第171話 黄金の羅針盤と、オカン・ユニオンの旗揚げ
魔の海域の最深部で「伝説の海賊王」をオカン流の断捨離で成仏させ、新大陸への正確な航路を示すキーアイテム『黄金の羅針盤』を手に入れたうちら。
だが、うちはその羅針盤をアレンにポイッと預けると、歓喜に沸く三十の海賊団を甲板からジロリと見渡した。
「……静江さん? 羅針盤を手に入れたのに、ずいぶんと渋い顔ですね」
アレンが黄金の算盤と羅針盤を抱えながら、不思議そうに首を傾げる。
「当たり前や。羅針盤があるからって、すぐ新大陸に行けるわけやない。うちらには、東の大和郷と西のルミナから、特大の『家族(援軍)』が合流してくるんやで」
うちは特大のサングラスを押し上げ、特大のゴミ拾いトングで海賊たちの船をビシッと指差した。
「よう見なはれ。赤鯱の船は真っ赤でええけど、甲板にまだ昨日の晩飯の魚の骨が転がっとる。黒海亀の船は装甲がゴツいけど、カビと潮風で色がくすんどる。……三十の海賊団が一つになった言うても、船も服装も衛生観念も、見事なまでにバラバラやないか!」
うちの怒声に、海賊たちがビクッと肩を揺らす。
「東西の家族が合流した時、あんたらがこんなどんくさい烏合の衆のままやったら、『なんや、オカンの会社はこんな汚い下請けしかおらんのか』って笑われるで! アルビオン帝国の本隊が来たら、見た目のプレッシャーだけで負けてまうわ!」
うちはパイプ椅子の上に立ち上がり、拡声魔道具を口に当てて、海域全体に響き渡る声で宣言した。
「ええか、あんたら! 今日から数日間は、新大陸への出航準備やない! この三十隻の船を、一つのピカピカな『会社』として整えるための、超特大の大掃除&大改装週間や!」
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「大掃除ぃぃッ!?」
海賊たちの情けない悲鳴が上がったが、オカンの決定は絶対や。
うちはアイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込み、これまでの旅で買い溜めておいた『特製重曹ペースト』『クエン酸』、そして大量の『竹箒』と『タワシ』を、各船にドサドサッと配給した。
「ガトー! あんたは案内役(営業)の経験活かして、各船の掃除の進捗チェックや! サボってる奴がおったら、尻叩きなはれ!」
「へいっ! オカンの名にかけて、一粒の埃も残しやせん!」
元悪徳ボスのガトーが、嬉々として見回り役を引き受ける。
「アレン! アーニャ! あんたらは船底にこびりついたフジツボや水垢を、クエン酸と神速の剣技で一気に削ぎ落としなはれ! 船のスピードが段違いに上がるで!」
「了解しました! 船底の抵抗、すべてゼロにします!」
「任せな、オカン! 野郎ども、デッキブラシを持てぇ!」
魔の海域のド真ん中で、三十隻の海賊船による前代未聞の「大清掃作業」が始まった。
最初は「なんで海賊が床磨きなんか……」と文句を言っていた荒くれ者たちも、うちが配る『イチゴ味』と『メロン味』の飴ちゃんを舐めると、嘘のように目を輝かせてタワシを握りしめた。
「……すげえ! 飴を舐めながら磨くと、無限に床が磨けるぞ!」
「見てみろ! 船首像のドクロが、鏡みたいにピカピカに光ってやがる!」
飴ちゃんの魔力と、綺麗になっていく自分の船(職場)を見る達成感が、彼らの「職場の環境改善」へのモチベーションを爆発的に高めていく。
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数日後。
潮風とカビで薄汚れていた三十隻の海賊船は、新造船のようにピカピカに磨き上げられ、海面に美しい姿を映しとった。
「……ふぅ。これで『土台(下地)』は完璧やな。次は、仕上げの『お化粧』や」
うちは満足げに頷き、再びアイテムボックスに手を突っ込んだ。
「お化粧……? 静江さん、船にペンキでも塗るんですか?」
アレンが尋ねると、うちはニヤリと極悪な笑みを浮かべた。
「アホ。組織っちゅうのはな、『見た目の統一感』が一番のプレッシャーになるんや。敵から見て『うわ、あいつら全員同じヤバいもん身につけてる』って思わせたら勝ちなんやわ」
バサァァァッ!
うちが甲板に広げたのは、転生した時からずっとボックスの奥で眠っていた、大量の『ヒョウ柄のシャツ』や『ド派手なスパンコールのドレス』といったギャル服の山やった。
「アーニャ! ガトー! この服を全部ハサミで切り開いて繋ぎ合わせて、三十隻の船の帆のド真ん中に、特大の『ヒョウ柄のライン』と『オカン・ユニオンの文字』を縫い付けなはれ! 余った端切れは、全員の腕章やバンダナにするんや!」
「ひ、ヒョウ柄の帆!? しかも服を切り裂いて!? 姐さん、さすがにそれは悪目立ちしすぎるんじゃ……!」
ガトーが冷や汗を流すが、うちは特大トングで彼の頭をペシッと叩いた。
「目立ってナンボや! リメイク(再利用)で特大の看板作るのがオカン流やろが! アルビオン帝国の真っ白な軍艦なんか、このド派手な帆を見せただけでドン引きして逃げていくわ!」
海賊たちは文句を言いながらも、綺麗になった甲板に座り込み、裁縫道具を手にしてチクチクと**服の切れ端**を縫い合わせ始めた。
武闘派の赤鯱の船長も、見栄っ張りの金鯱の船長も、みんなでお揃いの「ヒョウ柄のバンダナ」を頭に巻き、少し照れくさそうに、けれど嬉しそうに笑い合っとる。
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そして、ついにその時が来た。
朝陽が昇る魔の海域。波間に整然と並んだ三十隻の大艦隊が、一斉に新しい帆を張り上げた。
バサァァァァッ!
黒や赤の帆のド真ん中に、強烈な自己主張を放つ「特大のヒョウ柄のライン」と、黄金の文字で『オカン・ユニオン(極)』と刻まれた統一の旗が、海風を孕んで威風堂々とはためいた。
もはや、いがみ合っていた三十の烏合の衆の姿はどこにもあらへん。
そこにあるのは、圧倒的な清潔感と、異様なまでの統一感を放つ、一つの強固な「海の商社(大軍隊)」の姿やった。
「……見事ですね。これほどまでに統制の取れた艦隊、ルミナの正規軍でもお目にかかれませんよ」
アレンが、三十隻の艦隊を見渡しながら感嘆の息を漏らす。
「せやろ? やっぱり組織は、見た目からピシッと決めなあかんわ」
うちは拡声魔道具を構え、艦隊の全員に向かって叫んだ。
「よう聞きなはれ、あんたら! これで船と制服(見た目)は完璧や! でもな、会社っちゅうのは中身がしっかりしてへんと、すぐ腐るんや!」
「中身……ですか?」
アーニャが首を傾げる。
「せや! 次は、あんたらの家族(女子供や老人)が待つ『島々』に戻って、島の無法な掟を、超ホワイトな『労働基準法』に書き換えるで! 家族が安心して暮らせる場所を作ってこそ、男は外で思いっきり戦えるんやからな!」
「「「おおおおおぉぉぉぉぉッ!!!」」」
自分たちの家族の暮らしまで保証してくれるオカンの宣言に、海賊たちの士気は天を衝くほどに爆発した。
ピカピカに磨かれた三十隻のヒョウ柄艦隊が、いよいよ真の拠点作りへ向けて、海賊島への凱旋航海を始めたんや!
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