第188話 雪山の密猟業者と、オカン流・罠の逆利用
猛吹雪が去り、澄み切った青空が広がる万年雪の山(ロッキー山脈)。
右足に食い込んでいた悪質なトラバサミを外してもらい、おばちゃん特製の飴ちゃんで完全に回復した巨大な『精霊狼』は、すっかりうちの足元でゴロゴロと喉を鳴らす「超大型犬」になっとった。
「……よしよし、ええ子や。毛並みもツヤツヤに戻ったな」
『ワフッ! クゥゥ〜ン……』
うちは、特大のダウンジャケットにヒョウ柄のマフラーという派手な雪山ルックのまま、精霊狼のフサフサの首元を撫で回した。
あの狂暴な殺気を放っていた大自然の化身が、ギャルの足元で腹を見せて甘えている。
その後ろで、荒野の魔族のリーダー『赤き鷹』が、信じられないものを見るような目で天を仰いでいた。
「……やはり、貴女はただの人間ではない。大自然の精霊すらも、その温かな『飴』と心で包み込んでしまうとは。……私個人としては、貴女たちを心から信じたいと思っている」
「ほな、さっそくうちのやり方を信用してもらうための初仕事といこか。……ワンちゃん、あんたに痛い思いさせた『不法投棄の密猟業者』は、どの辺に居座っとるんや?」
うちが尋ねると、精霊狼はスッと立ち上がり、鼻をクンクンと鳴らして、険しい針葉樹林のさらに奥の方角を睨みつけた。
「……鉄と油の匂いですね。僕にも微かに風に乗って感じ取れます」
アレンが西の大陸の長剣を構え、油断なく目を細める。
「よっしゃ、案内頼むで! 人の山に勝手に入り込んで、ゴミ撒き散らして動物イジメるような悪質業者、おばちゃんが営業停止にしたるわ!」
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精霊狼の静かな足取りに導かれ、うちらは雪深い森の奥へと進んでいった。
やがて、木々の隙間から、ドス黒い煙と人工的な灯りが見えてきた。
そこは、切り立った崖の下に作られた、神聖アルビオン帝国の『前線・魔獣捕獲キャンプ』やった。
迷彩色の分厚い防寒着を着た帝国兵たちが、何十人も忙しそうに動き回っとる。
キャンプの広場には、無数の「巨大な鉄の檻」が並べられ、その横には、森の魔獣たちを解体して『魔力結晶』や『毛皮』を剥ぎ取るための、血生臭い魔導機械がズラリと設置されとった。
「……ひどい。魔獣をただの『兵器の部品』としか見ていない。……あれでは、山が死に絶えてしまう」
アレンが、怒りに震える声で呟く。
「……許せん。我らの聖地を、金と魔力のための『狩り場』にするとは……!」
赤き鷹たち荒野の魔族も、アメカジ風の装束を雪風に揺らしながら、ギリッと弓を握りしめた。
だが、うちはそんな怒りに呑まれることなく、冷静にアイテムボックスからタロットカードを取り出した。
雪の上に、バシッ、バシッと二枚のカードを展開する。
出たのは、『悪魔(The Devil)』の正位置、そして『吊るされた男(The Hanged Man)』の逆位置や。
「『悪魔』の強欲と、『吊るされた男』の逆位置……つまり、自分の仕掛けた罠で自滅する暗示やな」
うちはカードをデコネイルで弾き、ニヤリと極悪な笑みを浮かべた。
「赤き鷹の兄ちゃん。あんたら、弓の腕前は相当なもんやろ? 百発百中か?」
「無論だ。我らの放つ『精霊の矢』は、風を読み、決して獲物を逃さない」
「よっしゃ。ほな、真っ向から突っ込むんやのうて、あいつらが雪山中に仕掛けとる『鉄の罠』を、そっくりそのままお返ししたるで!」
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『……おい! 罠の反応はどうだ! まだあの巨大な精霊狼はかからないのか!』
帝国のキャンプでは、密猟部隊の隊長が、イライラと拡声器で部下を怒鳴りつけとった。
『駄目です、隊長! 他の魔獣はかかりますが、あの銀色の狼だけは警戒して近づいてきません!』
『チッ、あの毛皮と魔石があれば、本国で莫大な金になるというのに……ん?』
隊長が舌打ちをした、その時やった。
キャンプの入り口近く、吹雪の向こう側から、ゆらりと巨大な銀色の影が姿を現したんや。
『……グルルルルル……ッ!』
精霊狼やった。わざと右足を引きずり、痛手を負って弱っているフリをして、キャンプの前に姿を晒したんや。
『出たぞ! 罠にかかって弱っている! 今だ、捕獲網を撃ち出せェェッ!』
隊長が歓喜の声を上げ、帝国兵たちがいっせいに魔導銃や捕獲用のネットガンを構えて、精霊狼へと向かって雪原を駆け出した。
「……かかったな、アホども」
崖の上からその様子を見下ろしていたうちは、特大のゴミ拾いトングを天に突き上げた。
「アレン! 赤き鷹! 今や!!」
「承知しました! 『刹那の跳躍』!!」
精霊狼を追ってキャンプから飛び出してきた数十人の帝国兵たちの「背後」。
そこへ、神速の風を纏ったアレンが、空から隕石のように降り立った。
「なっ!? どこから剣士が……!」
「退路は、僕がすべて断ち切る!」
アレンの西の大陸の長剣が、目にも止まらぬ速さで帝国兵たちの魔導銃を次々と峰打ちで破壊していく。
退路を塞がれ、パニックになった帝国兵たちが左右の雪原へと逃げようとした、まさにその瞬間やった。
「――荒野の精霊よ! 怒りの風となれ!」
崖の上に伏せていた赤き鷹たち荒野の魔族が一斉に立ち上がり、魔力で編み上げられた巨大な弓を引き絞った。
放たれた無数の『精霊の矢』は、逃げ惑う帝国兵たちを直接射抜く……のではなかった。
矢が正確に突き刺さったのは、帝国兵たちが自分たちで雪の下に隠し、うちらが事前に見つけ出しておいた無数の『トラバサミ(魔鋼の罠)』の「作動スイッチ(留め具)」やったんや!
