第191話 襲来する雷鳥と、タロットが暴く濁った雷雲
荒野の魔族の集落が、どす黒い紫色の雲に覆われ、空気が焦げるような『オゾンの匂い』が立ち込めた。
ゴロゴロゴロ……ッ!!
遠くの山脈から響いていた雷鳴は、瞬く間に集落の真上へと到達した。
大長老が悲痛な叫びを上げる中、上空の分厚い雷雲がパカッと割れ、そこから凄まじい稲妻を纏った『巨大な怪鳥』が姿を現したんや。
翼を広げれば数十メートルはあろうかという、黄金色の羽を持つ伝説の霊鳥『雷鳥』。
だが、その神々しいはずの姿は、赤黒い瘴気と煤のような汚れに覆われ、激しい怒りと苦痛に身を捩らせながら、無差別に集落へと落雷を撒き散らしとった。
「おおお……! 荒野の守り神が、我らを見捨てて怒り狂っておられる……!」
大長老が膝をつき、天を仰ぐ。
「大長老様! このままでは集落が灰になります! 迎撃を!」
赤き鷹をはじめとする魔族の戦士たちが、震える手で弓を引き絞るが、上空を舞う雷鳥には矢は届かず、逆に落ちてきた雷が彼らのすぐ横のテントを吹き飛ばした。
「ヒィィッ! お、おしまいだぁっ!」
集落がパニックに陥る中、うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、パイプ椅子を広げてどっかと座り込んだ。
「アレン! あの鳥さんの『お小言(雷)』、ちょっと防ぎなはれ!」
「了解しました! 避雷針の役目なら任せてください! 『雷光の観測』!」
アレンが西の大陸の長剣を空に掲げ、風の魔法で自らの身体を「アース(接地)」代わりにする。雷鳥から放たれる無数の稲妻が、アレンの剣に吸い寄せられ、そのまま地面へと安全に逃がされていく。
「くっ……! さすがに、大自然の雷をすべて受けるのは骨が折れます……!」
アレンの金髪が静電気で逆立ち、足元の地面が黒く焦げとる。
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「よう持ちこたえとるわ! その間に、おばちゃんが『原因』を調べたる!」
うちは、雷鳴が轟く中、アイテムボックスから使い込まれたタロットカードを取り出し、バシッ、バシッと二枚のカードを展開した。
出たのは、『塔(The Tower)』の正位置、そして『女教皇(The High Priestess)』の逆位置や。
「『塔』の正位置は、突然の災害や崩壊。……そして『女教皇』の逆位置は、ヒステリー、呼吸器系のトラブル、あるいは『不潔な環境によるストレス』の暗示やな」
うちは特大のサングラスを押し上げ、上空で暴れ狂う雷鳥を、上から下までジッと鋭く観察した。
「……なるほどな。あの鳥さん、怒っとるっちゅうより、ただ『息苦しい』だけやわ。……赤き鷹の兄ちゃん!」
うちは、弓を構えていた赤き鷹に声をかけた。
「あの鳥さんの住処、普段はもっと高い空の上なんやろ?」
「あ、ああ。本来なら、あの霊峰の頂よりさらに上、清らかな雷雲の中に棲んでいるはずだ。だが、あんなに低く降りてきて暴れるなど……」
「やっぱりな。住処の空気が汚れとるんやわ。……よう見てみぃ、あの子の羽、煤みたいなんがべったり付いとるし、さっきから咳き込むみたいに雷落としとるで!」
うちの言葉に、大長老と赤き鷹がハッとして上空を見上げる。
確かに、雷鳥が雷を放つたびに、その巨大なクチバシからは「ゲホォッ」という苦しげな音が漏れ、黄金の羽からは黒いススがボロボロと落ちてきとった。
「……あれは。ただの汚れではない。帝国がさらに北の奥地で稼働させているという、『採掘プラント』が吐き出す、あのドス黒い排煙の煤だ……!」
赤き鷹が、ギリッと歯を食いしばる。
