第177話 追い風の特売ダッシュと、オカン流・ガス欠(兵糧)攻め
奴隷船を拿捕し、西の大地(新大陸)の恐るべき真実を知った『オカン・ユニオン』の三十隻の艦隊は、怒りの炎を燃やしてさらに西へと突き進んでいた。
海賊たちの張った帆は、後方から吹き付ける**「猛烈な追い風」**をいっぱいに孕み、船は波を滑るように猛スピードで加速していく。
「……オカン! 前方より、巨大な船影が複数! あれは神聖アルビオン帝国の戦艦部隊です!」
見張り台からガトーが叫ぶ。
うちらが向かっているのとは逆、つまり西の大地から帝国本国へと帰還しようとしている艦隊や。戦艦クラスの巨大な船が数隻、さらにその後ろには重武装を施された補給船らしきものがガッチリと陣形を組んでいる。
だが、追い風に乗って快適に進むうちらとは対照的に、帝国艦隊は波に逆らい、激しい黒煙を上げながらひどく重鈍な動きをしとった。
「……えらい重装備やけど、全然進んでへんな。ただの帰り道に、なんであんなに苦労しとるんや?」
うちが特大のサングラスを押し上げて尋ねると、ガトーがニヤリと笑って答えた。
「この西の大地からの帰りの航路は、俺たちにとっては追い風ですが、奴らからすれば一年中『強烈な向かい風』が吹き荒れる厄介な海域なんです」
「でも、あいつらの船、カリカにおったやつと同じ『魔力炉』で動いてるんやろ? 風なんか関係ないんとちゃうか?」
「それが、あいつらの魔力炉は推進力こそ馬鹿デカいですが、燃費が最悪(魔力結晶の消費が激しすぎる)なんです。だから長距離航海では普段は『帆』をメインで使ってるんですが……この向かい風じゃ帆が使えねえ。仕方なく、燃費の悪い魔力炉を全開にして強引に進んでるってわけです」
「なるほどな。ハイブリッド車のエンジンだけを無理やり吹かして走ってるようなもんか」
「……はいぶりっと車? ってのが何だか分かりませんが、とにかくそういうことです。当然、魔力も食料もカツカツになる。だから奴らは、俺たち海賊の縄張りを『嫌でも』通って補給しなきゃならねえんです」
「……静江さん。相手は向かい風を強引に突破するため、無理をして進んでいるようです。正面からぶつかれば、あの重質量と砲撃に押し潰されますよ」
アレンが剣の柄に手をかけ、冷静に戦力差を分析する。
「真正面からぶつかる? アホか。あんな燃費の悪そうな大型車と、真正面から相撲取るバカがどこにおるんや」
うちはアイテムボックスからタロットカードを取り出し、強風の中でバシッ、バシッと二枚展開した。
出たのは、『戦車(The Chariot)』の逆位置、そして『節制(Temperance)』の逆位置や。
「『戦車』の逆位置は、強引な前進によるエンスト(暴走)。『節制』の逆位置は、消耗と枯渇や。……あの戦艦の連中、向かい風に逆らって無理やり魔力と物資を浪費しながら進んどる。言うなれば、常に『ガス欠ギリギリ』で走ってる状態やわ」
うちはカードの絵柄をデコネイルで弾き、ニヤリと極悪な笑みを浮かべた。
「ええか、あんたら! うちらにはこの『特大の追い風』っちゅう最強の足がある! 真正面からやり合う必要は一ミリもあらへん! うちらの身軽な船で周りをチョロチョロ飛び回って、あいつらの魔力と大砲の弾を『無駄撃ち』させたれ!」
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「なるほど! 奴らを煽って、ガス欠に追い込むってわけですね!」
ガトーが悪人面で笑うと、三十の海賊団が一斉に帆の角度を調整し始めた。
彼らは海のプロフェッショナルや。追い風を完璧に味方につけ、重鈍な帝国戦艦の周囲をまるでアメンボのように滑り出していく。
『……なんだ!? 海賊どもめ、また群がってきたか! 蹴散らせ! 大砲を撃て!』
帝国戦艦の指揮官が苛立たしげに号令をかける。
ドォォォンッ! ドォォンッ!
