第176話 帝国戦艦への特売ダッシュと、拿捕した奴隷船の真実
魔の海域を抜け、新大陸へと続くコバルトブルーの海。
そこを我が物顔で航行していた神聖アルビオン帝国の巨大な戦艦と、それに曳航される数隻の不気味な船は、背後から迫り来る「異様な光景」にパニックに陥っとった。
「て、敵襲ゥゥッ! 後方より、所属不明の巨大艦隊が接近してきます!」
戦艦の見張り台に立つ帝国兵が、血相を変えて叫ぶ。
「所属不明だと!? この海域に我ら帝国軍に歯向かう馬鹿がいるはずが――な、なんだあのふざけた帆の柄は!」
帝国将校が双眼鏡を覗き込み、絶句した。
彼らを猛スピードで追撃してくる三十隻の大艦隊。その真っ黒な帆のド真ん中には、極彩色でド派手な『特大のヒョウ柄のライン』と、黄金の文字で『オカン・ユニオン』と描かれとったんや。
「野郎ども! 帝国のエリート連中に、綺麗に磨き上げた俺たちの船の速さを見せつけてやれ!」
「遅れをとるな! 特売ダッシュだぁぁッ!」
赤鯱や金鯱、ガトーたちが率いる三十の海賊団は、もう烏合の衆やない。
船底のフジツボを削ぎ落とし、クエン酸で磨き上げられた彼らの船は、水の抵抗を全く受けず、帝国の重鈍な戦艦に信じられない速度で肉薄していく。
「あいつら、完全に連携が組めとるな」
うちは旗艦の舳先に立ち、特大のゴミ拾いトングを肩に担いで、満足げにその光景を見下ろした。
右翼と左翼から海賊船が展開し、大砲の空撃ちと威嚇で帝国戦艦の砲門をすべて横へと引きつける。
そして、真正面が完全に「死角」になった瞬間。
「アレン! アーニャ! 今や! あの戦艦、まるごと『返品処理』してきなはれ!」
「了解しました! 神速のお掃除、開始します!」
アレンが海面を蹴り、西の大陸の長剣を抜き放ちながら、真正面から帝国戦艦の甲板へと単騎で斬り込んだ!
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「なっ!? 剣士が一人で乗り込んできたぞ! 撃てェッ!」
甲板の帝国兵たちが魔導銃を構えるが、遅すぎる。
「『刹那の観測』!」
アレンの瞳が青白く輝く。
彼の神速の剣は、一滴の血も流すことなく、兵士たちの魔導銃を次々と真っ二つに斬り裂き、返す刀の峰打ちで彼らの意識を刈り取っていく。
「オカンの邪魔をする奴は、私が海へ叩き落とすわ!」
アレンが作った道を通って、アーニャやガトーたち荒くれ者が雪崩れ込み、最新鋭の帝国戦艦は、あっという間に無血で制圧されてしもうた。
「……よっしゃ、お疲れさん。これで親機(戦艦)は完全に黙らせたな」
うちは戦艦の甲板に降り立ち、その後ろに太い鎖で曳航されている数隻の『不気味な船』へと歩み寄った。
タロットの『悪魔』と『ワンドの10』が示していた、過労と束縛の極致。
「……静江さん。この船から、尋常ではない負の気配がします。息が詰まりそうだ」
アレンが、曳航された船の分厚い鉄扉の前で、顔をしかめる。
「開けなはれ、アレン。中に詰め込まれてる連中、もう限界のはずや」
ガキンッ! とアレンが鉄扉の錠を斬り落とし、重い扉が開かれた。
その瞬間、船倉の中から、むせ返るような汗と排泄物の悪臭、そして絶望の呻き声が溢れ出してきた。
「……ひどい……。これが、帝国のやり方ですか……」
ランプの光が照らし出した船倉の内部。
そこには、人間扱いなど到底されていない、数百人もの人々が、狭い空間に折り重なるようにして太い鎖に繋がれとった。
エルフ、ドワーフ、獣人といった亜人たちが、生気のない虚ろな目でうちらを見上げる。
だが、アレンやガトーたちが一番衝撃を受けたのは、そこやなかった。
「……おい、嘘だろ。ここ……亜人だけじゃねえ。同じ人間まで、鎖に繋がれてるぞ……!」
ガトーが、震える声で指差した。
船倉には、借金で身売りされたのか、あるいは国に反逆した罪人なのか……アルビオン帝国と同じ『人族(人間)』の男女までもが、亜人たちと全く同じように家畜として繋がれ、痩せこけて倒れとったんや。
