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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第13章:未開のジャングルと荒野の魔族! 大自然の特大クレーム対応

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第189話 大長老の拒絶と、オカン流・ご近所への挨拶回り

 雪山での密猟部隊のお掃除を終え、うちらは赤き鷹とすっかり甘えん坊になった『精霊狼スピリット・ウルフ』の案内で、荒野のさらに奥深くへと進んどった。

 辿り着いたのは、赤茶けた大渓谷の谷底に広がる、巨大なテント群……荒野の魔族たちの『大集落』や。

 魔獣の骨や色鮮やかな染め布で作られたテント(ティピー)が何百と並び、そこで暮らす魔族たちの活気ある声が聞こえてくる。


「……おばちゃん。すっごく大きなお家がいっぱいあるよ。でも……みんな、こっちを睨んでる……」


 うちの後ろを歩いていたリリルが、ポンチョの裾をギュッと握りしめて身を縮めた。

 無理もない。集落に足を踏み入れた途端、楽しそうに笑っていた魔族たちの顔が、一瞬にして険しい氷のように凍りついたんや。

 赤銅色の肌を持つ戦士たちだけでなく、女や子供までもが、憎悪と恐怖の混じった目でうちらを睨みつけ、手に手に石や槍を握りしめとる。


「……アレン。絶対にお客さん(村人)に刃物向けたらアカンで。手ぇ出したら、それこそ帝国の連中と同じや」


「分かっています、静江さん。ですが、この殺気……尋常ではありません」


 アレンが鞘に入ったままの剣を背中に回し、両手を上げて敵意がないことを示す。

 そこへ、集落の一番奥、一際巨大なテントから、周囲の戦士たちが道を開けるようにして、一人の老人が姿を現した。

 顔には深い皺が刻まれ、頭には誰よりも巨大で立派な『鷲の羽飾り』を被っとる。手には、大地の魔力が凝縮されたような、黒光りする太い杖。

 彼こそが、この荒野の魔族たちを束ねる『大長老』や。


「……赤き鷹よ。その人間どもは、何だ」


 大長老の声は、枯れているのに、大地を震わせるような重たい威圧感があった。


「大長老様。彼女たちは、我々の雪山を汚していた帝国の密猟部隊を退け、狂乱していた精霊狼を無傷で鎮めてくれた恩人です。……どうか、彼女たちを我らの『家族(同盟)』として――」


「黙れッ!!」


 大長老が杖をドンッ! と地面に突き立てると、凄まじい風圧が巻き起こり、赤き鷹の言葉を遮った。


「人間など、すべて同じだ! 甘い言葉で我らに近づき、森を奪い、大河を汚し、我らの同胞を兵器の部品として狩り尽くした悪魔の末裔! その女がどれほど言葉を飾ろうと、我ら荒野の民は二度と人間に背中は預けん!」


