第168話 赤鯱と金鯱の共闘と、帝国巡回艦隊のお掃除
「借金地獄」に陥っていた金鯱一家を『正規の運送業者(ホワイト企業)』として傘下に引き入れ、うちらの『オカン・ユニオン』の艦隊は、ついに十隻を超える巨大な海賊連合軍となっとった。
そんなうちらが次なる島へ向かおうとした時、海図を睨んでいた案内役のガトーが、顔色を変えて叫んだ。
「姐さん! 前方の海域から、嫌な砲撃音が聞こえやす! あれは海賊同士の争いじゃねえ……アルビオン帝国の『巡回艦隊』が、この辺りの島を荒らし回ってる音だ!」
「帝国の巡回艦隊やと? なんであいつらが、こんな魔の海域の奥深くまで入り込んで来とるんや」
うちが特大のサングラスを押し上げて目を凝らすと、遠くの波間に、純白の帆を張り、最新鋭の大砲をズラリと並べたアルビオン帝国の軍艦が五隻、我が物顔で進んでくるのが見えた。
「……静江さん。以前助けた王都の貴族が言っていた通り、帝国は新大陸への航路を独占しようと焦っているのでしょう。海賊たちを力でねじ伏せ、この海域の支配権を奪うつもりです」
アレンが剣の柄に手をかけ、鋭い視線を向ける。
「なるほどな。人の庭に土足で踏み込んで、好き勝手荒らし回るなんて、とびきりマナーの悪い客やないか」
うちはアイテムボックスから『拡声魔道具』を取り出し、甲板の舳先に立った。
「おーい! 野郎ども! うちらの新しいシマ(海域)で、帝国の連中がデカい顔しとるで! オカン・ユニオンの初陣や! あいつら、きっちりお掃除して海に追い返したるで!」
「「「応おおぉぉぉぉぉッ!!」」」
オカンの号令と共に、海賊たちの怒号が海に響き渡った。
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「一番槍は俺たち『赤鯱一家』がもらうぜ! 幽霊船から救ってくれたオカンの恩、ここで返すんだ! 野郎ども、大砲の用意だ!」
武闘派の赤鯱の船長が、真っ赤な帆の船の甲板で刀を振り回して吠える。
だが、その横から猛スピードで並走してきたのは、金ピカの装飾が施されたド派手なガレオン船やった。
「抜け駆けすんじゃねえぞ、赤鯱! この戦いは、俺たち『金鯱一家』が正規の運送業者(ホワイト企業)として働くための初仕事だ! 金ピカの船首像で、帝国の船の横っ腹に風穴を開けてやる!」
「あぁん!? お前らみたいな見栄っ張りの借金まみれに、帝国の軍艦が沈められるかよ! お前こそ、また飯食えなくて腹鳴らしてんじゃねえのか!」
「うるせえ! オカンの『固定給』と『福利厚生』のおかげで、今は毎日肉食ってんだよ! お前らの大砲より、俺たちの突撃の方が速いぜ!」
赤鯱と金鯱の船長同士が、船を並走させながら拡声器越しに口喧嘩を始めよった。
「……なんやあいつら、敵が目の前におるのに身内で喧嘩しとるやんか」
うちが呆れ顔でメガホンを下ろすと、ガトーが横から苦笑いしながら教えてくれた。
「姐さん、あの二人、元々は同じ『鯱一家』っていう大きな海賊団で育った兄弟分だったんですよ。武闘派の赤鯱と、見栄っ張りの金鯱で方針が合わなくて喧嘩別れしたんですが……オカンのおかげで、また同じ組織に戻っちまったんで、昔の腐れ縁が再燃してるんでさぁ」
「なるほどな。ええ歳したおっさんが、兄弟喧嘩なんかして……」
うちはメガホンを再び構え、二隻の船に向かって腹の底から怒鳴りつけた。
「こらーッ! あんたら、喧嘩する暇があったら協力しなはれ! どっちが強いかやのうて、どっちも力を合わせて帝国の軍艦を沈めんかい! 見事沈めた方には、今夜の晩飯、特大ハンバーグのトッピングつけたげるわ!」
「「特大ハンバーグ……!?」」
赤鯱と金鯱の船長の声が、綺麗に重なった。
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「へへっ……聞いたかよ兄弟! オカンの特大ハンバーグだ!」
「ああ! 昔、親父が死んで二人で腹空かせてた頃を思い出すぜ! ……いくぞ、赤鯱! 俺たちが帝国の砲撃を引きつける! お前らはその隙に、死角から大砲をブチ込め!」
「任せとけ、金鯱! 見栄っ張りの特攻、見せてみろや!」
二人の船長の息は、喧嘩していたのが嘘のようにピッタリと合った。
金鯱一家の金ピカの船が、帝国の軍艦の正面にわざと姿を晒し、派手な動きで敵の砲撃をすべて引き受ける。
『なんだあの悪趣味な船は! 沈めろ! 撃てェッ!』
帝国軍の砲弾が金鯱の船の周囲に水柱を上げるが、分厚い装甲と見事な操舵技術でギリギリ躱していく。
そして、帝国軍の砲門がすべて金鯱の船に向いた、その一瞬の死角。
「今だ! 撃てェェェッ!!」
赤鯱一家の船が、波の陰から帝国軍の側面にピタリと張り付き、至近距離からありったけの大砲を一斉射撃した!
ドゴォォォォンッ!!
帝国の最新鋭の軍艦の装甲が、兄弟分の完璧な連携攻撃によって、見事に木端微塵に粉砕されたんや。
「よっしゃ! ええコンビネーションやないか!」
うちは甲板で手を叩いて喜んだ。
「僕たちも続きます! 帝国の船の帆柱、すべて斬り落とします!」
アレンが『刹那の観測』の神速で敵船へ飛び移り、黒海亀一家や他の海賊たちも、オカンの号令のもと、怒涛の勢いで帝国軍へと襲いかかっていく。
数十分後。
海賊諸島を荒らし回っていたアルビオン帝国の巡回艦隊五隻は、一隻残らず白旗を上げ、ボロボロになって降伏した。
「……ふぅ、ええ運動になったな。あんたら、今夜は約束通り特大ハンバーグやで!」
「「うおおぉぉぉッ! オカン、最高だぜェッ!」」
赤鯱と金鯱の船長が、泥だらけの甲板で肩を組みながら歓喜の涙を流しとる。
かつて反目し合っていた海賊たちが、おばちゃんという「確固たるオカン(中心)」を得たことで、帝国軍すら恐れぬ最強の「家族」へと生まれ変わりつつあった。
そして、この「オカン・ユニオンが帝国の正規艦隊を無傷で打ち破った」という特大の戦果は、波に乗って海賊諸島全域へと一瞬にして広まっていった。
「……静江さん。どうやら、僕たちが島を巡るまでもなく、あちらからやって来るようですよ」
アレンが、水平線を指差して微笑む。
そこには、帝国の脅威に怯え、あるいは厄介な呪いや悩みを抱えた残りの海賊団の船が、「俺たちもオカンの組合に入れてくれ!」と、白旗ならぬ『特売待ちの列』を作って、続々と集結し始めとったんや!
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