第179話 解放された社畜たちと、黒煙の本社(総督府)への道
西の大地の沿岸部をドス黒く染めていた巨大な魔導工場は、おばちゃんの「飴ちゃん」とオカン・ユニオンの怒涛のカチ込みによって、あっという間に完全に制圧された。
工場のあちこちで、解放された労働者たちが、信じられないものを見るように自分の両手を見つめ、歓喜の涙を流しとった。
「……おおぉ……。飴を舐めただけで、何年も取れなかった鉛のような疲労が消えていく……!」
「息が、苦しくない。……俺たち、もう鉄を打たなくていいのか……?」
エルフ、ドワーフ、獣人、そして同じアルビオン帝国の平民たち。
種族の壁など関係なく、ただの「使い捨ての部品」として鎖に繋がれていた彼らは、飴ちゃんの回復魔力によって急速に生気を取り戻し、互いに肩を抱き合って喜びを分かち合っとった。
「みんな、無理して急に動いたらアカンで! まだ胃袋がびっくりするから、まずは温かいお茶と、このメロン味の飴でゆっくり腹ごしらえしなはれ!」
うちはアイテムボックスから大量の水筒を取り出し、ガトーたち海賊に手伝わせて、労働者たちに配って回った。
アレンは、工場内に残っていた危険な魔導機械の電源を次々と神速で落とし、安全を確保していく。
「……ひぃぃぃッ! た、助けてくれぇっ!」
その平和な空気の片隅で、情けない悲鳴を上げている男がおった。
うちが特大のゴミ拾いトングで襟首を挟んで宙吊りにした、この工場の責任者である人間の将校や。
「やかましいわ。あんた、さっきまでこの人らをゴミみたいに扱っといて、自分がやられる側になったら命乞いか。ええ身分やな」
うちはトングを少しだけ揺らし、将校を威嚇した。
「あんたみたいな現場の『中間管理職』をイジメてもしゃあないねん。……さっさと吐きなはれ。この大地をこんなゴミ屋敷にした『一番偉い親玉』は、どこにおるんや?」
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「お、教えるものか……! 中央の『総督閣下』に逆らえば、貴様らなど一瞬で……!」
将校が強がって見せた、その時やった。
「……オカン。俺に話させてくれ」
飴ちゃんで完全に体力を取り戻した、人間の初老の労働者が、怒りに震える拳を握りしめて前に進み出てきた。
先日、奴隷船の中でうちが話を聞いた男や。彼もまた、平民でありながら借金でここに売り飛ばされた被害者の一人やった。
「……この工場のさらに奥、西の大地のド真ん中に、天を突くような巨大な塔……『中央総督府』がある。……あそこが、この大地のすべての魔力と資源を吸い上げている『本社』だ」
男の言葉に、周囲の労働者たちも憎しみを込めて頷く。
「総督府……。そこがゴミの元栓っちゅうわけやな」
「ええ。……奴らはそこで、俺たちから搾り取った命を燃料にして、新大陸を完全に要塞化するための『規格外の魔導兵器』を造り出そうとしている。……このまま放っておけば、海を越えて、他の大陸まで火の海にされるのは時間の問題です」
男はギリッと唇を噛み締め、うちの目を真っ直ぐに見つめた。
「……オカン。俺たちはもう、ただの『部品』として死ぬのは御免だ。……この命、あんたの組合に預ける! 俺たちも、一緒に戦わせてくれ!」
「そうだ! 俺たちも行くぞ!」
「帝国の連中に、ただじゃ済まされないってことを教えてやる!」
数千人にも及ぶ工場労働者たちが、手に手にハンマーや鉄パイプなどの工具を握りしめ、一斉に怒りの雄叫びを上げた。
搾取され、心を殺されていた社畜たちが、おばちゃんの温かさに触れて、ついに己の尊厳のために立ち上がったんや。
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「……なっ、馬鹿な! 下等な労働力どもが、帝国に刃向かうだと!? 貴様ら、自分たちが何をしているのか分かっているのか!」
宙吊りの将校が顔を真っ青にして叫ぶ。
「分かってへんのはあんたやわ!」
うちはトングを振り下ろし、将校を床にドサッと投げ捨てた。
「労働者を大事にせん会社はな、いずれ必ず内側から崩壊するんや! これは反逆やない、当然の『労働環境改善の要求』やわ!」
うちは腰に手を当て、アレンと、海賊たち、そして新たに加わった数千の労働者たちをぐるりと見渡した。
「……静江さん。この数千の熱気、まるで巨大な炎のようです。……彼らの怒りは、もう誰にも止められない」
アレンが剣の柄に手を当て、頼もしく微笑む。
「せや! これでうちらの『オカン・ユニオン』は、ただの海賊の集まりやのうて、この大地を掃除するための巨大な軍隊になったわ!」
うちはパイプ椅子の上に立ち上がり、拡声魔道具を口に当てて、工場全体に響き渡る声で号令をかけた。
「ええか、あんたら! うちらの次なる目標は、このゴミ屋敷のド真ん中にある『中央総督府(本社)』や! 溜まりに溜まった未払い残業代と、不当労働の慰謝料、きっちり利子つけて回収しに行くで!」
「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!!」」」
「目標、総督府! これより、オカン・ユニオン全軍で、大地の中枢へ向けて『特売ダッシュ』をかけるでぇぇッ!!」
三十の海賊団と、数千の解放された労働者たち。
オカンの飴ちゃんと怒りを旗印に結集した、種族も身分も超えた「最強のクレーマー集団」が、巨大な黒煙を上げる帝国の心臓部へと向かって、怒涛の進撃を開始したんや!
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