===========


「帰れ! 今すぐこの聖地から立ち去れ! さもなくば、その身体に何千本もの精霊の矢を突き立ててくれるわ!」


 大長老の怒号に呼応して、周囲を取り囲む何千という魔族の戦士たちが、一斉に弓を引き絞り、うちらに向かって鋭い矢尻を向けた。

 ビリビリとした殺気が、リリルの肌を刺して彼女が小さく悲鳴を上げる。


「静江さん! 説得は不可能です! 一旦、退きましょう!」


 アレンが焦ってうちの肩を引こうとするが、うちは一歩も引かへん。

 うちは、特大のサングラスを少しだけずらし、アイテムボックスから使い込まれたタロットカードを取り出した。

 そして、無数の矢が向けられているそのド真ん中で、パイプ椅子をガシャンと広げてどっかと座り込んだんや。


「なっ……!? 貴様、我らの前で何をしている!」


 大長老が目をひん剥く中、うちはバシッ、バシッと泥の地面に二枚のカードを展開した。

 出たのは、『隠者(The Hermit)』の逆位置、そして『ソード(剣)の3』の正位置や。


「『隠者』の逆位置は、過去の傷に囚われた閉鎖的な心。『ソードの3』は、心臓に三本の剣が突き刺さる、耐え難い悲しみと裏切りのトラウマや」


 うちはカードの絵柄をデコネイルで弾き、大長老の頑なな瞳を真っ直ぐに見据えた。


「……おじいちゃん。あんた、昔、人間の『口約束』に騙されて、ひどい目に遭うたんやな。同胞を守ろうとして信じた相手に裏切られて、ぎょうさんの家族を失った。……その時の『三本の剣』が、今もあんたの心臓に刺さったまま抜けへんのや」


 うちの言葉に、大長老の顔色が一瞬にして変わった。

 怒りではなく、隠し続けていた「最も痛い傷」を容赦なく抉られた、強烈な動揺や。


「……貴様、なぜそれを……! いや、妖術で私の心を覗いたか! やはり人間は卑劣な――!」


「アホか! 妖術ちゃうわ、ただのおばちゃんの『出張鑑定』や!」


 うちはパイプ椅子から立ち上がり、特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ直した。


「あんたのそのトラウマ、痛いほどよう分かるわ。一度裏切られたら、誰のことも信じられんようになるんが普通や。……せやから、今すぐ『うちらを信じて同盟組め』なんて、無理なことは言わへん」


===========


「……何?」


「言葉で信じられへんのなら、うちらの『普段の行い』を見てもらうしかないわな。口約束なんかより、毎日どんな顔して飯食うて、どんな風にゴミ捨ててるか。そういう『生活』を見りゃ、その人間の本性なんて一発で分かるもんや!」


 うちは、大長老や周囲の魔族たちに向かって、ニカッと極悪な笑みを浮かべた。


「せやから、おじいちゃん! うちら、しばらくこの集落の端っこで『キャンプ』させてもらうで! ご近所さんとして、ゆっくり挨拶回りから始めさせてもらうわ! もちろん、ゴミの分別はきっちりするから安心しなはれ!」


「な、なにいぃぃっ!?」


 大長老も、赤き鷹も、そしてアレンまでもが、うちのトンデモない「ご近所付き合い宣言」に顎を外さんばかりに驚愕した。


「ふ、ふざけるな! 誰が貴様ら人間を、この集落に置くというのだ!」


「ほな、力ずくで追い出してみるか? うちは一歩も動かへんで!」


 うちはドカッと再びパイプ椅子に座り、アイテムボックスから「メロン味の飴ちゃん」を取り出して口に放り込んだ。

 無数の弓を向けられた絶体絶命の状況で、完全に「居座り」を決め込んだギャル姿のおばちゃん。

 そのあまりにも堂々とした、殺気すらも無効化する強烈な「生活感(厚かましさ)」の前に、大長老は完全にペースを乱され、振り上げていた杖をプルプルと震わせることしかできへんかった。


「……くっ……。好きにしろ! だが、我らは決して貴様らと口は利かん! 少しでも怪しい真似をすれば、夜の間にその首を掻き切ってくれるわ!」


 大長老は忌々しそうに吐き捨てると、集落の奥の巨大なテントへと逃げるように戻っていった。

 周囲の魔族たちも、毒気を抜かれたように弓を下ろし、遠巻きにうちらを警戒しながら散っていく。


「……静江さん。本当に、ここに居座るつもりですか? 四六時中、命を狙われるようなものですよ……」


 アレンが冷や汗を拭いながら、疲れ切った声で聞いてくる。


「当たり前や! ご近所付き合いは、最初が肝心やで! 明日の朝から、各テントに『引っ越しの挨拶の粗品(飴ちゃん)』配って回るからな! アレン、テントの設営や!」


 大長老の強烈な拒絶という、分厚い同盟の壁。

 だが、おばちゃんの「圧倒的な図太さ」と「お節介」は、荒野の魔族の頑なな心を、ご近所付き合いという泥臭い方法で、少しずつ、確実にこじ開けようとしとったんや!



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