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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第13章:未開のジャングルと荒野の魔族! 大自然の特大クレーム対応

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第190話 オカンのご近所付き合いと、胃袋から崩れる包囲網

 荒野の魔族たちを束ねる大長老から「少しでも怪しい真似をすれば首を掻き切る」と強烈な拒絶を受けた、その翌朝。

 赤茶けた大渓谷の底にある巨大集落は、朝靄あさもやの中でピンと張り詰めた緊張感に包まれとった。


 ……やけど、そんな物騒な空気なんて、おばちゃんには一切関係あらへん。


「おっはようさん! 今日もええ天気やね! 洗濯物がよう乾きそうやわ!」


 うちは集落の端っこに勝手に張ったテントから飛び出し、ヒョウ柄のポンチョをバサッとはためかせながら、特大のゴミ拾いトングでカチャカチャと音を立てて、集落の「ゴミ拾い」を始めとった。


 魔族の戦士たちは、弓や槍を片手にうちらのテントを遠巻きに包囲し、いつでも攻撃できるように殺気を放っとるんやけど……。

 その包囲網のド真ん中を、うちは「あ、ちょっとごめんやで。そこ、魔獣の骨落ちとるから拾わしてな」と、トングで器用に足元のゴミを拾いながら、鼻歌交じりにズンズン歩き回っとるんや。


「……静江さん。本当に心臓に毛が生えていますね。四方八方から、物凄い殺気で睨まれているんですよ……?」


 テントの前で、西の大陸の長剣をいつでも抜けるように構えているアレンが、胃を押さえながら苦笑いする。


「アホ! ご近所付き合いの基本は、元気な挨拶と『自分の家の前の掃除』からや! うちらは今、この集落の端っこに住ませてもろてるんやから、町内会のルールにはきっちり従わなアカンねん!」


「町内会って……ここ、人間の侵入を絶対に許さない戦闘部族の聖地ですよ……」


 アレンのツッコミを華麗にスルーし、うちは集落の広場へと進んでいった。


 広場では、魔族の女性たちが、朝の食事の準備や、魔獣の毛皮をなめす作業をしとった。

 彼女たちもうちの姿を見ると、サッと警戒して子供たちを背中に隠し、敵意に満ちた目を向けてくる。

 言葉は通じひんけど、態度は完全に「あっち行け」や。


「……おっ、ちょっと待ち」


 うちは足を止め、広場の隅で泣きじゃくっている一人の魔族の男の子に目を留めた。

 五、六歳くらいやろうか。膝をすりむいて血を流しとるのに、母親らしき女性が両手が塞がっていて、すぐに手当てができずに困り果てとる。


===========


「あちゃー、派手に転んだな。痛いやろ」


 うちはトングを肩に担ぎ、その親子の元へズカズカと歩み寄った。


「ヒッ……! く、来るな、人間の女!」


 母親が驚いて子供を庇おうとするが、うちは「動いたらアカンよ」と優しく声をかけ、アイテムボックスから使い込まれたタロットカードを取り出した。


 バシッ、と一枚のカードをめくる。

 出たのは、『太陽(The Sun)』の正位置や。


「『太陽』の正位置。……純粋な生命力と、回復の暗示や。あんたの坊や、骨には異常ないわ。ただの擦り傷やから、すぐに元気に走り回れるようになるで」


 うちはカードをしまうと、アイテムボックスから怪我を治す黄色の『レモン味』の飴ちゃんを取り出し、泣いている男の子の口元へそっと差し出した。


「ほら、坊や。痛いの痛いの飛んでいけ、や。これ舐めな」


「だ、駄目だ! 人間の食べ物など、毒が入っているに決まっている!」


 母親が叫んで止めようとしたが、男の子は飴から漂う爽やかな柑橘の香りに釣られ、思わずパクッと口に入れてしもうた。


「あっ……!」


 母親が顔面を蒼白にする。

 だが、次の瞬間。

 レモン飴の強烈な回復魔力と、ビタミンCの酸っぱさが、男の子の身体に弾けた。


「……すっぱ! ……あ、あれ? 痛くない……!」


 男の子は目をまん丸くして、自分の膝を見下ろした。

 さっきまで血を流していた擦り傷が、ジュワァァッと音を立てて塞がり、跡形もなく綺麗に治ってしもうたんや。


「お、お母ちゃん! 見て! 痛いの、全部消えちゃった! それに、このお菓子、すっごく美味しい!」


 男の子が満面の笑みで立ち上がり、ピョンピョンと跳ね回る。


 その光景を見て、母親は呆然と口を開けた。

 遠巻きに見ていた他の魔族の女性たちも、「信じられない……」「人間の魔法で、あんなに一瞬で傷が……」と、どよめき始めた。


「せやろ? おばちゃんの特製サプリメントや。……お母さん、あんたも毎日家事と子育てで、えらい肩凝っとるやろ。目元にもクマできとるし。これ舐めて、ちょっと一息つきなはれ」