「せや! 帝国がこの新大陸の奥地で、えげつない環境破壊(排煙)をやらかしてるせいで、あの子の住処の雷雲が『ドス黒いスモッグ』になってもうたんや! 部屋の空気清浄機が壊れて、喘息おこしとるんと同じやわ!」
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うちはパイプ椅子から立ち上がり、拡声魔道具を口元に当てて、上空の雷鳥に向かって腹の底から怒鳴り上げた。
「おーい! そこのデカい鳥さん! 喉イガイガして苦しいんやろ! やからって、下の人らに八つ当たりして雷落とすのはお門違いやで!」
『ピギャアアアァァァッ!!』
雷鳥がうちの声に反応し、さらに強烈な稲妻を纏って、うちめがけて急降下してきた。
「静江さん、危ない!」
アレンが叫ぶが、うちは一歩も退かへん。
「八つ当たりする元気があるなら、これでも舐めて喉のイガイガ治しなはれ!」
うちはアイテムボックスの奥深くに手を突っ込み、喉の炎症を抑える青色の『ハッカ味』と、体力を回復させる赤色の『イチゴ味』の飴ちゃんを、特大トングでガシッと掴み取った。
そして、急降下してくる雷鳥の巨大なクチバシめがけて、まるで野球のノックのように、トングでその飴ちゃんを思いっきり弾き飛ばしたんや!
「おばちゃんの特製、超スッキリのど飴や! 丸飲みせえ!」
スパーーーンッ!
弾き飛ばされた二つの飴ちゃんは、雷鳥の大きく開いたクチバシの中に、見事にクリーンヒットした。
『ゴフッ……!?』
雷鳥が、空中でビクンと身体を強張らせる。
次の瞬間、ハッカの強烈な清涼感と、イチゴの甘酸っぱさが、雷鳥の煤けた喉の奥でジュワァァッと弾けた。
『……ピルル……?』
雷鳥の喉を覆っていた赤黒い瘴気が、ハッカの成分(魔力)でスゥッと浄化されていく。
苦しげな咳が止まり、全身から放たれていた無差別の落雷が、嘘のようにピタリと収まったんや。
「……よしよし。喉のスースー、効いたみたいやな」
うちは、空中でポカンとしている雷鳥に向かって、トングを振って見せた。
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「……信じられん。荒野の守り神の怒りを、あのような小さな甘露で……」
大長老が、杖を取り落としてへたり込む。
集落の魔族たちも、空を見上げて呆然としとる。
「……でもな、鳥さん。飴ちゃんで喉のイガイガは取れても、あんたの家の『空気』が綺麗になったわけやないで」
うちは、雷鳥が棲んでいたであろう、さらに北西の空……帝国が陣取っているであろう方角を睨みつけた。
「根本的な原因(帝国の排煙)を止めな、またすぐに喉痛めるわ。……どうや? うちらと一緒に、あんたの家の『換気(お掃除)』に行かへんか?」
『……ピィィィィッ!』
雷鳥は、うちの言葉を理解したかのように、高く澄んだ鳴き声を上げ、集落の上空を大きく旋回した。
その目には、もはや怒りの狂気はなく、自らの住処を汚した者への明確な『反撃の意志』が宿っとった。
「よし、商談成立や! アレン、赤き鷹の兄ちゃん! あんたらも行くで! 帝国の環境破壊プラント、おばちゃんが全部まとめて『空気清浄』したるわ!」
大長老の拒絶から始まり、ついに伝承の大怪鳥すらも「のど飴」で手懐けてしもうたおばちゃん。
雷鳥という空の最強戦力を味方につけ、オカン・ユニオンのクレーム対応は、いよいよ帝国が隠し持つ『環境破壊の元凶』へと向かって、猛スピードで加速し始めとったんや!
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