第167話 見栄っ張りのローン地獄と、オカン流・ビジネスモデル転換
お好み焼きの「粉もん理論」で、いがみ合っていた双子の海賊(双頭の海蛇一家)を仲直りさせ、丸ごと傘下に引き入れたうちら。
ますます巨大になった『オカン・ユニオン』の艦隊は、ガトーの案内で次なる島へと到着しとった。
「姐さん、あそこに停泊してるのが、次のターゲット『金鯱一家』の船ですぜ。……あいつら、見栄っ張りで、船の装飾だけは一人前なんですがね」
ガトーが顎でしゃくると、うちらの傘下に入っていた武闘派海賊・赤鯱一家の船長が、横から「チッ」と忌々しそうに舌打ちをした。
「……姉御。あいつらの船長は、俺と元々同じ『鯱一家』で育った兄弟分なんです。俺が武闘派で、あいつが見栄っ張りで方針が合わなくて喧嘩別れしたんですが……相変わらず悪趣味な成金船に乗ってやがる」
「ほう、赤鯱の元兄弟分か! ええやないの! ハデハデでうちの趣味にピッタリや! ……でも、なんやあの船員たち。えらいお通夜みたいな顔して、船体磨いとるで」
うちが特大のサングラスを押し上げて目を凝らすと、金ピカの船の上で、海賊たちがまるで死んだ魚のような濁った目をして、無言で甲板を雑巾がけしとるんや。
うちらが桟橋に降り立つと、金ピカの羽織を着た痩せこけた男――金鯱一家の船長が、うちの姿を見るなり、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしてすがりついてきた。
「うおおおっ! 派手な服に特大のトング! あんた、最近この海を回ってるっていう『噂のオカン』だな!? 頼む、俺たちを助けてくれぇぇっ!」
「おい金鯱! お前、その情けない姿はなんだ!」
赤鯱の船長が呆れて怒鳴るが、金鯱の船長は元兄弟分の姿を見ても言い返す気力すらなく、甲板に突っ伏して男泣きに泣き崩れた。
「……俺たち、もう終わりなんだ……! この船、明日には『差し押さえ』られちまうんだよぉっ!」
「差し押さえ? 海賊の船が?」
アレンが不思議そうに首を傾げると、金鯱の船長は情けない声で白状し始めた。
「……俺たち、見栄を張ってこの特注の豪華船を『ローン(借金)』で買ったんだ。でも最近は、アルビオン帝国の軍艦や他の海賊のせいで略奪が全然うまくいかなくて……。稼ぎが安定しねぇから、悪徳な高利貸しから金を借りて、借金を借金で返す自転車操業になっちまって……」
「……」
あまりにも生々しい「お財布事情」に、うちは呆れて言葉を失った。
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「ヒッヒッヒ! おや、見苦しく泣いているねぇ。約束の期日は明日だが、もう今からこの船は俺のものとして引き取らせてもらおうか」
その時、桟橋の奥から、ヒキガエルのように腹の出た、いかにも悪徳そうな高利貸しの男が、屈強な用心棒を十数人も引き連れて歩いてきよった。
「ひぃっ! カリマの旦那! ま、待ってくれ! あと数日あれば、必ずデカい商船を襲って金を……!」
「うるさいねぇ! お前たちの借金は、利息が膨らんで元本の五倍になっているんだよ! もう一生かかっても返せまい!」
高利貸しが下卑た笑いを浮かべて借用書をひけらかす。
だが、その借用書は、うちの特大ゴミ拾いトングによって、横からスッとひったくられた。
「……なんやこれ。トイチどころか、十日で五割の利息!? どんだけボッタクリやねん! 法定金利をなんやと思とるんや!」
うちが借用書を睨みつけて怒鳴ると、高利貸しは鼻で笑った。
「法定金利だと? ここは無法地帯の海賊島だぞ! 法律なんて知ったことか! 用心棒ども、その派手な女を海に叩き落とせ!」
「……無法地帯やからって、オカンが無法を許すと思たら大間違いやで! アレン! アーニャ! ガトー! ゴミ掃除や!」
「「「応ッ!!」」」
うちの号令と同時に、アレンの神速の峰打ちが用心棒たちの足をすくい、アーニャの双剣が彼らの武器を弾き飛ばし、最後は巨漢のガトーがまとめて海へと蹴り落とした。
「ひぃぃぃッ!? ま、魔の海域の悪徳ボス・ガトー!? なんでお前がそんな女の下働きに……! 覚えていろぉぉっ!」
高利貸しは、悲鳴を上げながら用心棒たちと一緒に小舟で逃げ去っていった。
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「……た、助かった……。ありがとう、オカン! でも、借金が消えたわけじゃねぇ……。俺たち、これからどうやって食っていけば……」
船長が絶望したように項垂れる。
うちは借用書をビリビリに破り捨てると、パイプ椅子を広げて彼の前にどっかと座り込んだ。
「アホか! 海賊なんてな、水商売以上に収入が不安定な『日雇いドカタ』みたいなもんや! いつ捕まるか分からん、いつ儲かるか分からん仕事で、こんな豪華客船のフルローン組むなんて、計画性がなさすぎるわ!」
うちのド正論のオカン説教に、船長や海賊たちは返す言葉もなく俯く。
「あんたら、船をピカピカに磨くのだけは得意みたいやな。……ほな、おばちゃんが『ええ仕事』紹介したるわ。不安定な略奪なんかやめて、うちらの『正規の運送業者』になりなはれ!」
「せ、正規の……運送業者?」
「せや! ルミナの街や大和郷を繋ぐ『世界商圏プロジェクト』の、安全・安心な物流を担う運送・護衛部隊や! お給料は完全歩合やなくて、毎月安定の『固定給』! ボーナスあり! 危険手当あり! おまけに、おばちゃんの飴ちゃんっていう特大の福利厚生付きやで!」
うちはアイテムボックスから、前向きな活力を生む赤色の「リンゴ味」の飴ちゃんを取り出し、船長の口にポイッと放り込んだ。
「んぐっ……! こ、これは……! 甘い……。それに、なんだか急に、頭の中のモヤモヤした借金の不安が消えて……明るい未来が見えてきたぞ……!」
リンゴ飴の魔力が、彼らの心にこびりついていた「借金地獄の絶望」を、強引に「働く意欲」へと塗り替えていく。
「安定した固定給……! まっ当な仕事……! 俺たち、もう明日の飯に怯えなくていいんだな!?」
「当たり前や! あんたらのその無駄にハデな船、うちの商会の『広告塔(宣伝トラック)』として使わせてもらうで!」
「おおおぉぉぉッ!! 一生ついていきやす、オカン社長ぉぉっ!!」
金鯱一家の海賊たちが、泣きながら一斉に甲板に土下座した。
無法者の海賊を、まさかの「固定給と福利厚生のホワイト企業」へとビジネスモデル転換させてしまったおばちゃん。
特大の広告塔となる金ピカの船を手に入れ、オカン・ユニオンの艦隊は、いよいよ帝国の軍艦すらも震え上がる巨大な「海の商社」へと変貌を遂げていくんや!
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