第170話 海神の墓場と、伝説の海賊王の断捨離
ゴミ船(泥ネズミ一家)をハッカ水スプレーでピカピカに磨き上げたことで、海賊諸島に散らばっていた「三十の海賊団」は、ついに一隻残らず『オカン・ユニオン』の傘下に入った。
無数の海賊船が連なるその光景は、もはや一つの国家の海軍すら凌駕する、圧倒的な大艦隊や。
だが、うちらが「新大陸」へ向けて出航しようとした時、案内役のガトーや、赤鯱・金鯱の船長たちが、揃って青ざめた顔で立ち塞がった。
「し、静江の姐さん! 新大陸へ向かうには、この魔の海域の最深部……『海神の墓場』と呼ばれる海域を抜けなきゃならねぇんです!」
「せやな。ほな、さっさとそこ通って行こか」
「む、無理です! あそこには、何百年も前にこの海を統べた『伝説の海賊王』の巨大な亡霊船が停泊していて……近づく生者の船を、嫉妬と怨念でことごとく海の底へ引きずり込むんです! どんな腕利きの海賊も、あそこだけは絶対に近寄らねぇ!」
ガトーたちがガタガタと震えながら必死に止める。
だが、うちは特大のサングラスを押し上げ、鼻でフンと笑った。
「アホか。死んだ大先輩が、いつまでも後輩の道を塞いで威張ってたらアカンやろ! それはただの『老害』や! おばちゃんが、その海賊王とかいうおっさんの『遺品整理』、きっちりやったるわ!」
うちの号令で、オカン・ユニオンの大艦隊は、恐る恐る、魔の海域の最深部へと船を進めた。
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やがて、海上の空気が急激に冷え込み、濃い乳白色の霧が立ち込めてきた。
「……静江さん。前方の霧の中に、信じられないほど巨大な気配があります。あれは……山ですか?」
アレンが剣の柄に手をかけ、息を呑む。
霧が晴れた先に現れたのは、うちらのガレオン船の何十倍もある、島のように巨大な『亡霊船』やった。
朽ち果てたマストには青白い燐光が灯り、船の周囲には、これまで沈められてきた無数の船の残骸が、不気味な渦を巻いて漂っとる。
『……生者の匂いがする。我の眠りを妨げる、愚かなる者どもよ……!』
腹の底に響くような重低音とともに、巨大な亡霊船の甲板に、黄金の王冠を被った「巨大な骸骨の亡霊」が姿を現した。
『我はかつてこの海を統べた、伝説の海賊王バルバロッサ! 新大陸へ至る道と、我が残した莫大な財宝が欲しくば、その命を懸けて力を示してみせよぉぉッ!』
海賊王の怨念を含んだ咆哮に、海が激しくうねり、うちらの傘下に入った海賊たちが「ひぃぃッ!」と甲板にへたり込んだ。
「……アレン、アーニャ。ちょっと視せてもらうで」
うちはパイプ椅子を広げて座り、アイテムボックスからタロットカードを取り出して、バシッ、バシッと展開した。
出たのは、『皇帝(The Emperor)』の逆位置と、『隠者(The Hermit)』の逆位置や。
「なんや。偉そうに吠えとるけど、ただの『過去の栄光にしがみついとる、寂しがり屋のおっちゃん』やないか」
うちは拡声魔道具を口に当て、海賊王の亡霊に向かって、腹の底から怒鳴りつけた。
「おーい! そこの骨のおっちゃん! ええ歳して、いつまでも現役ぶってんと、さっさと後進に道譲らんかい!!」
『……な、何!?』
「力で示せやて? アホか! 死んでから財宝抱え込んでも、あの世には持っていけへんのやで! そんなガラクタと一緒に海に引きこもっとるから、魂までカビ生えるんや! 断捨離や、断捨離!!」
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伝説の海賊王に向かって放たれた、まさかの「断捨離勧告」。
『き、貴様ぁぁッ! 我の永遠の帝国を、ガラクタと呼ぶか! 沈め! 海の藻屑となれぇぇッ!』
