第182話 オカン流・適材適所と、海賊たちの特大海上封鎖
西の大地の第一拠点である『中央総督府』。その最上階にある豪華な総督執務室は、先ほどまでの激戦の熱気を残したまま、奇妙な静寂に包まれとった。
床には、トレンディ総督・ウォルターが自滅させた「不良品の魔導アーマー」の黒焦げの残骸が転がり、部屋のあちこちにススがこびりついている。
だが、そんなむさ苦しい空間のド真ん中、一番高級な革張りのソファに深く腰掛けていたのは、極端に短いホットパンツに、背中に龍が躍る銀色のスカジャンを羽織った、ド派手なギャル――うちや。
「……あーあ。せっかくの最高級ソファやのに、空調が効きすぎとったせいで革がカッサカサに乾燥しとるわ。これやから、現場に出んエリートの部屋はアカンねん。……アレン、ちょっとお茶淹れて。喉渇いたわ」
うちは、ピンクのラインストーンでデコった爪の先をヤスリで整えながら、大きく欠伸をした。
「はいはい、ただいま。……静江さん、こんな状況でよくそんなに寛げますね。少しは危機感というものを持ってください」
アレンが、総督の隠し金庫から見つけ出した高級な茶葉でハーブティーを淹れながら、呆れたようにため息をついた。
彼は総督の巨大なマホガニーの机の上に、大量の機密書類と、西の大地(新大陸)の全体が描かれた巨大な地図を広げ、真剣な目でそれらを分析しとったんや。
「危機感ぁ? 一番デカい社長室を乗っ取ったんやから、ちょっとくらい休憩してもバチは当たらんやろ」
「そういうわけにはいきません。……静江さん、この地図を見てください」
アレンが指差した地図には、うちらが制圧したこの沿岸部の総督府の他にも、内陸部に向かって無数の赤い印が付けられとった。
「……今回僕たちが落としたのは、あくまで帝国が新大陸の沿岸に築いた『第一拠点(橋頭堡)』に過ぎません。この広大な大地の奥深くには、まだまだ無数のブラック工場と、帝国軍の駐屯地が存在しています」
アレンの声が、一段と重く、険しくなる。
「それに、この本社の機能を停止させたことは、すぐに『アルビオン帝国本国』に伝わるはずです。そうなれば、内陸部にいる他の帝国軍はもちろん、海を越えて本国から、とんでもない数の『奪還部隊』が押し寄せてくる。……僕たちだけで、この城を守りながら内地へ進軍するのは、物理的に不可能です」
アレンの言う通りや。
今、うちらの手駒として動けるのは、ガトーたち三十の海賊団の荒くれ者と、工場で解放した数千の労働者たちだけ。圧倒的に数が足りへん。
「……オカン! そんな難しい顔しねぇでくだせぇ!」
バンッ! と勢いよく執務室の扉が開き、ピンクのデコ魔導銃を肩に担いだ巨漢のガトーが、赤鯱や金鯱といった三十の海賊団の船長たちを引き連れて、意気揚々と入ってきた。
「俺たち海賊団は、オカンにどこまでもついて行くぜ! 内地だろうが深いジャングルだろうが、特売ダッシュで駆け抜けてやらぁ!」
ガトーが威勢よく吠える。……だが、彼はさっきから、歩き慣れない大理石のツルツルした床で「おっとっと!」と何度も足を滑らせ、その度にデコ魔導銃のラインストーンを壁にぶつけてチャラチャラと間抜けな音を立てとった。
===========
「アホか。あんたら、さっきから陸の上やとえらい歩きにくそうやんか」
うちはソファから立ち上がり、特大のゴミ拾いトングを肩に担いで、ガトーたち海賊団の船長たちをビシッと指差した。
「だいたいな、海の男が山の中で迷子になってどないすんねん! 海のプロを陸戦で使い潰すなんて、それこそ帝国と同じ『適材適所の無視』やわ。宝の持ち腐れもええとこやで」
「うっ……。そ、そりゃあ俺たちは、潮の匂いがしねえ場所じゃ、半分も力が出せねえのは事実ですが……」
ガトーたちが、図星を突かれてバツが悪そうに頭を掻く。
「せやから、あんたら海賊の仕事は、陸の攻略やない! もっと重要で、あんたらにしかできへん特大の仕事があるんや!」
うちは、背後の窓から見える、広大な海を指差した。
「……この総督府の港と、うちらが海の途中で拿捕した『帝国の最新鋭戦艦』。これらを使って、海から来るアルビオン帝国本国の援軍を、完全にシャットアウトするんや!」
「海から来る帝国軍を……シャットアウト?」
「せや! 海の地形も、風の読み方も、嵐の抜け方も、あんたらが一番よう知っとるやろ! 港に分厚い『海上封鎖』を下ろして、本国からのクレーム対応(奪還部隊)を全部海の上で引き受けるんや! あんたらの得意な『海戦』で、帝国のエリートどもを海の藻屑にしたれ!」
