第198話 オカン流・超特大のトゲ抜きと、羽毛の蛇神の感謝
新大陸の南に広がる、強烈な湿気と熱気を孕んだ熱帯雨林のド真ん中。
つい先ほどまで、帝国の探査アンカー(杭)を打ち込まれた激痛でパニックを起こし、カマイタチと猛毒の霧を撒き散らして暴れ狂っていた伝承の神霊『羽毛の蛇神』。
だが今は、おばちゃん特製の『オレンジ味(精神安定)&メロン味(満腹感)』の特濃シロップを丸飲みさせられたことで、嘘のようにスヤスヤと静かな寝息を立てて、ジャングルの泥の上に横たわっとった。
『……スゥ……。……スゥ……』
「……よしよし、完全に麻酔(食後の眠気)が効いとるな。どんなデカいバケモノかて、お腹パンパンになったら赤ちゃんと同じや」
うちは、特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、エメラルド色に輝く巨大な蛇神の首元へと歩み寄った。
美しい極彩色の羽毛の隙間には、神聖アルビオン帝国が魔力資源を探るために打ち込んだ、大木ほどもある『巨大な鉄の探査アンカー』が深々と突き刺さっとる。
周囲の肉は痛々しく赤黒く腫れ上がり、アンデッドの瘴気にも似た「どす黒い魔力のノイズ」が、傷口からジリジリと漏れ出しとった。
「静江さん。このアンカー、ただ刺さっているだけじゃありません。大自然の膨大な魔力を無理やり吸い上げるために、蛇神の肉と魔力回路に『癒着』しています。力任せに引っこ抜けば、間違いなく肉が大きく裂け、致命傷になりますよ」
アレンが、アンカーの接合部を『刹那の観測』の鋭い目で分析し、顔をしかめる。
「分かっとるわ。子供の指に刺さった小さなトゲかて、無理やりピンセットで引っ張ったら痛いし、中で折れてまうやろ。こういう時はな、まず周りの皮膚を柔らかくして、消毒してから一気に抜くんが鉄則なんや!」
うちはアイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込み、大手術のための『オカン特製・医療キット』をドサドサッと泥の上に並べた。
取り出したのは、強烈な清涼感で炎症を抑える青色の『ハッカ味』の飴ちゃん、王宮のガサ入れで使って余っていた『清めの粗塩』、そして……大和郷で仕入れておいた、分厚い『こんにゃく芋』や。
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「こ、こんにゃく芋!? なぜそんな食材を?」
アレンが目を丸くする。
「アホ! トゲ抜きにはこんにゃくが一番なんや! こんにゃく芋の成分(サトイモ科の粘り)が、毒を吸い出して皮膚を滑りやすくしてくれるんやわ! 昔からの生活のおばあちゃんの知恵やで!」
うちはすり鉢を取り出し、こんにゃく芋とハッカ味の飴ちゃん、そして粗塩を、親の仇のようにゴリゴリとすり潰して混ぜ合わせた。
完成したのは、強烈なミントの匂いがする、ドロドロの『特製・冷却スライム湿布』や。
「アレン! これをあのデカいトゲの根元、傷口の周りに隙間なく塗りたくりなはれ!」
「了解しました! 神速で塗り込みます!」
アレンが風の魔法を足元に纏い、アンカーの根元を駆け回りながら、特製湿布をペタペタと分厚く塗りつけていく。
ジュワァァァッ……!
ハッカの強烈な冷却効果と、塩の浄化作用。そしてこんにゃくの粘り気が、癒着していたドス黒い魔力ノイズを中和し、ガチガチに固まっていた蛇神の肉をズルズルと柔らかくほぐしていった。
「よし、ええ感じにふやけてきたな。……アレン、ここからが本番やで! おばちゃんが合図したら、あんたの全力の踏み込みで、あのトゲを真っ直ぐ上に向かって『一撃』で引き抜くんや!」
「は、はい! でも静江さん、あれだけの質量の鉄の塊、僕一人の腕力で引き抜けるでしょうか……?」
「あんた一人で抜くとは言うてへんわ! 『テコの原理』を使うんや!」
うちは、アイテムボックスから前世で愛用していた『特大ゴミ拾いトング(予備も含む)』を数本取り出し、それをアレンの長剣と強引に結びつけて、巨大な「バール(釘抜き)」のような仕掛けを作り上げた。
さらに、蛇神の硬いエメラルドのウロコの一枚を『支点』にして、そのバールの先端をアンカーの根元にガッチリと引っ掛けた。
「ええか! このバールの端っこに、あんたの神速の突進力(運動エネルギー)を全部乗せるんや! 躊躇ったらアカンで!」
「……分かりました! 僕の全身全霊を、この一撃に込めます!」
アレンが、バールの端から数十メートル離れた位置まで下がり、深く腰を落とした。
彼の瞳が青白く輝き、極限の集中力『刹那の観測』が発動する。
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「いくで……! さん、に、いち……今や!!」
「風よ!! 『刹那の跳躍』ォォォォッ!!」
アレンが地面の泥を爆発的に蹴り上げ、目にも止まらぬ神速の突風となって駆け抜けた。
そして、その凄まじい運動エネルギーのすべてを、バールの端っこに体重ごと叩き込んだんや!
