第173話 魔の海域の真の主と、超特大の海洋清掃
海賊たちの家族が住む島々を、オカン流の『労働基準法』でピカピカの要塞都市へと作り変えてから数日。
島には、略奪や暴力に怯えることのない、温かい平和な空気が流れとった。
「おおぉっ! アレンの兄ちゃん、すげぇ! 井戸の泥上げが一瞬で終わったぞ!」
「ガトーのおじちゃんも、屋根の修理ありがとう!」
子供たちの笑い声が響く中、うちは縁側に座って、綺麗に舗装された道を満足げに眺めとった。
「……うんうん。やっぱり、生活環境が整うと、人間の顔つきはパッと明るくなるもんやな」
だが、その平和な日常は、突如として「大自然の猛威」によって引き裂かれた。
ゴゴゴゴゴゴォォォォ……ッ!!!
地面が激しく揺れ、島の周囲を取り囲んでいた穏やかな海が、墨を流したようにドス黒く変色し始めたんや。
「な、なんだ!? 地震か!?」
「空を見ろ! さっきまで晴れていたのに、真っ黒な雲が……!」
海賊たちが空を指差す。
太陽の光が完全に遮られ、横殴りの暴風雨が島を叩きつける。そして、沖合の海面が不自然に大きく盛り上がり、巨大な水柱が天を衝くように吹き上がった。
「……静江さん! 海から、信じられないほど巨大な魔力の塊が……!」
アレンが剣の柄に手をかけ、血相を変えて叫ぶ。
水柱が晴れた後、そこに姿を現したのは、うちらの三十隻の艦隊をすべて飲み込んでも余りあるほど巨大な、山脈のような青白い鱗を持つ『超巨大な海竜』やった。
「ひぃぃぃッ!! 魔の海域の『真の主』だぁぁッ!」
案内役のガトーが、顔面を蒼白にしてその場にへたり込む。
「真の主、やて?」
「へ、へい! あの伝説の海賊王が、自らの強大な怨念で海底に押さえつけていた、この海域そのものの荒ぶる自然の化身です! 海賊王が成仏しちまったせいで、封印が解けて暴走を始めやがったんだ!」
ギャオオォォォォォンッ!!!
リヴァイアサンが悲鳴のような咆哮を上げると、海に巨大な『大渦』が発生し、島々を飲み込もうとする大津波が迫ってきた。
「終わりだ……! あんな大自然の化け物、大砲を何百発撃ち込んでも傷一つつけられねぇ!」
赤鯱や金鯱の船長たちも、絶望に顔を歪めて後ずさる。
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「……アレン、アーニャ。ちょっと視せてもらうで」
うちはパニックになる海賊たちを尻目に、パイプ椅子を広げてどっかと座り、アイテムボックスから特大の水晶玉を取り出した。
リヴァイアサンの咆哮が響く中、両手で水晶に触れ、視界を切り替える。
水晶越しに視えたのは、「凶暴な大自然の怒り」……やなかった。
リヴァイアサンの巨大な身体、その鱗の隙間やヒレの付け根に、何百年も前からこの海域に沈んでいた無数の『海賊船の残骸』や『錆びた太い鎖』、そして大量の『漁網』が、ガチガチに絡みついて食い込んどったんや。
水晶を通じて、リヴァイアサンの『身体の隙間にゴミが食い込んで取れない、むせ返るような不快感と痛み』が、うちの精神に直接流れ込んでくる。
途端に、激しい精神的疲労が押し寄せ、視界の端にザザッとノイズが走った。
一瞬だけ、前世の大阪で、年末の大掃除の時にお風呂の排水溝に何ヶ月分もの髪の毛やヘドロが詰まって、汚水が逆流してきたのを見た時の、あの「どうしようもない気持ち悪さと絶望感」の記憶が重なって見えたわ。
(……あー、わかるで。身体の隙間にゴミが詰まったまま取れへんの、ほんまに気持ち悪いしイライラするんやんな……)
うちは、海竜の痛みに引っ張られそうになる意識を、アイテムボックスから取り出した「ハチミツ味」の飴ちゃんを奥歯でガリッと噛み砕くことで、無理やり現在に引き戻した。
濃厚な甘さが脳を叩き起こし、幻覚のノイズを散らす。
「……あちゃー。これは痛いわ」
うちは水晶玉から手を離し、大きな溜息をついた。
「静江さん、どういうことですか? あの海竜、島を沈めようとしているのでは?」
「アレン、あんたらにはあれが暴れてるように見えるんか。……おばちゃんから見ればな、あれは『身体にゴミが絡まって、痛くて泣き喚いてるだけの迷子』やわ!」
「……えっ?」
うちは立ち上がり、拡声魔道具を構えて、絶望している三十の海賊団の全員に向かって腹の底から怒鳴りつけた。
「あんたら! いつまでヘタれとんねん! 海賊王のせいにしてるけどな、あの海竜に絡みついてるゴミは、あんたらやあんたらの先祖が、長年この海に不法投棄してきた船の残骸やろが!」
「なっ……!?」
「排水溝に髪の毛やらゴミやら流しっぱなしにしてたら、いつか逆流して溢れ出すんは当たり前や! あんたらのツケが回ってきただけやで!」
うちの「排水溝の詰まり理論」に、海賊たちは言葉を失う。
「自分らで出したゴミは、自分らで片付ける! それが『オカン・ユニオン』の新しい社則やろ! あのデカい迷子の身体を、うちら全員でピカピカに洗ってやるで!」
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「……やれるのか? 俺たちに、あの大自然の化身を救うことなんて……」
ガトーが震える声で尋ねる。
うちは、アイテムボックスからタロットカードを取り出し、バシッと一枚、強風の中で展開した。
出たのは、『戦車(The Chariot)』の正位置や。
「一人や二人の力じゃ無理やわな。……でも、今のあんたらは『一つの会社』やろが! 三十の船が力を合わせれば、どんなデカい汚れかて絶対に落とせる! カードも『迷わず前進せよ』って言うとるで!」
オカンの激と、確かな占い。
そして何より、自分たちの家族が住む島を守らなければならないという強い責任感が、海賊たちの心に火をつけた。
「……おうよ! オカンに綺麗にしてもらったこの島を、波に沈められてたまるか!」
「赤鯱一家、出撃の準備だ! 大砲には弾じゃなくて、銛とロープを装填しろ!」
「金鯱一家も続くぜ! 船の推力で、あの化け物に絡みついた鎖を引きちぎってやる!」
数十分後。
荒れ狂う暴風雨と巨大な渦潮が渦巻く魔の海域のド真ん中へ、真っ新しい『ヒョウ柄の帆』を掲げた三十隻の巨大艦隊が、一糸乱れぬ完璧な陣形で突入していった。
「アレン! アーニャ! うちらは旗艦で海竜の真正面に突っ込むで! 狙うは、首元に一番深く食い込んでる『特大の呪いの鎖』や!」
「「了解しました!!」」
烏合の衆だった海賊たちが、おばちゃんの指揮のもとで「一つの巨大な軍隊(清掃業者)」として大自然の驚威に立ち向かう。
魔の海域を次なるステージ(新大陸)へと進めるための、オカン・ユニオン最大の『超特大・海洋清掃作戦』が、今、激しい波音とともに幕を開けたんや!
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