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ガシャァァァンッ!! バキィィッ!!
雪原のあちこちで、隠されていた巨大な鉄の牙が、矢の衝撃によって次々と勢いよく跳ね上がった。
「ぎゃあぁぁっ!? しまった、俺たちが仕掛けた罠が……!」
「足が、足が挟まれたぁぁっ!」
退路をアレンに断たれ、左右に逃げた帝国兵たちは、見事に自分たちが仕掛けたトラバサミの群れの中へと飛び込み、次々と足を取られて雪の上に転がっていった。
怪我をするほど深くは食い込んでいないが、特殊な魔力回路によってガッチリと拘束され、もはや一歩も動けない状態や。
『ば、馬鹿な……! 我々の罠を、逆手に取っただと!?』
キャンプに残っていた隊長が、自軍の無惨な姿を見て顔面を蒼白にする。
そこへ、精霊狼の背中に乗ったうちが、悠々と雪原を滑るように進み出てきた。
極端に短いホットパンツに、ど派手なピンクの特大ダウンジャケット。
どう見ても雪山には絶対におらん「ギャルのおばちゃん」の登場に、隊長は完全に理解の範疇を超えてフリーズしとる。
「……あんたら、動物の毛皮剥ぐ前に、自分らの足元(罠)の管理くらいしっかりしなはれ!」
うちは精霊狼の背中からヒョイと飛び降り、アイテムボックスから取り出した「パイプ椅子」を雪の上にガシャンと広げてどっかと座り込んだ。
「人の山に勝手に入り込んで、痛いゴミ(トラバサミ)を撒き散らすなんて、キャンパーとしても密猟業者としても最低のマナーやわ! 不法投棄には、それ相応の『罰金(お仕置き)』が必要やな!」
『ひ、ひぃぃぃッ! 貴様、何者だ! 我ら神聖アルビオン帝国の軍属を、ただで済むと……!』
「ただで済まんのはあんたの方や!」
うちは、アイテムボックスから、精霊狼の足から外した『一番デカい魔鋼のトラバサミ』を取り出すと、それを特大トングでガシッと挟み込み、隊長の足元めがけて思いっきり放り投げた。
ガチャンッ!!
隊長のブーツの爪先スレスレのところで、巨大な鉄の牙が恐ろしい音を立てて閉じた。
『ヒッ……!? ギャアアアアッ!』
隊長は恐怖のあまり腰を抜かし、雪の上に無様にひっくり返って失禁しよった。
「……どうや? 自分が仕掛けた罠が、どんだけ怖くて痛いか、ちょっとは分かったか?」
うちがサングラス越しに冷たく見下ろすと、隊長は「ひ、ひぃぃ……! 降参だ! 命だけは……!」と、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして土下座した。
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「……お見事でした、静江さん。敵の部隊は一人残らず拘束完了です」
アレンが涼しい顔で戻ってきて、剣を鞘に納める。
赤き鷹たち荒野の魔族も、崖から降りてきて、うちの前に深く膝をついた。
「静江よ。貴女のその『合理的な戦術』と、自然への愛。……我ら荒野の魔族、心より感服した。これでこの雪山も、再び精霊たちの安らぎの地となるだろう」
赤き鷹の瞳には、完全なる信頼と、深い敬愛の念が宿っとった。
「せやろ? 悪い奴は、自分らがやったことと同じ目に遭わせるんが一番効くんやわ。……ほな、これで商談(同盟)は成立やな!」
うちはパイプ椅子から立ち上がり、赤き鷹と固く握手を交わそうとした。
……だが、赤き鷹はうちの手を握り返しながらも、その顔に深い苦悩の色を浮かべた。
「……私と、私の部族、そしてこの精霊狼は、貴女たちを心から信じよう。……だが、静江。我ら荒野の魔族を束ねる『大長老』や、他の強硬派の部族たちは、決して人間を許してはいない。貴女たちが真の家族(同盟)として認められるには、まだ巨大な『壁』が立ち塞がっているのだ」
「……壁、なぁ」
「ああ。……彼らの人間に対する憎悪は、根深い。我らの大集落へ案内するが……決して、剣は抜かないでほしい」
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