第197話 熱帯雨林の大立ち回りと、オカン流・特濃麻酔シロップ
新大陸のさらに南、鬱蒼とした熱帯雨林のド真ん中。
神聖アルビオン帝国が魔力資源を探るために打ち込んだ『特大の探査アンカー(杭)』が身体に深々と突き刺さり、夜も眠れないほどの激痛にパニックを起こしていた伝承の神霊――『羽毛の蛇神』。
『シャアアアアァァァッ!!』
全長数十メートルにも及ぶエメラルド色の巨体が空中で身を捩らせ、極彩色の羽毛からカマイタチのような暴風と、木々を枯らす猛毒の霧を無差別に撒き散らしとった。
「……アレン! あのデカいトゲ引っこ抜くためには、まず強引に『麻酔』打って大人しくさせるんが一番や! おばちゃんが今から、とびきりの『鎮痛剤』を調合したる!」
うちは猛り狂う暴風の中で、アイテムボックスからすり鉢を取り出し、ドンッと泥の地面に置いた。
「了解しました! 静江さんの調合が終わるまで、あの毒霧と風の刃は僕がすべて防ぎます!」
アレンが『刹那の観測』の極限の動体視力を全開にし、西の大陸の長剣を構えてうちの前に立つ。
ヒュゴォォォッ!
蛇神の巨大な尾が、薙ぎ払うようにうちらへ向かって迫り来る。直撃すれば、大木すらへし折られる一撃や。
「風よ、僕の剣に宿れ!」
ガガァァァンッ!
アレンは真っ向から受け止めず、風の魔法を足元に纏って宙に舞い上がり、迫る尾の側面に剣の腹を当てて、その凄まじい衝撃を『受け流す』ように弾いた。
「っ……! 重い……! ただの獣じゃない、大自然の質量そのものだ……!」
アレンの腕が微かに悲鳴を上げるが、彼は一歩もうちの前から退かへん。
「アレン、ちょっとだけ持ちこたえなはれ! すぐに極上のクスリを作ったるからな!」
うちは、激しい戦闘のすぐ真後ろで、アイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込んだ。
取り出したのは、精神を安定させるオレンジ色の『オレンジ味』の飴ちゃんと、空腹を極限まで満たす緑色の『メロン味』の飴ちゃん。それぞれ数十個単位の大量や。
それをすり鉢に放り込み、特大トングの持ち手の部分をすりこぎ代わりにして、親の仇のようにゴリゴリと粉砕していく。
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「ええか! 言葉の通じへん赤ん坊がギャン泣きして暴れてる時、一番効果があるんは『お腹いっぱいにして安心させる』ことや!」
うちは粉々になった飴の粉末を水筒の綺麗な水に溶かし込み、ドロドロの超高濃度シロップを作り上げた。
「オレンジのリラックス効果と、メロンの満腹感! これを特濃で胃袋に流し込めば、どんなデカいバケモノでも、強烈な『食後の眠気』に襲われてウトウトし始めるはずや! これがオカン流の『麻酔』やで!」
完成したシロップからは、暴力的なまでの甘い香りと、チカチカと輝くような高密度の魔力が立ち上っとる。
「できましたか、静江さん!」
「おう! 準備完了や! アレン、あんたの神速で、あの蛇の口ん中へこのシロップをぶち込む『道』を切り拓きなはれ!」
「承知しました! 『刹那の跳躍』!!」
アレンが剣を振り抜き、蛇神が吐き出していた猛毒の霧を、竜巻のような風圧で一気に吹き飛ばした。
毒霧が晴れ、空中で暴れる蛇神の巨大な顔が露わになる。
『キシャアアアァァァッ!!』
蛇神は、自分に立ち向かってくるアレンを明確な敵と見なし、大木を丸呑みにするほどの巨大な顎をガバーッと開いて、猛スピードで噛みついてきたんや。
「い、今です、静江さん! 完全に口が開きました!」
「よっしゃ! 飛んで火に入る夏の虫やな!」
うちは、すり鉢いっぱいにできた『特濃・麻酔シロップ』を抱え上げ、特大のサングラス越しに蛇神の喉の奥をロックオンした。
そして、急降下してくる巨大な口めがけて、そのドロドロのシロップをバシャァァァッ!! と豪快にぶちまけたんや!
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『ゴフッ……!?』
蛇神の喉の奥に、おばちゃん特製の超甘ったるいシロップが、見事にクリーンヒットした。
巨大な蛇神が、空中でビクンと身体を強張らせる。
直後、オレンジの爽やかな香りと、メロンの限界突破するほどの満腹感が、パニックになっていた蛇神の内臓から脳天へと、ジュワァァァッと染み渡っていった。
『……シュル……? シャァ……?』
さっきまでカマイタチを撒き散らして怒り狂っていた蛇神の動きが、不自然なほどピタリと止まった。
激痛によるパニックを、強烈な「満腹感」と「リラックス効果」が強引に上書きしていく。
「……どうや? 人間も神様も、お腹パンパンになったら、眠とぅて動けんようになるやろ」
うちが腰に手を当てて見上げると、蛇神の爛々と血走っていた瞳が、徐々にトロ〜ンとした半開きになり始めた。
空中に浮いているのも億劫になったのか、蛇神の巨体はズルズルと高度を下げ、やがてジャングルの泥の上に、ドスンッ! と重たい音を立てて横たわったんや。
『……スゥ……。……スゥ……』
完全に脱力した蛇神の鼻先から、静かな寝息が漏れ始める。
オレンジ飴の精神安定と、メロン飴の満腹感。オカンの「食後の眠気誘導」という物理的かつ魔力的な麻酔が、見事に伝承の神霊を機能停止させた瞬間やった。
「……信じられません。あれほど暴れ狂っていた大自然の化身が、ただの甘いシロップで、こんなに無防備に眠ってしまうなんて……」
アレンが剣を鞘に納め、呆然としながらもホッと胸を撫で下ろす。
「せやろ? どんなに強そうなクレーマーかて、痛いところを分かってやって、優しくお腹満たしてやれば、案外素直なもんや」
うちは空になったすり鉢をアイテムボックスに仕舞い、横たわってスヤスヤと眠る蛇神の巨体へと歩み寄った。
その首の少し下、美しいエメラルド色のウロコの隙間には、帝国軍が打ち込んだ『巨大な鉄の探査アンカー』が、どす黒い魔力のノイズを放ちながら深々と突き刺さったままになっとる。
「……さて。麻酔もバッチリ効いたし、ここからがいよいよ『大手術』の本番やな」
うちは、特大のゴミ拾いトングをガチンと鳴らし、その厄介なゴミ(鉄の杭)を睨みつけた。
「アレン! 準備しなはれ! あのデカいトゲ、根元から綺麗サッパリ引っこ抜くで!」
熱帯雨林に眠る神霊を救うため、おばちゃん流の泥臭いトゲ抜き手術が、いよいよ開始のメス(トング)を入れようとしとったんや!
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