第194話 大長老の参戦と、オカン流・ハッカ水冷却処理
神聖アルビオン帝国が荒野の奥深くに築いた、巨大な『採掘プラント』。
うちらのオカン理論「コンセント引き抜き」によって巨大掘削機を沈黙させたのも束の間、地下から現れたプラントの特務司令官が、最悪の『起爆装置』を高く掲げとった。
『……プラントを失った以上、もはやこの土地に価値はない。貴様らごと、荒野一帯を数百年草木も生えぬ「死の灰の土地」にしてくれるわ!』
真っ赤に発光する魔石の起爆装置に、司令官の指がかけられる。
アレンの神速をもってしても、間に合わない距離。
万事休すかと思われた、その絶体絶命の瞬間やった。
『――待てェェェッ!! 帝国の悪鬼ども!!』
プラントを囲む切り立った崖の上から、地鳴りのような咆哮が響き渡った。
土煙を上げて姿を現したのは、数千人にも及ぶ荒野の魔族の大軍。そしてその先頭で、黒光りする太い杖を天に突き上げ、怒りに燃える瞳で司令官を睨みつけていたのは……人間を絶対に許さないと頑なに拒絶していた、あの『大長老』やったんや!
「お、おじいちゃん!?」
「大長老様! なぜここに……!」
うちと赤き鷹が驚きの声を上げる中、大長老は崖の上から、大地を震わせるような呪歌を力強く詠唱し始めた。
『大地の精霊よ! 怒りの枷となれ!!』
ドゴォォォォンッ!!
大長老の杖から放たれた強烈な『大地の魔力』が、司令官の足元の地面から巨大な泥の腕となって噴出し、彼が持つ起爆装置をガッチリと握りしめた。
『な、なんだと!? 起爆の魔力信号が……泥に阻害されて遅くなっている!?』
司令官が驚愕して叫ぶ。
本来なら一瞬で起爆するはずの真っ赤な魔石の光が、大地の魔力に押さえ込まれ、まるでスローモーションのように「点滅」を始めとった。
『……静江! アレンとやら!』
大長老が、杖を震わせ、額から滝のような汗を流しながら、眼下のうちらに向かって叫んだ。
『勘違いするな! 貴様ら人間を助けに来たわけではない! 我らの聖地を灰にさせぬためだ! ……我が魔力で、起爆の時間をわずかに遅延させる! その間に、あのふざけた装置を止めてみせろ!』
「はいはい、素直やないなぁ! でも、ホンマにええタイミングや! 助かるわ!」
うちは特大のサングラスを押し上げ、ギラギラのデコネイルが光る指で、司令官をビシッと指差した。
「アレン! おじいちゃんが稼いでくれた時間、一秒たりとも無駄にすな! 特大のピンポンダッシュや!」
「承知しました!!」
アレンが『刹那の観測』の神速を解放し、強烈な突風を巻き起こしながら司令官の懐へと真っ直ぐに飛び込んでいく。
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『小賢しい野蛮人どもが! 止まるものか!』
特務司令官が、全身を包む「黒い魔導装甲」から無数の魔力砲を乱射してくる。
だが、今のうちらには、無敵の援護射撃がツイとるんや。
「我らも続け! 異国の剣士の道を切り拓けぇッ!」
赤き鷹の号令とともに、崖の上の数千の魔族たちが一斉に『精霊の矢』を放った。
無数の矢が、司令官の放つ魔力砲と空中で正確に衝突し、次々と相殺していく。
「……邪魔は、させない!」
矢の雨を潜り抜けたアレンの西の大陸の長剣が、目にも止まらぬ速さで閃いた。
ガガァァァンッ!!
アレンの全力の一撃が、司令官の黒い魔導装甲の関節部を正確に斬り裂き、その両腕の自由を完全に奪い去った。
『ぐはぁぁッ!? 私の、装甲が……!』
司令官が泥の地面に膝をつき、手から起爆装置がポロリとこぼれ落ちる。
「やった! 装置を回収します!」
アレンが起爆装置に手を伸ばそうとした、その時。
ピーーッ! ピーーッ!