 うちは、ポカンとしている母親の口にも、疲労回復の『イチゴ味』の飴ちゃんを強引にポイッと放り込んだ。


===========


「んぐっ……!? ……な、なんだこれは……」


 母親は吐き出そうとしたが、イチゴの濃厚な甘さと、体の奥底から湧き上がるような疲労回復の効果に、思わず目を細めてしもうた。


「……甘い。それに、重かった肩が……嘘のように軽い……。あなたは、本当に私を呪うために来たのではないのですか……?」


「呪う暇があったら、晩御飯の献立でも考えるわ! うちはただの出張鑑定の占い師や。ご近所さんが困ってたら、お節介焼くのが大阪のオカンの仕事やねん!」


 うちはガハハと笑い、広場にパイプ椅子を広げてどっかと座り込んだ。


「さぁさぁ! 他にも痛いとこある奴、悩みがある奴はおらんか! おばちゃんがタロットと飴ちゃんで、全部スッキリ解決したるで! もちろん、ご近所価格で無料や!」


 うちの威勢の良い声に、警戒していた魔族の女性たちや子供たちが、恐る恐る、けれど確実に興味を惹かれて集まり始めた。


「……あの、私、最近腰が痛くて……」


「うちの子が、夜泣きがひどくて眠れなくて……」


「はいはい、順番に並びなはれ! 腰痛にはレモン飴! 夜泣きには、お母さんがリラックスするためのオレンジ飴や! タロットの運気もオマケで見といたるわ!」


 数十分後。

 広場はすっかり、おばちゃんを中心とした「大盛況の井戸端会議」と化しとった。

 人間への深い憎悪と不信感を抱いていたはずの魔族の女性たちが、すっかり毒気を抜かれ、飴ちゃんを舐めながら笑顔でうちと世間話をしとる。


「いやぁ、静江さん! あんたの飴、本当にすごいわ! 人間にも、こんないい人がいたのね!」


「せやろ! 悪い人間ばっかりやないんやで。……で、今日の夕飯は何するん? ええ魔獣の肉が手に入ったんやったら、生姜焼きにするとええで!」


 言葉の壁も、種族の壁も、オカンの「生活感」と「胃袋の掌握」の前には、ただの低い段差でしかなかったんや。


 その光景を、少し離れた岩陰から、赤き鷹と、荒野の大長老が呆然と見つめとった。


「……大長老様。あのように、たった数十分で我らの女子供の心を掴むとは……。やはり彼女は、ただの人間ではありません」


 赤き鷹が、感嘆の息を漏らす。


「……おのれ。卑劣な手で我らの民をたぶらかしおって。……だが、女子供が懐いたところで、我ら戦士の誇りは決して屈せんぞ。あの女が少しでも油断を見せれば、その時こそ……」


 大長老が杖を握りしめ、ギリッと歯を食いしばる。

 大長老の心の壁は、まだ分厚い。やけど、確実におばちゃんの手によって「外堀」は埋められつつあった。


===========


 その日の夕方。

 井戸端会議を終えてテントに戻ったうちは、満足げに伸びをした。


「ふぅ、ええ仕事したわ。これで集落の女子供は、完全にうちらの味方ファンやな」


「本当に……静江さんのコミュニケーション能力には恐れ入ります。これなら、数日もすれば大長老の意地も折れるかもしれませんね」


 アレンが感心したように、夕食の準備をしながら言う。


 だが、うちはテントの入り口から、空を見上げて少しだけ顔をしかめた。

 夕焼けの赤茶けた空が、なぜか不気味なほど急速に「どす黒い紫色」へと変わりつつあったんや。

 風の匂いが、乾いた荒野の匂いから、空気が焦げるような『オゾンの匂い』へと変わっていく。


「……アレン。お空が、すっごくビリビリしてへんか? なんか怒っとるみたいやわ」


 うちが呟いた、その時。


 ゴロゴロゴロ……ッ!!

 遠くの山脈の彼方から、地鳴りのような雷鳴が響く。

 それと同時に、集落の奥から、大長老の悲痛な叫び声が聞こえてきた。


「おおお……なんということだ! 帝国の環境破壊によって、ついに『あれ』が……荒野の守り神である『雷鳥サンダーバード』が、怒り狂って目覚めてしまったというのか!」


「雷鳥やて?」


 うちはアイテムボックスからタロットカードを取り出し、バシッと一枚展開した。

 出たのは、『塔(The Tower)』の正位置。

 制御不能な大災害の急接近や。

「……どうやら、のんびりご近所付き合いしてる時間はあらへんみたいやな」

 うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、ビリビリと紫電が走る空を睨みつけた。


 帝国が新大陸の奥地で行っている「特大の環境破壊」。

 その影響で狂暴化した伝承の大怪鳥が、怒りの矛先をこの集落へ向けようとしとった。

 荒野の魔族との「真の同盟」を懸けた、おばちゃん流・大自然のクレーム対応が、いよいよ雷鳴とともに幕を開けようとしとったんや!



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