第200話 大地の亀の特大肩こりと、二百回目の出張マッサージ
深い霧に包まれた巨大な湖のド真ん中。
島だと思っていたその場所は、神聖アルビオン帝国によって背中に無断で『魔力抽出プラント』を建設され、その重みと痛みで身動きが取れなくなっていた古代の神霊――『大地の亀』の巨大な甲羅やった。
『……ギュォォォォォォンッ……!』
大地の亀が、長年の痛みに耐えかねて悲鳴のような咆哮を上げる。
その振動で、甲羅の上に建てられた帝国のプラントから、けたたましいサイレンが鳴り響き始めた。
『緊急事態! 島が……いや、土台が揺れている! 暴動か!? 警備兵、侵入者を排除しろ!』
プラントのあちこちから、赤い軍服を着た帝国兵たちが魔導銃を構えてワラワラと湧き出してくる。
「……ほんま、どこの世界にも他人の背中に勝手に重たい荷物乗せて、平気な顔しとる図々しい奴らがおるもんや」
うちは、地震のように揺れる岩肌(甲羅)の上で、特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ直した。
「アレン! あの亀さん、背中にあんな重たい鉄の塊乗せられて、極度の『特大肩こり(甲羅こり)』になっとるわ! 今すぐおばちゃんの出張マッサージで、あの鉄屑どもを揉みほぐしたるで!」
「了解しました! 神霊の苦痛、僕の剣ですべて取り除きます!」
アレンが西の大陸の長剣を抜き放ち、足元に『風の魔法』を纏わせた。
『撃てェェッ! 侵入者をハチの巣にしろ!』
帝国兵たちの銃口から、無数の魔力弾が雨あられと降り注ぐ。
だが、風を纏ったアレンの『神速』の前には、そんな単調な射撃など止まって見えるも同然やった。
「遅い! 『刹那の観測』!」
アレンが目にも止まらぬ速さで駆け抜け、飛来する魔力弾を剣の風圧ですべて弾き飛ばす。
そのまま帝国兵たちの懐に潜り込み、剣の峰で次々と彼らの鳩尾を叩き抜いていった。
「ぐはっ!」
「な、なんだこの剣士は……速すぎ――あがっ!」
瞬く間に数十人の警備兵が泥の上に転がり、プラントの正面入り口が完全に丸裸になった。
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「よっしゃ、道が開いたな! アレン、そのまま一番奥へ行くで!」
うちはアレンの背中を追いかけ、プラントの内部へとズンズン踏み込んだ。
工場の中央には、亀の甲羅(岩肌)に深く突き刺さり、大地の魔力を無理やり吸い上げている『4本の極太のドリル(魔力抽出管)』が、凄まじい轟音を立てて稼働しとった。
「……見つけました静江さん! あれが、亀の甲羅に直接突き刺さっている元凶です!」
「せやな! 人間の体で言うたら、あそこが一番凝り固まってる『ツボ』やわ! アレン、あの4本のパイプ、あんたの剣で根元から綺麗に切断(ツボ押し)しなはれ!」
「はいッ! 風よ、我が刃に集え!」
アレンが長剣に極限まで風の魔力を圧縮し、一本目のドリルへ向かって跳躍しようとした、その瞬間。
『させんぞ、野蛮人ども!』
高台の制御室から、このプラントの責任者である帝国の将校が、血走った目で操作レバーを乱暴に引き下ろした。
『この第9魔力抽出プラントを壊されてたまるか! 防衛用の「高圧熱線システム」起動! 貴様らごと、この亀の背中を丸焼きにしてくれるわ!』
ゴオォォォォッ!!
ドリルの周囲に設置された防衛装置から、すべてを溶かすような超高熱の赤い熱線が放射され、アレンの行く手を阻んだ。
同時に、熱線の余熱が亀の甲羅に直接伝わり、足元から「ビクゥッ!」という亀の痛みに満ちた巨大な痙攣が伝わってくる。
「静江さん、マズいです! 抽出管の周りが熱線のバリアで覆われました! このままでは亀の甲羅が焼け焦げてしまいます!」
アレンが熱気に顔を歪めながら叫ぶ。
「……人の背中の上で、勝手に火ぃ焚くなっちゅうねん!」
うちは舌打ちをし、アイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込んだ。
取り出したのは、強烈な清涼感で熱や炎症を抑える青色の『ハッカ味』の飴ちゃん数十個と、王宮のガサ入れで使って余っていた巨大な『防水シート』や。
「ええかアレン! 肩こりが悪化して熱を持った時、一番効くのは『特大の冷感湿布』や!」
うちはすり鉢でハッカ飴を粉々に砕き、水筒の水と混ぜて「超・極寒ハッカ水」を作り上げると、それを巨大なシートにヒタヒタに染み込ませた。
「アレン! あんたの風魔法で、この『特大ハッカ湿布』をあの熱線発生装置のド真ん中に被せなはれ!」
「了解しました! 行きます!」
アレンが風の魔法で巨大なシートを巻き上げ、熱線が吹き荒れる防衛装置の上から、バサァァァッ!! と豪快に被せた。
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ジュワアアアアァァァッ!!!