ガガァァァァァァンッ!!!
テコの原理によって何十倍にも増幅されたアレンの力が、巨大な探査アンカーを根元から跳ね上げる。
特製こんにゃく湿布でヌルヌルに滑りやすくなっていた傷口から、ズバァァァァンッ!! と凄まじい音を立てて、帝国軍の巨大なゴミ(アンカー)が見事に宙へと引っこ抜かれたんや!
『ピギャアアァァァッ!?』
トゲを抜かれた瞬間の強烈な刺激で、麻酔で眠っていた蛇神がビクンッと巨体を跳ねさせ、痛みに悲鳴を上げそうになる。
「まだまだ! 傷口開いたままやったら化膿するで!」
うちは、アンカーが抜けてポッカリと空いた巨大な傷口めがけて、あらかじめすり潰しておいた、怪我を瞬時に塞ぐ黄色の『レモン味の特効薬(粉末)』を、バサァァァッ!! と豪快にぶち撒けた。
ジュウゥゥゥッ……!
レモンの強烈な酸味と回復魔力が、傷口の奥深くまで浸透する。
肉を裂かれた激痛を感じるよりも早く、その細胞が爆発的に再生し、ぽっかり空いていた穴が、みるみるうちに新しいエメラルド色のウロコで覆われ、完全に塞がってしもうたんや。
『……シュル? ……シャァ……?』
目を覚まして暴れようとした蛇神やったが、首元にずっと突き刺さっていたあの「夜も眠れないほどの激痛」が、嘘のように完全に消え去っていることに気づき、キョトンと動きを止めた。
「……ふぅ。お疲れさん。これで超特大のトゲ抜き、大成功やな」
うちは、泥だらけになった特大トングを肩に担ぎ直し、特大のサングラスを押し上げて、大きく息を吐いた。
アレンも、肩で息をしながら、抜けた巨大な鉄のアンカーを見下ろしてホッと胸を撫で下ろす。
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『……ルルルルル……』
痛みが完全に消えた羽毛の蛇神は、もう威嚇のカマイタチや毒霧を吐くことはなかった。
ゆっくりと長い首を持ち上げると、そのエメラルドのウロコと極彩色の羽毛が、ジャングルの木漏れ日を反射して、神々しいばかりの本来の美しさを取り戻していく。
そして、その巨大な頭をうちらの目の前までスゥッと下ろし、まるで感謝を伝えるように、うちのヒョウ柄のポンチョにそっと鼻先を擦り付けてきたんや。
「……よしよし。痛いの飛んでって、よかったな」
うちは、その巨大で冷たい鱗を、優しくポンポンと撫でてやった。
「……信じられません。あれほど理不尽に暴れ狂っていた大自然の化身が、こんなに穏やかな瞳を見せるなんて……」
アレンが剣を鞘に納め、感嘆の声を漏らす。
「せやろ? どんなに狂暴に見えるクレーマーかて、ちゃんと痛いところを分かってやって、根本の『原因』を取り除いてやれば、案外素直にお礼を言うもんやわ」
うちはニカッと笑い、蛇神の鼻先を指で軽く弾いた。
「でもな、デカい蛇さん。あんたのお腹にこんなえげつないゴミ(アンカー)を突き刺していった『帝国の連中』は、この森のさらに奥……大陸のあちこちで、同じような不法投棄をやらかしとるはずや」
『……シャァァ……』
蛇神は、うちの言葉を理解したかのように、静かに、けれど力強く目を細めた。
「あんたは、この熱帯雨林の守り神なんやろ? ほな、うちらが次の現場に行ってる間、この森はあんたがしっかり見張っときなはれ。もう二度と、変な業者(帝国兵)に勝手にゴミ置かれたらアカンで!」
『……ピィィィィッ!』
羽毛の蛇神は、高く澄んだ鳴き声を上げ、強風を巻き起こしながら熱帯雨林の空へと舞い上がった。
その極彩色の翼が空を覆い、この未開の森全体に「守り神の完全復活」を知らせる清らかな魔力が降り注いでいく。
これでもう、帝国軍がこの森に手出しすることは二度とできへんやろう。
「よっしゃ! 熱帯雨林の超特大クレーム処理、これにて完了や!」
うちは、空中で旋回して感謝の意を示す蛇神に向かって、大きく手を振った。
「アレン! 荷物まとめなはれ! この新大陸には、まだまだ『言葉の通じへんクレーマー(伝承の人外)』と、それを苦しめとる帝国の不法投棄がぎょうさん落ちとるはずや! 次の秘境へ向けて、出発やで!」
「はい! どこまでも付き合いますよ、静江さん!」
熱帯の巨大蛇神を見事に救い出し、新大陸の南の森に平和を取り戻したおばちゃん一行。
言葉の通じへん伝承の神様との『特大のお悩み相談』を見事に片付け、うちらの出張鑑定は、さらなる未開の地へと向かって、力強く歩みを進めていくんや!
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