装置にはめ込まれた真っ赤な魔石が、限界を告げるような耳障りな高音を鳴らし、異常なまでの「高熱」を放ち始めたんや。
『……ハハハッ! 遅かったな! すでに魔石は臨界点を超えた! 装置を壊そうが、配線を切ろうが、この熱暴走は止められん! あと数秒で大爆発だ!』
司令官が、血を吐きながら狂ったように笑う。
「静江さん、マズいです! 装置が焼け焦げるほど熱い! 物理的に破壊すれば、その瞬間に起爆してしまいます!」
アレンが装置に触れられず、焦燥に顔を歪めた。
「……アホか。機械が熱暴走しとるんやったら、急速冷却すればええだけのことやろ!」
うちは、アレンの背後から悠々と歩み寄り、アイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込んだ。
そして、喉の炎症や熱を急速に冷ます青色の『ハッカ味』の飴ちゃんと、王宮のガサ入れで使った『清めの粗塩』を大量に取り出した。
「ええか! スマホでもパソコンでも、熱持ちすぎたら保冷剤当てて休ませるんが現代の知恵や!」
うちはすり鉢でハッカ飴を限界まで粉々に砕き、水筒の水と粗塩に溶かし込んで、超特濃の『オカン特製・極寒ハッカ冷却水』を作り上げた。
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「ほら! スースーして落ち着きなはれ!」
うちは、限界寸前で赤く発光する起爆装置の基盤めがけて、その極寒ハッカ冷却水を、バシャァァァッ!! と豪快にぶちまけた。
ジュワアアアアァァァッ!!!
凄まじい水蒸気がプラントの跡地に立ち上る。
ハッカの強烈な清涼感と、塩の浄化作用。そして何より、飴ちゃんの持つ「熱と瘴気を冷ます魔力」が、暴走していた魔石の熱を急速に奪い去っていった。
ピーーッ……ピ、ピ、ピ…………。
けたたましかった警告音が、みるみるうちにトーンダウンし、真っ赤だった魔石が、カチンコチンに凍りついたように沈黙した。
『な、なんだと……!? 臨界に達した汚染魔石の暴走が、こんな……甘ったるい匂いの水で、止まっただと!?』
特務司令官が、完全に理解の範疇を超えた光景に、目ん玉が飛び出るほど驚愕しとる。
「アレン! 完全に凍って機能停止しとる今や! バッテリー(魔石)だけを、根本から叩き斬りなはれ!」
「了解しました! 『刹那の観測』!」
アレンの長剣が、冷却されて脆くなった起爆装置の基盤を、寸分の狂いもなく一刀両断にした。
魔石と回路が完全に切り離され、起爆の脅威は、今度こそ完全に「ゼロ」になったんや。
「……よっしゃ、特大の爆弾処理、完了や!」
うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、ホッと息をついた。
『ば、馬鹿な……。帝国の……完璧な破壊計画が……こんな野蛮な土地で……』
特務司令官は、完全に戦意を喪失し、白目を剥いて泥の中に気絶してしもうた。
上空を覆っていたドス黒い排煙が風に流され、荒野に清々しい太陽の光が降り注いでくる。
崖の上から、数千の魔族たちが歓喜の雄叫びを上げ、地響きのように駆け下りてきた。
「おおぉぉっ! 勝った! 我らの聖地が、救われたのだ!」
精霊狼も、遠吠えを上げてうちの足元にすり寄ってくる。
その歓声の中を割って、大長老がゆっくりと歩み寄ってきた。
彼の手には、まだ魔力の余韻で微かに震える杖が握られとる。
「……見事な手際だった、静江。そして異国の剣士アレンよ。……貴様らのその『絶対に諦めない泥臭さ』と、奇妙な水(ハッカ水)がなければ、この大地は完全に死に絶えていただろう」
大長老は、うちの前に立つと、深く、深く、その厳めしい頭を下げたんや。
「おじいちゃん……」
「……私は、人間を信じることを恐れていた。過去の裏切りが、我ら荒野の民を苦しめ続けたからだ。だが……貴女は、言葉ではなく『行動』で、我らの痛みと聖地に寄り添ってくれた。……もう、疑う理由などどこにもない」
大長老は顔を上げ、しわくちゃの顔に、初めて温かい、確かな信頼の笑顔を浮かべた。
「……我ら荒野の魔族、総意をもって、貴女たち人間を真の『家族(同盟)』として迎え入れよう!」
「……っ! よっしゃ、商談……いや、最高の『家族契約』の成立や!」
うちは、大長老のゴツゴツとした手を、両手でしっかりと握り返した。
長い年月、人間への深い憎悪に閉ざされていた大長老の心の壁が、オカンの圧倒的な「お節介」と「行動力」によって、完全に打ち砕かれた瞬間やった。
荒野の魔族という、新大陸における最強の『陸上戦力』との真の同盟。
帝国軍の先遣隊と環境破壊兵器を完全に粉砕し、第一の伝承存在(精霊狼)の地を救ったおばちゃん一行。
さぁ、この広大な新大陸の大掃除は、ここからが本番や!
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