第181話 役員専用エレベーターと、トレンディ総督の不良品アーマー
社畜たちの手によって帝国の防衛線(ゴーレム部隊)がスクラップにされ、ついに『中央総督府』の重厚なエントランスが蹴り開けられた。
中に踏み込むと、そこは外のドス黒い煙と排気ガスの地獄とは別世界やった。
磨き上げられた大理石の床、豪華なシャンデリア、そして適温に保たれた無駄に快適な空調。
「……うっわ。外であんだけ人こき使ってカビ臭い空気吸わせといて、自分らの本社だけはマイナスイオン出まくりやんか。空調効きすぎて、お肌カサカサになるわ!」
うちはヒョウ柄のスカジャンの襟を合わせながら、呆れて吐き捨てた。
「……俺たち下っ端の労働者は、この建物に入ることすら許されていなかった。なのに、奴らはこんな快適な場所で……!」
ドワーフや人間の労働者たちが、自分たちの血と汗で建てられたこの豪華な空間を見て、ギリッと悔しそうに工具を握りしめる。
「静江さん、上へ向かう階段が見当たりません。ですが、あそこにある銀色の箱……魔導の力で上下に動く『昇降機』のようです」
アレンがホールの奥にある金属の扉を指差す。
「あれは役員専用の魔導昇降機だ! 俺たちが命がけで抽出した魔力を湯水のように使って、上の階へ一瞬で移動するやつだ!」
「ほう、役員専用か。ええやないの」
うちは特大のゴミ拾いトングで、その昇降機のボタンらしき魔石をガンッと叩いた。
チーン、と間抜けな音がして、銀色の扉が開く。
「さぁ、あんたら! 今日は無礼講や! この役員専用エレベーターに、定員(積載量)ギリギリまでぎゅうぎゅうに乗って、一番上の社長室(総督執務室)までカチ込みかけるで!」
「「「おおぉぉぉっ!」」」
ドワーフの親方や、キラキラのデコ魔導銃を持ったガトーたちが、嬉々として狭い箱の中にすし詰めになって乗り込んでいく。
「ちょ、静江さん! さすがにこれ、重量オーバーで魔力回路が……!」
「ええねん! 壊れたら階段代わりに登るだけや! ほらアレン、あんたも息止めなはれ! 閉まるで!」
ギューギュー詰めのむさい男たちと、派手なギャルのおばちゃん。
ブブーッ! と重量オーバーの警告音が鳴り響く中、アレンの魔力操作のハッタリで強引にエレベーターを動かし、うちらは一気に最上階へと向かったんや。
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チンッ!
最上階の扉が開いた瞬間、うちらは雪崩を打って豪華な廊下へと転がり出た。
「……ゲホッ。男たちの汗の匂いで窒息するかと思いました……」
アレンが涙目でむせている。
だが、うちはそんなことお構いなしに、廊下の突き当たりにある一番バカでかい両開きの扉を、厚底ブーツでドァァァン! と蹴り開けた。
「労働基準監督署や! あんたんとこの未払い残業代、きっちり回収しに来たでぇ!」
そこは、壁一面がガラス張りになった、西の大地を一望できる広大な『総督執務室』やった。
そして、その部屋のド真ん中。
高級な革張りのソファに深く腰掛け、赤いワインの入ったグラスをクルクルと回している、鼻持ちならない銀髪の男がおった。
「……騒々しい下層のネズミどもだ。我が『神聖アルビオン帝国』が誇る総督府の最上階に、泥だらけの足で踏み入るとは」
総督・ウォルター。
外の防衛線が突破されたというのに、一切の焦りを見せず、まるで安っぽいトレンディドラマの悪役みたいにドヤ顔でワインを傾けとる。
「……なんや、あんた。外であんだけドンパチやってんのに、ワイングラス回して余裕ぶるとか、いつの時代のトレンディ俳優やねん。グラスの持ち方もキザすぎて腹立つわ」
うちはパイプ椅子をガシャンと広げて、ウォルターの真正面にどっかと座った。
「フッ……。野蛮な娼婦には、この極上のワインの味も、私の余裕の理由も分かるまい」
ウォルターはグラスをテーブルに置き、傲慢な笑みを浮かべて立ち上がった。
「なぜ私が逃げもせず、ここで貴様らを待っていたか。……それは、この部屋自体が、貴様ら下等種族を処分するための『完璧な処刑場』だからだ!」
ウォルターが指を鳴らした瞬間。
ウィィィィン……!
