第192話 大長老の葛藤と、荒野を食い荒らす巨大重機
荒野の魔族の集落を覆っていた、息苦しいオゾンの匂いとどす黒い雷雲が、嘘のように晴れ渡っていった。
帝国の排煙によって喉を痛め、怒り狂っていた伝承の霊鳥『雷鳥』。だが、おばちゃん特製の「ハッカ味ののど飴」を丸飲みしたことで、その身体にまとわりついていた煤と瘴気は完全に浄化されとった。
『ピィィィィッ!』
雷鳥は、高い空で旋回しながら、澄んだ鳴き声で歓喜を上げる。
そして、バサァッ! と強風を巻き起こしながら集落の広場に降り立つと、うちの目の前まで巨大な頭をすり寄せてきた。
「……よしよし、ええ子や。喉のスースー、ちゃんと効いてるみたいやな」
うちは、特大のゴミ拾いトングを肩に担いだまま、雷鳥の黄金色のクチバシをポンポンと撫でてやった。
その光景を、周囲を取り囲んでいた荒野の魔族たちは、武器を下ろして呆然と見つめとった。
中でも一番驚愕していたのは、彼らを束ねる『大長老』や。
「……信じられん。我ら荒野の民が、何百年も祈りを捧げてきた大自然の化身が、人間の女にこうも懐くとは……」
大長老は、黒光りする杖を震える手で握りしめ、深く、深くため息をついた。
「おじいちゃん、あんたもいつまでも意地張ってんと、現実見なはれ。この鳥さんが怒っとったんも、あの雪山の狼が狂っとったんも、全部『帝国』っちゅうタチの悪いブラック企業のせいやわ。うちらは、そのゴミ掃除を手伝いに来たんやで」
うちがサングラス越しに真っ直ぐ見据えると、大長老はギリッと歯を食いしばり、葛藤するように目を閉じた。
彼の中に深く根付いた「人間へのトラウマ」は、そう簡単に消えるもんやない。
だが、目の前で大自然の怒りを鎮めたこの女を、これ以上「敵」として扱うことは、大地の意志に背くことになると、彼自身の誇りが告げとったんや。
「……赤き鷹よ」
「はっ! 大長老様!」
大長老の呼びかけに、集落のリーダー格である赤き鷹が進み出る。
「……部族の精鋭たちを集めよ。あの女と剣士と共に、北の奥地に陣取る帝国の『採掘プラント』へ向かい、聖地を汚す元凶を破壊してこい」
大長老の言葉に、赤き鷹の顔がパァッと明るくなった。
「おおっ! ついに、我らに出陣の許可を……!」
「勘違いするな!」
大長老が杖をドンッと地面に突き立てる。
「私はまだ、人間という種族を許したわけではない! この一時的な共闘は、あくまで聖地を守るため……そして、荒野の守り神である雷鳥が、あの女を認めたからに過ぎん! ……決して、同盟を結んだわけではないぞ!」
完全なるツンデレ宣言やな。
分厚かった大長老の心の壁に、ついに明確な「ヒビ」が入った瞬間やった。
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「よっしゃ、そうと決まればさっそく出勤や! アレン、忘れ物はないか!」
「はい! 剣の手入れも完了しています。いつでも行けますよ!」
アレンが西の大陸の長剣を構え、頼もしく頷く。
うちら二人と、赤き鷹が率いる数十人の魔族の戦士たち。そして、上空を先導するように飛ぶ巨大な雷鳥。
この奇妙な討伐隊は、赤茶けた大渓谷を抜け、帝国が陣取っているという北の奥地へと向かって、土煙を上げて進軍を開始した。
半日ほど荒野を駆け抜けた頃。
風の匂いが、乾いた土の匂いから、ツンと鼻を刺すような「鉄と油」の匂いへと急激に変わった。
『ピギィィィッ!』
上空を飛んでいた雷鳥が、怒りを露わにした鋭い鳴き声を上げ、大きく旋回する。
「……静江さん。前方の岩山の向こう……空が、真っ黒です」
アレンが指差す先。そこには、雷鳥が苦しんでいた原因である、ドス黒い排煙がもうもうと立ち上っとった。
うちらは岩山の陰に身を潜め、崖の上からその「元凶」を見下ろした。
「……なんや、あれは」
うちの口から、思わず呆れ果てた声が漏れた。
眼下に広がっていたのは、自然の姿を無残に削り取られた、巨大なクレーターのような採掘場やった。