激怒した海賊王が、周囲に漂う「船の残骸」を操り、巨大なゴミの波となってうちらの艦隊に襲いかかってきた。
「アレン! アーニャ! あの飛んでくるゴミ、全部『不用品回収(峰打ち)』や!」
「「了解しました!!」」
アレンの神速の剣が、飛来するマストや大砲の残骸を次々と真っ二つに斬り裂き、アーニャの双剣がそれを海へと叩き落としていく。
「赤鯱! 金鯱! あんたらもビビってんと、自分らの大先輩に『俺らはこんなに立派になりました』って、ええとこ見せたらんかい!」
「お、おおぉぉッ! 伝説の海賊王に、俺たちの成長を見てもらうんだ! 撃てェェッ!」
うちの檄で正気を取り戻した三十の海賊団が、一斉に亡霊船に向かって大砲(空砲)を撃ち鳴らし、勇ましい鬨の声を上げた。
生きた海賊たちの「熱気」と「活気」が、死者の冷たい怨念を強引に押し返していく。
「……さて、仕上げや!」
うちは、アイテムボックスから「オレンジ味」と「リンゴ味」の飴ちゃんを取り出し、すり鉢で粉々に砕いて、アレンのモップ槍の先端にこすりつけた。
「アレン! あの海賊王の王冠……いや、あの『意地』を、そのモップで思いっきり叩き落としてきなはれ!」
「はいッ! 過去の呪縛、洗い流します! はあああッ!」
アレンが海面を蹴って跳躍し、海賊王の巨大な骸骨の額めがけて、聖水と飴の魔力がこもったモップ槍を全力で叩き込んだ。
バキィィィンッ!!
心地よい破裂音とともに、海賊王の纏っていた「過去への執着」という重たい怨念の殻が、飴の魔力によってスゥッと溶けていった。
『……あ……。おお……。そうか……』
海賊王の姿が、恐ろしい骸骨から、生前の「海を愛し、自由を愛した冒険家」の誇り高い姿へと戻っていく。
『……フッ。まさか、ただの女の説教と、この若者たちの熱気で、己の愚かさに気づかされるとはな。……私は、海を渡る彼らが羨ましくて、ただ駄々をこねていただけだったのだな』
海賊王は、清々しい笑顔を浮かべ、うちらの艦隊を、そして静江を眩しそうに見つめた。
『……見事だ、若き者たちよ。そして、最強のオカンよ。……私の残した遺産、すべてお前たちに託そう。新たな時代は、お前たちが切り拓け!』
海賊王の亡霊は、満足げに大きく頷くと、巨大な亡霊船とともに、キラキラとした光の粒となって、朝日が昇る空へと成仏していった。
そして、彼が消えた後の海面には、新大陸への複雑な航路を正確に示す『黄金の羅針盤』が、ポツンと残されとったんや。
「……よっしゃ! これで新大陸への切符は手に入れたで!」
うちは、海から拾い上げた黄金の羅針盤を高く掲げ、艦隊の全員に向かって叫んだ。
「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!!」」」
三十の海賊団が、涙を流しながら歓喜の雄叫びを上げる。
だが、うちは歓喜する彼らのバラバラな船や服装を見て、小さく溜息をついた。
「……とは言え、このバラバラの烏合の衆のままやと、アルビオン帝国の本隊が来たら一瞬でボコボコにされるわな。羅針盤は手に入れたけど、まだ『準備』が足りへんわ」
「静江さん、準備とは?」
アレンが首を傾げると、うちはニヤリと笑った。
「決まっとるやろ! 東西の家族(援軍)を迎え入れる前に、この三十の海賊団を本物の『一つの会社』としてピカピカに鍛え上げるんや! 海の掃除は、まだまだこれからやで!」
伝説の海賊王を成仏させ、新大陸への羅針盤を手に入れたおばちゃん。
いよいよ、荒くれ者たちを「最強の正規軍」へと育て上げるための、オカン流の『大組織改革』が幕を開けようとしとったんや!
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