部屋の壁面と床から、禍々しい紫色の光を放つ無数の魔導回路が浮かび上がり、ウォルターの身体を包み込むようにして、見上げるほど巨大な『魔導強化アーマー』が組み上がっていったんや。
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「なっ……! 総督自身が、巨大な兵器と一体化を!?」
アレンが剣を構える。
ウォルターは、重装甲の魔導アーマーの中から、拡声器越しに勝ち誇った声を出した。
『ハハハハ! 見よ、これこそがこの西の大地の魔力をすべて吸い上げ、私自身を無敵の神へと押し上げる究極の決戦兵器! 貴様らがどれだけ群がろうと、私の放つ圧倒的な魔力砲の前に、塵となって消えるのだ!』
ウォルターがアーマーの腕を掲げ、うちらに向けて極太の魔力砲のチャージを開始する。
ギュイィィィン! と凄まじいエネルギーが集束し、部屋の空気がビリビリと震え始めた。
だが。
その絶体絶命のピンチに、うちはタロットカードを引くまでもなく、大きな溜息をついた。
「……おい。あんたら、あれ見てどう思う?」
うちは、背後にいる労働者たちを振り返って尋ねた。
ドワーフの親方や人間の職人たちは、ウォルターの『究極の兵器』をジト目で見つめ、呆れたように口々にツッコミを入れ始めた。
「……オカン、あれ。俺たちが先月、徹夜で納品させられた『第七型魔導炉』のガワですね」
「ええ。コスト削減のために、魔力パイプに安物のゴム管を使わされたから、出力上げすぎると三分で液漏れしてショートする代物です」
「しかもあの背中の冷却ファン、部品が足りなくて俺が適当な木の板で塞いで誤魔化した箇所だ。あそこ叩かれたら一発で熱暴走して自爆しますよ」
現場の職人たちの、あまりにも冷徹な『ダメ出し(クレーム)』。
それを聞いたウォルターのアーマーの動きが、ピタリと止まった。
『な……!? き、貴様ら、何を言っている! これは帝国の最高機密で作られた無敵の……!』
「無敵なわけあるかい! 自分らで手ぇ動かさんと、納期とコストだけ削って現場に丸投げするから、そんなポンコツ掴まされるんやわ!」
うちは特大のゴミ拾いトングを構え、ニカッと極悪な笑みを浮かべた。
「アレン! ガトー! あんたら、職人さんの言う通りの『クレーム箇所』、きっちり突いて返品処理したってや!」
「「「おおおおぉぉぉッ!!」」」
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『う、撃て! 撃てェェッ!』
ウォルターがパニックになり、魔力砲を放とうとする。
だが、三分経たずにゴム管が溶けて魔力が液漏れし、プシュゥゥゥッと情けない音を立てて不発に終わった。
『な、なぜだ!? なぜ魔力が……!』
「だから言ったろ、安物の管じゃ耐えられねえってな!」
ガトーたち海賊が、ピンクのラインストーンでデコられた魔導銃を一斉に乱射し、アーマーの視界をキラキラと乱反射させて奪う。
「仕上げです! 『刹那の観測』!」
アレンの神速の剣が、アーマーの背後――職人が『木の板で塞いだ』と言っていた冷却ファンの隙間に、容赦なく突き刺さった。
ガキィィィンッ!!
『ギャアアアッ!? 熱い! 冷却が、熱暴走がぁぁっ!』
内部でショートを起こしたアーマーは、黒煙を吹き出しながらガタガタと崩れ落ち、最後はポンッという間抜けな音とともに完全に沈黙した。
「……ひ、ひぃぃぃッ……! た、助けてくれぇっ!」
黒焦げになったアーマーのハッチが開き、中からススだらけになったウォルターが這い出してきた。
さっきまでのトレンディな余裕は完全に吹き飛び、鼻水と涙で顔をぐちゃぐちゃにして床を這いつくばっとる。
「……現場の苦労も知らんと、安全な場所から数字だけ見て偉そうにするから、こういう目に遭うんや」
うちは、這いつくばるウォルターの前に歩み寄り、その襟首を特大トングでガシッと挟み上げて宙吊りにした。
「痛ててててッ! は、離せぇッ!」
「ええか! これでこの大地のブラック企業(総督府)は、完全に倒産や! 溜め込んだ未払い給料と搾取した魔力、あんたの身ぐるみ剥がして全額弁償してもらうでぇ!」
「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!!」」」
労働者たちと海賊たちの、割れんばかりの歓声が最上階の執務室に響き渡った。
勘違いから始まった西の大地(新大陸)へのカチ込みは、オカンと現場の社畜たちの手によって、ついに帝国の総督を引きずり下ろすという完全勝利で幕を閉じたんや!
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