そしてその中央で、凄まじい轟音を立てながら稼働しているのは、山のように巨大な『魔導掘削機』や。
無数の巨大な歯車と、大地を削り取るための凶悪なバケット(鉄の爪)が回転し、荒野の赤い土を根こそぎ抉り取っていく。
掘り出された魔力結晶の原石は、ベルトコンベアのような魔導具で次々と帝国の装甲車へと積み込まれ、残された土砂や魔力廃液が、そのまま周囲の川へと「不法投棄」されとった。
「……許せん。我らの聖地を、大地の恵みを、あのような鉄の化け物で無差別に食い荒らすとは……!」
赤き鷹が、怒りで唇から血を流すほど強く弓を握りしめる。
「ホンマや。あんなデカい粗大ゴミ持ち込んで、無許可で工事するなんて、常識ハズレもええとこやわ。不法投棄の罰金、特大の利子つけて請求したる!」
うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ直し、ギラギラのサングラスの奥で目を細めた。
「アレン! 赤き鷹の兄ちゃん! あのふざけた重機を解体(お掃除)するで! カチ込みや!」
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「「「オオォォォォォッ!!」」」
赤き鷹の咆哮を合図に、魔族の戦士たちが一斉に崖を駆け下りる。
その異変に、プラントを警備していた帝国の迷彩服の兵士たちが気づき、慌てて魔導銃を構えた。
『敵襲だ! 荒野の野蛮人どもが降りてきたぞ! 迎撃しろ!』
ダダダダダッ!
帝国兵たちの銃口から、魔力の弾丸が雨あられと降り注ぐ。
魔族の戦士たちが足を止めそうになった、その瞬間。
「……風よ、僕の剣に宿れ! 『刹那の観測』!」
アレンが神速の踏み込みで最前線に躍り出た。
彼の極限の動体視力は、飛来する無数の魔力弾の軌道をすべてスローモーションで捉えとる。
アレンの長剣が風の魔法を纏い、目にも止まらぬ速さで空を切り裂いた。
ガキィィィンッ! バキンッ!
弾丸はすべてアレンの剣によって弾き落とされ、あるいは風の防壁に阻まれて軌道を逸らされていく。
「今のうちです! 道は僕が開く!」
「恩に着る、異国の剣士よ! 放てぇぇっ!」
アレンが作り出した絶対的な安全圏から、赤き鷹たちが一斉に弓を引き絞り、『精霊の矢』を放った。
風を読んだ正確無比な矢が、魔導銃を構える帝国兵たちの武器だけを次々と弾き飛ばしていく。
『ひぃっ!? な、なんだあの剣士は! 弾丸をすべて斬り落としたぞ!』
『馬鹿な! たかが田舎の野蛮人に……うわぁぁっ!?』
帝国兵たちがパニックに陥ったところに、さらなる「特大のクレーム」が上空から降り注いだ。
『ピギャアアアアッ!!』
雷雲を纏った雷鳥が、プラントの真上へと急降下してきたんや。
のど飴で完全に健康を取り戻した大怪鳥は、自分の住処を汚した帝国への「お返し」とばかりに、プラントの通信設備や防衛用の砲台めがけて、正確無比な『落雷』をドカドカと落としていく。
ドゴォォォォンッ!!
「ギャアアッ! 防衛砲台がショートした!」
「通信網も全滅だ! 本隊に援軍が頼めない!」
アレンの神速と、魔族の弓、そして雷鳥の空爆。
この完璧な連携によって、採掘プラントの防衛線はあっという間にズタズタに引き裂かれていった。
「……よっしゃ、外堀は埋まったな」
うちは悠々と歩きながら、アイテムボックスからタロットカードを取り出した。
雑魚をいくら蹴散らしても、中央で土煙を上げている『超巨大な魔導掘削機』を止めんことには、この環境破壊は終わらへん。
「さてと。あんなデカい鉄の塊、どこに『コンセント(弱点)』が隠れとるか、ちょっと鑑定したろか!」
聖地を食い荒らす巨大兵器と、おばちゃんの出張鑑定。
大長老に真の同盟を認めさせるための、泥臭くも熱い「重機解体作業」が、いよいよ本格的に幕を開けたんや!
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