第172話 海賊島の凱旋と、オカン流・労働基準法
三十隻のピカピカに磨かれた船と、ド派手なヒョウ柄の帆。
『オカン・ユニオン』の統一ユニフォーム(腕章やバンダナ)を身につけた海賊たちの大艦隊が、彼らの家族が待つ「海賊諸島の島々」へと、順に凱旋していった。
「おおぉぉっ! 父ちゃんが帰ってきたぞ!」
「でも、なんだあのピカピカの船は……! 帝国の軍艦か!?」
港には、帰りを待っていた海賊の家族たち――女子供や老人たちが集まっていたが、見違えるように清潔になった船団を見て、敵襲かと怯えとった。
「おうい! 帰ったぞぉっ! 今日から俺たちは、真っ当な『会社員』だ!」
赤鯱や金鯱の船長たちが、甲板から誇らしげに手を振る。
家族たちは、自分の夫や父親が無事に、しかもこれまでにないほどイキイキとした顔で帰ってきたのを見て、泣きながら安堵の声を上げた。
……やけど。
船を降りて海賊島に足を踏み入れたうちは、その街の惨状を見て、特大のサングラスの奥で眉をひそめた。
無法地帯の島やからしゃあないんかもしれんけど、道にはゴミが散乱し、家々は潮風で腐りかけ、共同井戸の周りには不衛生な泥水が溜まっとる。子供たちの服はボロボロで、みんな栄養失調みたいに痩せこけとった。
「……ガトー。あんたら、いつもこんなゴミ屋敷みたいな島に、自分の家族を住ませとったんか?」
うちが低い声で尋ねると、ガトーは頭を掻きながらバツが悪そうに答えた。
「へ、へい……。海賊の掟じゃ、『自分の身は自分で守る』のが基本でして。島を綺麗にするとか、共同で何かを作るなんて発想は、俺たちにはねえんです」
「アホか!!」
うちの怒声が、海賊島にビリビリと響き渡った。
「外でどんなにイキって戦ってもな、帰ってくる家(実家)がこんなにボロボロで、家族が安心して眠れへんような環境で、何が『海の男』や! 何が『家族のため』やねん!」
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うちはズンズンと街の中心にある広場へ向かった。
そこには、海賊たちが血で署名したという、おどろおどろしい『海賊の掟』が刻まれた巨大な石碑が立っとった。
「弱肉強食、裏切りは死、奪ったもん勝ち……。なんやこの中二病みたいなルールは。こんなもんがあるから、いつまで経っても島が綺麗にならへんのや!」
うちはアイテムボックスからタロットカードを取り出し、石碑の前にバシッと一枚展開した。
出たのは、『正義(Justice)』の正位置。
公平、均衡、そして「正しい法」の暗示や。
「アレン! アーニャ! このダサい石碑、真っ二つにカチ割りなはれ!」
「「了解しました!!」」
アレンの長剣とアーニャの双剣が閃き、海賊たちの恐怖の象徴であった石碑が、ガシャァァン! と音を立てて粉々に砕け散った。
広場に集まっていた家族たちが「ひぃっ!」と息を呑む中、うちはパイプ椅子を広げてその上に立ち上がり、拡声魔道具を構えた。
「ええか、島の皆の衆! 今日からこの島のルールは、うちが新しく書き換えるで! 名付けて『オカン・ユニオン労働基準法』や!」
うちはメガホン越しに、容赦なく新しい掟(ホワイトな社則)を叩きつけた。
「第一! 略奪は禁止! これからは正規の『運送・護衛業』で真っ当な給料を稼ぐこと!
第二! 完全週休二日制! 家族と過ごす時間を絶対に確保すること!
第三! 島のインフラ整備は全員の義務! 毎週日曜の朝は、全員で町内会の大掃除や!」
これまでの常識を覆す「超ホワイトな掟」に、海賊も家族もポカンと口を開けとる。
「……で、でもオカン。略奪しないで、本当に俺たち食っていけるのか……?」
海賊の一人が不安そうに呟いた。
うちはアイテムボックスの奥深くに両手を突っ込んだ。
「心配すな! うちらには、東と西に特大の『取引先(家族)』がおるんや! その準備として、まずは島の子供らとジジババに、これ食わせなはれ!」
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ドサドサドサッ!
うちは大和郷や魔族領で仕入れてきた大量の新鮮な野菜、果物、そして無限に出せる「メロン味」と「レモン味」の飴ちゃんを、広場に山のように積み上げた。
「ほら、ボサッとしてんと、子供らに配りなはれ! 飯食わな、町内会の掃除もできへんで!」
海賊の家族たちは、恐る恐る配られた飴や果物を口に含んだ。
「……!! あ、甘い……! それに、お腹がポカポカして、力が湧いてくるよ!」
「ゲホッ、ゴホッ……あれ? 長年患っていた咳が、嘘のように止まったわ……!」
島のあちこちで、栄養失調や病気に苦しんでいた子供たちや老人たちが、嘘のように元気を取り戻し、満面の笑みを浮かべ始めた。
その光景を見た海賊たちの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「……俺たちの家族が……こんなに笑ってる……」
「略奪の金で安い酒を飲むより、ずっと……ずっと嬉しいぜ……!」
彼らは自分たちの「守るべきもの」の本当の価値を、飴ちゃんの甘さとともに骨の髄まで理解したんや。
「……オカン! 俺たち、やります! この島を、家族が安心して暮らせる、最高の街にしてみせます!」
赤鯱の船長が鍬を握りしめ、他の海賊たちも次々と竹箒やハンマーを手に取った。
そこからは、三十の海賊団による、かつてない規模の「特大・島のリフォーム」が始まった。
井戸のヘドロはアレンの神速のモップが掻き出し、壊れた家屋は海賊たちの腕力で次々と建て直されていく。
殺伐としていた海賊島は、オカンの労働基準法と愛によって、たった数日で活気と清潔さに満ちた『最強の要塞都市(社宅)』へと見事な変貌を遂げたんや。
「……よし。これでいつでも、東西の家族を迎え入れられるな」
うちは、綺麗になった街並みを見下ろしながら、特大トングを肩に担いで満足げに笑った。
だが、この平和な島の地下深く、魔の海域そのものの「淀み」が、海賊王の封印が解かれたことで静かに、そして凶暴に覚醒し始めとることに、うちらはまだ気づいてへんかったんや。
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