特大のハッカ湿布が超高熱のバリアに触れた瞬間、凄まじい水蒸気がプラント内に立ち上った。
ハッカ飴の強烈な『冷却・鎮静の魔力』が、暴走していた熱線装置の熱を急速に奪い去り、急激な温度変化に耐えきれなくなった機械のパーツが、パキパキと音を立てて凍りつくように停止していく。
『ば、馬鹿な! 最新鋭の熱線システムが、ただの甘ったるい匂いの布切れで機能停止しただと!?』
将校が制御室でパニックを起こして叫ぶ。
「今やアレン! ツボ押し(切断)の仕上げや!」
「『刹那の跳躍』!!」
熱線が消え、完全に無防備になったドリルの根元へ向けて、アレンが神速の踏み込みを見せる。
彼の長剣が、目にも止まらぬ速さで四度閃いた。
ズバァァァンッ! ガガァァァンッ!!
亀の甲羅に突き刺さっていた4本の極太ドリルが、アレンの風の刃によって、見事なまでに寸分の狂いもなく一刀両断にされた。
『あ、あぁぁ……! 我がプラントの、抽出管が……!』
「ほら、あんたらも用が済んだら、さっさと退店しなはれ!」
うちは制御室の土台に特大トングを引っかけ、テコの原理で思い切りひっくり返した。
制御室ごと泥水(湖)の中へド派手に転がり落ちた帝国兵たちは、完全に戦意を喪失し、白旗を振りながら必死に岸へと泳いで逃げていった。
……ドスゥン。
大地の魔力を吸い上げていたプラントが完全に機能を停止し、ただの鉄屑となって甲羅の上に崩れ落ちる。
その瞬間、大地の亀の巨体が「ホゥ……」と、何百年ぶりかの深く安らかな溜息をついた。
プラントの煙突から吐き出されていたドス黒い排煙が止まり、湖を覆っていた分厚い霧が、嘘のようにスゥッと晴れ渡っていく。
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『……ルルルルル……』
霧が晴れた湖面を、温かい朝の光が照らし出す。
大地の亀は、ゆっくりと巨大な岩の首をうちらの方へと向けた。
その瞳には、さっきまでの苦痛と狂気は微塵もなく、まるで長いマッサージを終えてすっかりリラックスしたお爺ちゃんのような、穏やかな感謝の光が宿っとった。
「……よしよし。肩こり、スッキリしたみたいやな」
うちは、亀の巨大な鼻先に手を伸ばし、優しくポンポンと撫でてやった。
亀は気持ちよさそうに目を細め、うちのヒョウ柄のポンチョにすりすりと顔を擦り付けてくる。
「……お疲れ様でした、静江さん。見事な『出張マッサージ』でしたね」
アレンが剣を鞘に納め、朝日に照らされる湖面を見渡しながら、清々しい笑顔を向けてきた。
「せやな。これでこの湖の平和も守られたわ」
うちは特大のサングラスを少しだけ押し上げ、心地よい風を胸いっぱいに吸い込んだ。
思えば、異世界に転生してギャルになってから、いったい何人の迷い羊の悩みを解決し、いくつのゴミ屋敷を掃除してきたんやろうか。
(……ふふっ。数えたことないけど、今日でちょうど『二百回目』くらいの出張鑑定になったんちゃうか?)
うちは誰に言うでもなく心の中で呟き、アイテムボックスから自分用のメロン味の飴ちゃんを取り出して、口に放り込んだ。
「さてと! アレン、次はどこへ行こか! 帝国の連中が落としていったゴミは、この新大陸にまだまだぎょうさんあるはずやで!」
「はい! 静江さんの行くところなら、地の果てまでお供しますよ!」
大地の亀という規格外の神霊を、オカン流のマッサージで見事に救い出したおばちゃんと若き騎士。
記念すべき節目を越え、うちらの出張鑑定は、さらなる未知の秘境へ向かって、今日も力強く歩みを進めていくんや!
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