その言葉を聞いた瞬間。
ガトーや赤鯱、金鯱の船長たちの顔が、まるで水を得た魚のようにパァッと明るく輝いた。
「ゲハハハ! そういうことなら俺たちの土俵だ! どんな大艦隊が来ようと、魔の海域を生き抜いた俺たちの操船技術なら、一隻たりともこの港には近づけさせねえ!」
「オカンの背中(海)は、俺たち海の男が完璧に守り抜いてみせるぜ! 帝国の坊ちゃん共に、本当の海の恐ろしさを教えてやらぁ!」
海賊たちは、自分の「一番得意なこと」を任された喜びと誇りで、目を血走らせて雄叫びを上げた。
「よっしゃ、海はあんたらに任せたで! ……ほな、問題は『内地(ブラック工場)』の攻略やな。ここはやっぱり、うちとアレンで切り込んで……」
うちが言いかけた、その時やった。
===========
「――待ってくれ、オカン! 内地の攻略は、俺たちにやらせてくれ!」
執務室の入り口から、力強い足取りで進み出てきた者たちがおった。
工場で一番最初に解放された、ドワーフの親方。そして、人間の労働者の代表である初老の男や。その後ろには、獣人やエルフの代表者たちも、手に手にスパナやハンマーを握りしめて続いとる。
彼らの顔には、つい数日前までの「助けられた社畜」のひ弱さは微塵もなかった。自分たちの尊厳を取り戻した、誇り高き『現地住民』としての力強い顔になっとったんや。
「俺たちは、この大地の地形も、どこにどんな工場があるかも、帝国の警備の抜け穴も、誰よりも知っている! なにせ、それを作らされたのは俺たち自身だからな!」
ドワーフの親方が、分厚い胸板を叩いて吠える。
そして、人間の初老の男が、窓の外のドス黒い煙を上げる内陸部を睨みつけ、ギリッと唇を噛み締めた。
「オカン。……あんたは知らないだろうが、この西の大地……俺たちの大西洋側の故郷は、昔は石造りの巨大な都市なんてない代わりに、豊かな森と大河の恵みに溢れた、美しい場所だったんだ。俺たちは、自然の精霊たちと共に、貧しくも平和に暮らしていた」
「……」
「だが、帝国は俺たちの文化を『未開の野蛮人』と見下し、土足で踏み込んで森を切り倒し、冷たいコンクリートで大地を塗り潰した。……そして、俺たちの家族を工場の部品として繋ぎ止めている。……あいつらを助け出し、俺たちの故郷を取り戻すのは、他の誰でもない、俺たち自身の『手』でやらなきゃならないんだ!」
彼らの熱く、悲痛な訴えに、アレンがハッとしてうちを見た。
「静江さん……。彼らの言う通りです。内地の過酷なジャングルや工場の構造を知り尽くした彼らがいれば、内地の攻略はこれ以上ないほど有利に進められます」
「……せやな。他人の家に土足で上がり込んで、元々あったもんを馬鹿にする地上げ屋が、おばちゃんは一番嫌いや」
うちは立ち上がり、特大のゴミ拾いトングを肩に担いで、ニカッと極悪な笑みを浮かべた。
「他人に掃除任せとったら、いつまで経っても自分の部屋は好きになれへんからな。あんたらの故郷は、あんたらの手でピカピカに磨き上げなはれ!」
「おおぉぉぉっ!!」
労働者たちが、喜びと闘志で震える声を上げる。
「よっしゃ! ほな、オカン・ユニオンの再編や! 海の防衛は『海賊営業部』に全権を任せる! そして、内地の攻略は、土地勘と怒りバッチリの『現地労働組合』が主役や! うちらはそのサポート(クレーム対応)として一緒について行くで!」
「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!!」」」
総督執務室に、海賊たちと労働者たちの、割れんばかりの歓声が響き渡った。
海のプロと、陸のプロ。それぞれの「得意なこと」を最大限に活かした、理にかなった完璧な分業体制の完成や。
「さぁ、ガトー! 港のシャッター、ガッチリ閉めときや! うちらはこれから、この大地のド真ん中まで、特大のガサ入れ(大掃除)に行ってくるでぇぇッ!」
海賊たちに強固な背中(海上封鎖)を任せ、おばちゃんと解放された数千の現地住民たちは、新大陸の奥深くに巣食う、さらなる巨大なブラック工場群――コンクリートで塗り潰されたかつての美しいジャングルへと向かって、怒涛の進軍を開始したんや!
読んでくれてありがとうございます!
「面白い!」「続きが気になる!」「応援したい!」と思っていただけたら、
作品ページ上部の【☆評価】【ブックマーク】、そして【リアクション】ボタンをポチッと押していただけるととても励みになります!
みなさんの応援が、次回更新の原動力になります。
引き続きよろしくお願いします!