「種族適性法だの何だのと偉そうに言っておいて……結局は、自分たちと同じ人間すら、使い捨ての『部品』としか見ていないのか……!」
アレンが激しい怒りに顔を歪め、剣の柄をギリッと強く握りしめる。
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「……あんたら、よう我慢したな! もう大丈夫やで!」
うちは船倉の中にズンズンと踏み込み、アイテムボックスから大量の「レモン味」と「メロン味」の飴ちゃんを取り出して、鎖に繋がれた彼らの口に次々と放り込んでいった。
「今すぐその鎖、全部切ったるからな! 新大陸の開拓用かなんか知らんけど、あんたらをこれ以上、理不尽な労働で使い捨てになんかさせへんわ!」
飴の回復魔力で少しだけ生気を取り戻した彼らに、うちがそう力強く声をかけた、その時やった。
「……開拓、用……?」
鎖に繋がれていた人間の初老の男が、不思議そうに、そして自嘲するように乾いた笑いを漏らした。
「……お嬢さん、勘違いしている。……俺たちはつい先日、近くの島から無理やりこの船に乗せられたんだ」
「……え?」
うちの伸ばしかけた手が、ピタリと止まる。
「じゃあ、あんたらはこれからあの西の大地(新大陸)の開拓に……」
「違う。あんたたちが『新大陸』と呼んでいるあの西の大地は、未知のフロンティアなんかじゃない。……あそこはもう何年も前に帝国に完全に制圧されて、今じゃドス黒い煙を上げる、巨大な『搾取の工場』に成り果てているんだ」
男の言葉に、船倉全体が水を打ったように静まり返った。
「巨大な、工場……?」
「ああ。……この船の奥を見てみろ」
男が震える指で示した船倉のさらに奥。そこには、彼ら以上にボロボロで、もはや呼吸すら浅く、完全に廃人のようになった人々が繋がれていた。
「あいつらは、その工場で何年も限界まで魔力と体力を絞り尽くされ……もう『労働力(電池)』として使い物にならなくなったから、帝国本土へ『廃棄処分』されるために送り返されてきた連中だ。……俺たちは、その連中の『補充の部品』として、連れ去られたんだよ……」
新大陸という未知の希望は、すでに帝国に食い尽くされ、えげつない絶望のゴミ屋敷になっとったという事実。
うちは、自分が引いた『審判』の逆位置の意味を、ここに来てようやく完全に理解した。
(……過去の過ちの繰り返し。……そうか、あいつら、新大陸でカリカと同じことを『もうとっくに』完成させとったんや!)
「静江さん……。敵は、僕たちが想像していたよりも、はるかに巨大で、そして根深くあの西の大地を汚染しているようです」
アレンが、重苦しい声で呟く。
だが、その事実を知っても、うちの心に湧き上がったのは恐怖やない。
それを遥かに上回る、煮えくり返るような『オカンの激怒』やった。
「……上等やわ」
うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ直し、船倉の外、広大な西の大地が待つ海を、サングラス越しに鋭く睨みつけた。
「他人の家に勝手に入り込んで、ゴミ撒き散らして、使えんくなったらポイ捨てする……。おまけに足らんようになったら近所からまた人攫ってくるやなんて、そんな腐った地上げ屋、おばちゃんが絶対に許さへんで」
うちは三十隻の艦隊の全員に向かって、腹の底から怒鳴りつけた。
「ええか、あんたら! 予定変更やない! うちらの向かう先は、西の大地の『大掃除』や! 帝国の巨大なゴミ屋敷、まるごと全部、漂白しに行くでぇぇッ!」
勘違いから始まった特売ダッシュは、西の大地の恐るべき真実を知ったことで、明確な「帝国ぶっ潰し(大掃除)」の聖戦へと昇華された。
オカン・ユニオンの三十隻のヒョウ柄艦隊は、怒りの炎を帆に孕み、巨大なブラック企業が支配する西の大地へと向かって、さらに加速していくんや!
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