第165話 ボロボロの王都貴族と、女帝エルゼの通信簿
クラーケンの圧倒的な暴力によって、アルビオン帝国の軍艦三隻が海の藻屑となった後。
嵐が過ぎ去ったような静寂の海に、奇跡的に沈まずに浮かんでいたグランシェル王国の商船へと、うちらはガレオン船を横付けした。
「おーい! 生きとるかー!」
うちが特大のゴミ拾いトングを肩に担いで甲板に乗り移ると、そこはまさに惨状やった。
マストはへし折れ、甲板には巨大な吸盤の跡がベッタリと残っとる。
そして船の隅で、豪華な絹の服を泥と墨まみれにした数人の男たちが、身を寄せ合ってガタガタと震えとった。
「……ひ、ひぃぃ……。た、助かったのか……。化け物は……帝国の軍艦は……」
顔を上げたのは、いかにも王都の「お偉いさん」といった風体の、ふくよかな中年貴族やった。
「バケモノなら、軍艦ごと海の底に帰っていきよったわ。あんたら、うちの占いで『星』のカードが出てた通り、ギリギリのところで命拾いする『悪運の強さ』持っとったみたいやな」
うちはアイテムボックスから、精神安定の「オレンジ味」と、怪我を治す「レモン味」の飴ちゃんを取り出し、震える貴族と船員たちの口に放り込んだ。
「んぐっ……! こ、これは……。……はっ! 痛みが引き、震えが止まっていく……!」
貴族が飴を舐めて落ち着きを取り戻したのを見計らい、隣にいたアレンが西の大陸の長剣を片手に、鋭く問い詰めた。
「僕はルミナ侯爵家筆頭騎士のアレンだ。王都の貴族が、なぜこのような魔の海域の深部にいる! 一体何があった!」
「ル、ルミナの騎士だと!?」
貴族はアレンの顔と、うちのヒョウ柄のポンチョを見て、ハッとして顔を青ざめさせた。
「……まさか、貴女が噂の『ルミナの派手な占師』か! なぜ、こんな無法地帯の海に……!」
「質問に答えるんはそっちが先や! なんで王都のどんくさい貴族が、わざわざアルビオン帝国に喧嘩売るような真似して、新大陸を目指しとったんや?」
うちがトングの先で貴族の鼻先をビシッと指すと、彼は観念したように、項垂れて口を開いた。
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「……すべては、あの『エルゼ・ルミナ』のせいなのだ」
「エルゼちゃんが?」
「そうだ! あの女狐……いや、女帝は、あなた方が浄化した旧公爵領を拠点に、魔族領や大和郷との『世界商圏』を確立し、今や王都の経済すら完全に牛耳っている! 我ら伝統ある王都の貴族は、あの小娘の顔色を窺わねば、冬の魔導燃料すら買えんのだ!」
貴族が、ギリッと悔しそうに歯を食いしばる。
「しかも、あろうことか、あの女は西の覇権国である『神聖アルビオン帝国』相手に、関税と利権で一歩も引かず、バチバチの経済戦争を仕掛けている! おかげで今、我がグランシェル王国とアルビオン帝国は、いつ全面戦争になってもおかしくない『一触即発の険悪な状態』なのだ!」
「ほーん。エルゼちゃん、ちゃんと『社長業』頑張っとるみたいやな」
うちはニヤリと笑って、アレンと顔を見合わせた。アレンも誇らしげに口角を上げとる。
「笑い事ではない! このままでは国がルミナに乗っ取られるか、帝国に滅ぼされてしまう! だから我ら王都の貴族は、ルミナの経済圏に頼らず、この海を越えた『新大陸の莫大な資源』を独自に確保して、帝国に対抗しようとしたのだ!」
「……なるほどな。エルゼの成功に焦って、現場の恐ろしさも知らんエリートが、無謀な新大陸開拓を強行突破しようとしたっちゅうわけか」
うちは呆れ果てて、大きな溜息をついた。
「アホか。海を舐めたらアカンで。この海域は、帝国の軍艦ですら海賊やバケモノに手を焼く『魔の海域』や。あんたらみたいな温室育ちの坊ちゃんが、札束握りしめて通れるほど甘い道やないわ!」
「ううっ……。仰る通りだ。我々の船団は、帝国の巡回艦隊に見つかって砲撃され、さらにあの恐ろしい化け物に……」
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貴族は、情けなく両手で顔を覆って泣き崩れた。
「……やれやれ。まぁ、エルゼちゃんがしっかり国を回してるって分かっただけでも、ええ通信簿(報告)やったわ」
うちはパイプ椅子を広げて座り、彼らに向かって宣言した。
「あんたら、このボロボロの船じゃ王都に帰るのも無理やろ。……ガトー! ちょっと来なはれ!」
「へい! 姐さん、お呼びで!」
元悪徳ボスのガトーが、雑巾を片手に嬉々として飛んできた。
「このおっちゃんら、あんたの小船に乗せて、中立港のトルーガ島か、安全な海域まで送ったってや。そこでルミナ行きの商船に乗せたるんや」
「分かりやした! お任せくだせぇ!」
「……あ、悪名高き海賊のガトーが、なぜ下働きのような真似を……!? あ、貴女は一体、この海で何をしているのだ……!」
貴族が、ガトーの忠犬ぶりを見て完全に理解の範疇を超え、白目を剥きそうになっとる。
「決まっとるやろ。エルゼちゃんが王都で帝国相手にバチバチやってるんや。おばちゃんは、この新大陸への航路の『掃除』や」
うちは立ち上がり、西の荒れ狂う海を真っ直ぐに見据えた。
「帝国と戦争一歩手前なんやったら、この海域に散らばる『三十の海賊団』を全部おばちゃんの身内に引き入れて、帝国の軍艦なんか一歩も通れんようにしたるわ! 究極の海上封鎖(嫌がらせ)やで!」
王都の貴族から引き出した、エルゼの頼もしい近況と、帝国との戦争の足音。
それを聞いたおばちゃん一行は、アルビオン帝国への特大の対抗策として、未知なる海賊諸島の「島巡り(お悩み解決)」を、さらに猛スピードで加速させていくんや!
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