて、あんたはあのプラントの一番太い『メインパイプ(元栓)』をぶった斬りなはれ!」
「了解しました! 『刹那の跳躍』!」
アレンが不死鳥の背中から飛び降り、神速の踏み込みでプラントの中枢へと肉薄する。
ズバァァァァンッ!!
彼の長剣が、火山の魔力を吸い上げていた極太の鉄のパイプを、見事に一刀両断にした。
『あ、あぁぁ……! 我がプラントの、抽出管が……!』
責任者らしき将校が絶望の声を上げる中、切断されたパイプから逆流した大地の魔力が、プラントの制御装置を次々とショートさせていく。
ピーーッ! ガゴンッ!
火山のエネルギーを搾取していた不法建築物は、完全に機能を停止し、ただの鉄屑となって火口の縁に崩れ落ちた。
「ほら、あんたらも用が済んだら、さっさと下山しなはれ! 他人の家のガス管、勝手に引いたらアカンっちゅう法律も知らんのか!」
うちがトングを向けてオカン説教をぶちかますと、帝国兵たちは完全に戦意を喪失し、白旗を振りながらススだらけになって麓へと逃げていったわ。
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『……ピィィィィィッ!!』
大地の魔力を横取りする巨大なゴミ(プラント)が排除され、火山のエネルギーが正常な循環を取り戻した。
不死鳥は、歓喜の炎を巻き起こしながら、青空を取り戻した火口の上を優雅に旋回しとる。
「……ふぅ。これで特大のガス欠トラブルも、無事に解決やな」
うちは、特大のサングラスを押し上げて、ホッと息を吐いた。
「お疲れ様でした、静江さん。見事な燃料補給と、元栓の修理でしたね」
アレンが清々しい笑顔で歩み寄ってくる。
「せやな。エネルギーの横取りは、大自然にとっても人間にとっても一番のストレスやからな。……さてと!」
うちはアイテムボックスから自分用のメロン飴を取り出し、口に放り込んだ。
「次ぎはどこへ行こか。……なんか、この山のずっと向こうから、えらい『ドッタンバッタン』した騒がしい気配がするんやけど」
「騒がしい気配、ですか?」
「せや。空と大地が、スケールのデカすぎる『兄弟喧嘩』でもしとるような……変な地鳴りと風切り音が聞こえてくるわ」
うちは、遠くそびえる巨大な山脈と、その上空を覆う異様な雲を睨みつけた。
「どうやら、次の『言葉の通じへん迷子』は、一匹やなさそうやで。アレン、気合入れて行くで!」
「はい! どこまでも付き合いますよ!」
火山の不死鳥を特濃着火剤で見事に救い出したおばちゃん一行。
次なる秘境で待つ、空と大地の規格外の「縄張り争い(特大の喧嘩)」へ向けて、うちらの出張鑑定は、今日も力強く歩みを進めていくんや!
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