重たい砲弾が海面を叩き割るが、三十隻のオカン・ユニオン艦隊は、圧倒的な機動力で戦艦の射程のギリギリ外側を、一定の距離を保ちながらグルグルと旋回しとるだけや。
「ほらほら! もっと撃ってきなはれ! 弾が全然当たってへんで!」
うちは拡声魔道具で、わざと相手の神経を逆撫でするように煽り倒した。
『ええい、ちょこまかと! 魔力炉の出力を上げろ! 向かい風ごと強引に突破するんだ!』
指揮官の怒声に焦りが見え始める。
向かい風の中で無理な砲撃と加速を繰り返せば、どうなるか。
数時間が経過した頃、帝国戦艦の煙突から上がっていた黒煙が、ブスブスと不完全燃焼の音を立てて急激に細くなり始めたんや。
「……静江さん! 敵の砲撃が止まりました! 船の速度も極端に落ちています!」
「せやろ! 燃料(魔力)と弾薬の使いすぎで、完全に『エンスト』起こしよったわ!」
うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、ここぞとばかりに号令をかけた。
「アレン! 海賊の兄ちゃんら! お客さんの車(船)が止まったで! さっさと乗り込んで、返品処理(拿捕)してきなはれ!」
「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!!」」」
三十隻の海賊船が追い風に乗って一気に距離を詰め、ガス欠で身動きが取れなくなった帝国戦艦に四方八方から接舷する。
動力を失った巨大な鉄の塊は、アレンの神速の剣と海賊たちの怒涛の乗り込みの前に、もはや手も足も出ないただのスクラップと同然やった。
一滴の味方の血も流すことなく、帝国の重武装艦隊は完全なる白旗を掲げた。
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「……やれやれ。計画性のない強引な運転は、いつか必ず痛い目見るんやわ」
拿捕した戦艦の甲板に降り立ち、うちは縛り上げられた帝国の将校たちを見下ろした。
「やりましたね、オカン! これでこの海域を塞いでいた帝国の邪魔者はいなくなりましたぜ!」
ガトーたちが歓喜の声を上げる中、うちは戦艦のさらに向こう側、ついに水平線の先に姿を現した「巨大な大地」へと目を向けた。
だが、その西の大地の沿岸部に広がっていたのは、緑豊かな未開のフロンティアなどではなかった。
「……なんや、これ」
遠目にも分かる。海岸線は無機質なコンクリートと鉄板で覆い尽くされ、空を突くような無数の巨大な煙突から、空を淀ませるドス黒い煙が延々と吐き出されている。
海の色も、澄んだ青ではなく、魔力廃液が混ざったような不気味な紫色に濁っていた。
「……これが、帝国の言う『開拓』の果て……。大地が、完全に死んでいる」
アレンが、怒りに震える声で呟く。
奴隷船の男が言っていた「巨大な搾取の工場」という言葉が、全く誇張ではなかったことが、この異様な光景から痛いほど伝わってきた。
「……他人の家を、ここまで好き勝手に汚しやがって」
うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ直し、その巨大なゴミ屋敷(西の大地)へ向かって、冷たい怒りを込めて言い放った。
「さぁ、オカン・ユニオンの皆の衆! ここから先は、前代未聞の『超特大・清掃作業』や! あの真っ黒な煙突ごと、帝国のブラック工場を根こそぎ解体しに行くでぇぇッ!」
自然の風向きと「魔力炉の燃費の悪さ」を突き、帝国戦艦を沈黙させたおばちゃんと海賊たち。
彼らの前に姿を現した絶望的なディストピアを舞台に、過去最大の「環境改善&帝国ぶっ潰し」の戦いが、今、静かに、そして確実に火蓋を切ったんや!
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